第11話:破壞の一撃
「………は?」
……え? 何で?? 死んだはずじゃ────
「モォォォォオオオォォォォーーッ!!!」
二度目の叫声。何故か、既に腹の大穴は塞がっていた。
これは、豚王の《自己再生》スキルのせいなのだが、混乱している虹星は気付いていない。
俺が思案している間。怒り狂った豚王が激情に身を任せ勢いよく突進してきた。
「ッ!? 今はそれどころじゃねぇ!!」
まさかの事態に、茫然自失の状態だったが、豚王の突進ですぐさま我に返った。
「モォォォッ!!!」
怒りにより、力を増した豚王が、般若の如き形相で大鉈を大上段から振り下ろしてきた。
──────ドガァァァン!
「おわぁっ! あっぶねぇ!!」
刹那に《存在強化》を発動。神速の斬撃を
が、完全には避けきれず、自身の頭髪を剣先が掠めた。
振り抜いた大鉈が、地面を深く
「ブモォッ!?」
まさか、こ自身の一撃が回避されると思わなかったのか、「ありえない!」という風に思わず驚きの声を上げた。
豚王が驚き、鉈を振り抜いた状態で固まっている間にすぐさま後退。
牽制の意味も込め、バットを前方へ持ってきて正眼の構えをとり、息を整える。
「……はぁ……はぁ……」
あっぶねぇ………。マジかよ。《存在強化》のおかげでギリギリ避けられたわ。今まで一発で終わってたから油断してた……。
マジでビビった。頭掠ったし。この年齢で禿げちまうよ。
それはさておき、どうする? 前述した通り俺は戦闘経験が全くない。
正面から
初めての命を賭けた戦い。緊張と恐怖で思考が纏まらず、身体からも冷や汗が止まらない。
「ブゥモォォォオオォォオオーーッ!!」
「ッ!!」
俺が纏まらない思考で自問自答している間も豚王は突進、攻撃を嵐のように継続してくる。
ブゥゥゥン─────────ドガァァァンッ!!!
その一撃一撃が、直接大岩をぶつけられたかのように重い。
衝撃によって、大気も鳴動しているかのように震える。
「ッ!? おいおい! 音どうなってんだよ! 地面めっちゃ抉れてるし!」
これも、地面を転がることで回避。今度は運良く完全に避け切れたようだ。
瞬時に後退。息を整える。
てか、めっちゃ地面
当たったらひとたまりもねぇよ! こんなのどう勝てってんだ!
チートだチート! 訴えるぞこの野郎!
閑話休題。
近接戦に持ち込もうにも、武器のリーチが
しかも、こうやって自問自答している間も、豚王は突進と斬撃を絶え間なく繰り返してくる。
俺はそれを無様に転がって回避することで、なんとか逃げるのが精一杯の状態だ。
時には頬を掠め、時にはユニフォームを掠め、傷を増やしながらギリギリの回避を続けていく。
このギリギリの回避だって、無限に続けられるわけでも無い。
俺だって人間。もちろん、体力の限界はあるのだ。
「ブ、ブヒヒヒッ♪」
「ハァッ……ハァッ……」
必死で回避すること、これで八回目。
精神的、身体的な疲労により、体力も残り僅かだ。
普段ならもっと体力があるはずだが、突然の転移に何も分からないまま戦い続けて──といっても“破壞の死球”で一発だったけれども……。───既に体力も消耗している。
豚王は、俺が無様に転がっているのを嘲けるように、口の両端を吊り上げ嘲笑している。
……めっちゃムカつく! だが、流石にこの状況はヤバい。
なにか……何かないのか! どうすりゃいい!!
俺が今置かれている状況から半ばパニック状態で自問自答していると、ある『モノ』が視界の端に映る。
それは、天井を埋め尽くすほどの─────鍾乳石。
そう。何千、何万と年月を経た巨大かつ鋭利な鍾乳石が頭上に幾多にもあったのだ。
「……ッ!」
鍾乳石というキーワードで俺はふと脳内で電撃が走ったかのように作戦が
これは………イケる、かもしれない。
俺は自分の作戦を行動に移すため、
そのまま、豚王の周りを迂回するようにグルグルと疾走していく。
「……ブヒィ?」
どうやら、いきなり無様に逃げ回っていた獲物が走り出したのに驚いているようだ。
……よし。そのまま俺の作戦が終わるまでボケッと呆けていやがれ。
疾走しながら握ったボールへ《
完成した“
「ラァッ!!」
放ったボールが、赤黒く赫々とした軌跡を描きながら───────鍾乳石の根元を穿ち、貫いた。
バキィィィン─────────ドッガァァァアアァァァンーーーッ!!
周りの鍾乳石も巻き込み、上空から加速しながら豚王目掛け、高速で落下していく。
激しい落下音を周囲へ轟かせながら、豚王の右腕へ
「ブヒィィィィーー!!!」
先程の怒り狂った威勢はどこへ行ったのか。
豚王の情けない
「よしっ!」
作戦が思いの
そう。作戦というのはあのモン〇ン・ワールドの落石のやつだ。
前の世界でやったことはなかったが、実況で見ていたから閃いた。
ありがとうモン〇ン。助かった。
だが、まだ確実に殺し切れていない。
鍾乳石が命中したのは右腕だけ。油断は禁物だ。
豚王の動きを、鋭い視線で監視し続ける。
そのまま細心の注意を払っていると、先程より明らかに怒り狂った形相で此方へ向いた。
見ると、右腕は既に完治していた。
あれが、ステータスにあった《自動再生》スキルか。厄介である。
すると、豚王は狂ったかのように大鉈を振り回しながら叫声を上げて、先程よりも明らかに速い速度で突進を繰り出してきた。
「ブ、モォォォォオオオォォーーーーッ!!!」
「くっ! もう打つ手ないんですけど!! 勘弁してくれませんかねぇ!?」
豚王が踏み締めた地面が、圧倒的な膂力により砕け、土塊が舞った。
そのまま再度、突進で勢いをつけた大鉈をブォォンという物騒な轟音を大気に唸らせながら、横一文字に薙ぎ払ってきた。
素人が止められるわけがない神速の斬撃。
絶体絶命の、大ピンチだ。
だが──────
「───ッ!?!!」
豚王が横薙ぎの斬撃を放ってくる、刹那。
突如として、俺の周囲から色彩が失われたかのような錯覚に陥った。
豚王の攻撃が、やけにスローモーションに見えた。
これが、スポーツ選手とかによくある───俗に言うゾーンという、モノかもしれない。
突然のことで混乱するが─────時間が惜しい。
そのまま思案する。
俺が今考えている対処法は、一つだけ。
真っ向から太刀打ちし、バットによる近接戦で一気に勝負を決める、だ。
しかし、これに力負けしたり、回避が遅れた場合。
要するに、失敗すれば本当に
だが────勝つためには、やるしかない。
……大丈夫だ。
俺なら、絶対に、出来る。
まだ、ここで死ぬわけには、いかないんだ。
自信を付けるため、心の中でひたすら己へと鼓舞し続ける。
そして、鼓舞すること体感で五分ほど。
実際は、一秒も満たない時間が経ったとき。徐々に周囲の色彩が戻ってきた。
覚悟はもう、決まっている。
「──フゥー………」
……無意識に深呼吸をする。
改めて、リラックスした状態で前方を見やる。
既に豚王の斬撃が、間近に迫っていた。
だが、先程とは違い何故か慌てず、冷静でいられた。
身体も先程よりしっくりときていて、やっと自分の身体が完全に馴染んだような感じだ。
今ではもう、誰にも負ける気が、しない。
そのまま、冷静な心情で豚王の猛烈な横薙ぎを刹那にしゃがんで回避。
それと同時に、瞬時にバットへ『
そして、総身をあらん限り使い、豚王の下半身目掛けて横一文字に─────振り抜く。
我流スキル、発動─────
「───“
直後。
─────ドパァァァァァンッ!!!
「ブヒィィィィーー!?」
風船を割ったような強烈な破裂音。
豚王の慟哭が洞窟内に響き渡った。
我流スキルにより、豚王の下半身を根こそぎ破壞────消失した。
大量の鮮血が宙を舞い、大地へと降り注ぎ、紅へと染め上げた。
「はぁ……はぁ……」
それは、地球という温室育ちの虹星にとって、人生で初めての全身全霊の攻撃だった。
厄介な《自動再生》スキルが心配だったが、傷口は再生していない。
どうやら、『
「ブ、ブゥ……っ」
だがしかし、下半身を消失しながらも、しぶとく生き残った豚王が、必死に地面で
それを見て、少し驚愕した。既に先程の攻撃で死んでいたかと思ったが、まだ生きていたようだ。
バットをぶら下げ、ゆったりとした歩行で豚王の下へ歩いて行く。
まだほんの少し残っていた魔力の残りカスを全てかき集め、《
それをバットへ纏わせてから、豚王の頭部へと無造作に───────振り下ろした。
────ドスッ。
その一撃で、豚王は呆気なく絶命。
光の粒子となり、宙へと消失していった………。
ちなみに、俺の方はというと───────……。
「ヤバい……。もう、ムリ……。限界です……」
魔力を使い切り、魔力枯渇状態へと移行していた。
ちゃんとした戦闘を終えたことで、気が抜けてしまったようだ。
周囲に新たな魔物がポップしていないかを確認───大丈夫のようだ。
確認し終わると、その場で崩れ落ちるかのように大の字で寝っ転がり、瞬間寝落ち。
一瞬間にして爆睡したのだった。
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