25話『怪しい少女』

10日はリアルの都合で投稿出来ませんでした

短めですが、キリのいいところがここだったのでご容赦ください


――――――――――――――――




「痛ぁ……」

 

 ハナは、後頭部に感じる鈍い痛みに体を丸めた。

 頭を押さえようと動かした腕に湿った感触があり、ゆっくりと目を開く。

 

「あれ……?」

 

 ぼんやりとした視界が次第にはっきりしていくと、自分が不思議な空間に横たわっていることに気づいた。

 木の根が絡み合って形成された天井や、苔に覆われた岩石によって囲まれた壁。

 ハナは未だ残る痛みに顔を顰めながら体を起こすと、自身の横で倒れるラスティンの姿を発見した。

 

「ラスティンさん!」

 

 動かないラスティンに、ハナは慌てて声をかけながら、筋肉の塊のような巨体を揺する。

 

「うーん……」

 

 地鳴りのような呻きの後にピクリと動いたラスティンは、ゆっくりと起き上がろうと藻掻くが、努力虚しく脱力した。

 

「あっ……そっか、狂戦士バーサーカーモード……」

 

 頭に残った最後の記憶から、ラスティンが狂戦士バーサーカーモード後に襲われる極度の疲労状態であることを思い出したハナは、近くに転がっていた愛用の杖を拾い上げ魔力を練った。

 

「光よ、天より舞い降りし癒しの力、今授けたまえ。『ヒール』!」

 

 ハナが一つ一つ紡いだ詠唱から生み出された回復の光は、優しくラスティンを照らすし、僅かではあるが体力を回復させる。

 三度ほど『ヒール』をかけると、ようやく動けるようになったラスティンが、体を慣らすようにしながら起き上がった。

 

「すまん、助かった」

「いえ、この程度しか出来なくてすみません。私の杖、水魔法とは相性いいんですけど、回復魔法は少し扱いづらくて……」

 

 申し訳なさそうにするハナに、ラスティンは「大丈夫だ」と笑うと、真横で地面に突き刺さるフォルクスを抜き、鞘に納めた。

 そして、周囲を見回して、

 

「ここはどこだ? 確か俺たち地面に飲み込まれて……」

「はい……女の子を追いかけてたら根に襲われて、それから……」

 

 記憶を探っても、急な襲撃を受けたところで止まった意識のせいで、現在の状況が掴めない。

 ラスティンも索敵スキルに反応する影がないことに、眉を寄せながら注意を怠らない。

 今のラスティンに戦闘能力はない。さらに上の段階の奥の手を使えば可能だが、使ってしまえば後が無くなるため、体力が回復するまではハナがもしもの時は戦うことになる。

 杖を握る手に力を込めながら、ハナは感覚を研ぎ澄ませて周囲の魔力を感じ取る。

 魔力を情報網とし周囲の様子を知る技術は、魔導師の中でもごく一部の者しか使えない高度な技術だ。範囲は広くはないが、ハナはそのごく一部の内の一人。目視よりも多くの情報を知ることが出来る。

 

「地上は見えませんね……地中の中ということでしょうか……地下には水脈……でも……水、じゃない……?」

 

 ブツブツと掴んだ情報をハナが整理していると、回復した僅かな体力で小さな『エネルギーシャウト』を放つ。

 ただ超音波のような音が発せられるだけの『エネルギーシャウト』の反響を聞き、ラスティンはハナに低く潜めた声で、

 

「三時の方向、壁に穴だ」

「はい、私も見つけました。水の精よ、汝の拳で、我が敵を屠れ。『水弾』!」

 

 早口で紡がれた詠唱によって生み出された水の塊は、表面を波打たせながら空を駆けると、正確に壁を撃ち抜いた。

 

「ひゃあ!!」

 

 『水弾』が当たった壁から聞こえた悲鳴に、ラスティンはフォルクスを、ハナは杖を構えて、巻き上がった土煙を睨む。

 やがて収まった土煙の向こうに目を細めると、壁が砕かれできた穴にいたのは白いワンピースを着た緑の髪の少女。

 背丈からして十歳程度だろうか。少女は砕かれた石の壁と向けられた杖の先とを、驚いて何度も視線を往復させる。少女の着ている服は、森でハナが追っていた少女と同じ布に見える。後ろ姿もそっくりなため、同一人物と捉えていいだろう。

 穴は、さらに奥へと続いているようで、焦って逃げようと少女が駆け出す。

 しかし、そう何度も逃げられるハナではない。

 

「ごめんね、『アイスウォール』!」

 

 ガツンっと地面に杖を打ちつけると、無詠唱で展開された魔法が地面を這って水分を凍結させ、少女の行く手を阻む氷の壁を作り上げた。

 無詠唱で作られた壁のため、詠唱ありの壁よりも脆いが、それでも魔力を凝縮する技術の下に立ちはだかる氷は、金属と同等の硬度を持つ。

 当然少女に壊すことは出来ず、怯えたように壁に張り付いた。

 

「少し話を聞いてもいい?」


 出来るだけ安心させるような声音で言うハナに、ラスティンもフォルクスを自分から離れた位置に突き刺し、敵意がないことを証明する。

 すると、少女は怯えながらも恐る恐る頷いた。

 それを確認してから、ハナは杖を下ろして柔らかく微笑んだ。

 

「さっき森で逃げてた子だよね? ここがどこだかわかる?」

 

 優しく放たれた言葉に、少女は恐る恐る小さな口を開く。

 

「あの……さ、さっきはごめんなさい……その……助けて欲しくって……強い人を探してたの……」

「助けて欲しい?」

 

 突然の予想外の言葉にハナが首を傾げると、少女は足をするようにしてぎこちなく二人に近付いた。

 

「倒して欲しい相手がいるの……じゃないと……私達は殺されちゃう……」

 

 私達というところが引っかかったが、ハナはラスティンとアイコンタクトする。「話だけとりあえず聞こう」と肩を竦められ、ハナは困ったように少女に向き直った。

 

「倒したい相手って? 色々聞きたいことはあるけど、私達に出来ることなら協力するよ」

 

 明らかに怪しい少女だが、敵意らしいものは感じられない。それに、殺されると怯えた様子に、どこか放っておけない気がした。

 

「倒して欲しい相手っていうのは……ヒドラっていうの……」

 

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Flower of Dragon 〜九人で異世界攻略してみた〜 三木 @mitsuki_ryuuga

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