父が退職したのを機に、温泉旅行を計画した主人公と兄と姉。兄は会社員として家を出て、姉は結婚して家を出ていた。家に残ったのは、大学生の主人公だけだ。そして、母の記憶がないのも、主人公だけだった。母は主人公が幼い頃に亡くなり、それ以来、父は丸くなった。兄姉の父の印象は怖い人だったが、主人公にはそれが信じられなかった。兄と姉は歳が離れているせいか、主人公に甘い。そして年の近い兄姉はじゃれ合うようなケンカばかりだ。
父はそんな兄弟を車の中で笑っていた。休憩をはさみながら目的の観光地に着き、念願の温泉につかる。豪勢な食事に布団。旅の疲れを癒すように、家族は眠りに落ちた。そんな明け方、父の散歩に主人公が付き合う。そこで明かされたのは、父の秘めた思いだった。家族の中で母の記憶を唯一持たない主人公は、家族がそろうと疎外感を感じていた。しかし、父の想いを知った主人公は、自分がどれだけ愛されてきたのかを知る。
そして隠された父の体の事と、母との思い出。
これは、ずっとつながる家族の記憶。
ロードストーリーでありながら、旅の随所に家族の思い出が、自然に織り込まれているところが、とても魅力的でした。また、家族という普遍的なものを扱いながら、最後には主人公の成長も盛り込まれており、本当に拝読できて良かったです。
是非、御一読下さい。