第6話:ソードタイガー・亜種

  ──〔ステータス〕──

[名称]ヴァイス

[種族]ソード・タイガー(亜種)

[レベル]866


 「ッ!?……………(はぁ!?)」


 魔物に気付かれるとヤバいので手を押さえながら小声で器用に叫ぶ。

 ……あっぶねぇ。思いっきり叫ぶところだったわ。

 先程も言った通り《鑑定》のスキルレベルが低いせいで簡易なステータスしか見えない。

 が、その少しの情報でも強敵であるつよいことが理解できた。

 俺は圧倒的な威圧感プレッシャーに身体を少し硬直させながらも、その全容を観察していく。

 少ししか硬直しなかったのはこの異世界に来たおかげで手に入れられた、この高性能な肉体の恩恵だ。

 全身は黄金の体毛で包まれ、しなやかで強靭な四肢や元の世界むこうでは絶対にありえない四メートル近くの体躯。

 妖し気に揺らめく赤眼。さらに、その巨体に見合う猛烈な威圧感プレッシャー

 あいつソード・タイガーのいる場所だけ、別世界のように感じるほどだ。

 ……ええ? 俺の見間違いじゃないよな……? なんかレベルが明らかに高過ぎるし、ラノベでは強者特有の名持ちネームドなんだけど、見間違いじゃないよね? しかも亜種じゃねぇか。絶対に序盤に出てくる魔物じゃねぇだろ。

 ……ははっ、絶体絶命じゃヤバくねぇ?………あっ、こっち向く。


 「へっ、ここは逃げるが勝ちだぜ!」


 見つかって殺される未来ヴィジョンが見えたので足音を殺して、全力の忍び足で元の道を戻っていったのだった。


 「ふぅー………何とか逃げ切ったぁ~………」


 無事に逃げ切った俺は、硬い地面に黙ったまま寝っ転がった。

 息を整え、深呼吸。さっき言ったことを復唱する。


 「……はぁ……はぁ……って、何だよあれ! 絶対に序盤に出る魔物じゃねぇだろ!! ゲームバランス崩壊してるって!!! ……まあ、ゲームじゃねぇけどさ…………」


 意気揚々と探索して、すぐにビビッておめおめと逃げ帰ってきた訳だが、成果が無い訳ではない。

 人間にレベルは存在しないが、魔物には存在していることが確認できたことだ。

 この龍の洞窟について何も手元に情報がない今、これだけでも大きな成果だと言える。


 「にしても、レベル866かぁ………基準を知らねぇからどれほどの脅威度か分からねぇけど、普通に高過ぎるだろう………」


 見たら分かる。あいつ絶対強いやばいやつやん。

 はぁ…………。これは作戦の変更が必要になるな………。

 え? 作戦あったのかよ? ああ、違う違う。

 作戦ていうのは、ただ──猪突猛進! 電光石火でスキルを使って強引に正面突破!! ──っていう作戦であって、作戦じゃないようなものなんだよね。

 作戦について、自分の頭の中で脳内会議や試行錯誤することしばし。

 俺は無事、作戦を立案させることができた、と思う。

 今回の作戦は……ズバリ! 魔物てきに見つかる前に奇襲からの速攻で一気に仕留める、だ! 

 名付けるなら──先手必勝! 誰でも簡単♪ 楽々な倒し方!! ──で、行こうと思う。

 あっ……言い忘れてたけどさっきの虎のところは今のところ最後に行く予定だから。

 決してビビっているわけじゃないからね?あの威圧プレッシャーに当たってチビりそうになったとかじゃないからね?


 閑話休題。


 その場で数回、素振りや身体をほぐす。今度は時計回りにさっきのトンネルから一つ右のトンネルに入った。

 俺は願った。今度は弱い魔物でありますように。せめて、せさっきの虎よりも弱い奴にしてくれ、と。食料問題とかあるからね。

 バッティンググローブを付け忘れていたので着け、眼鏡を掛け直す。

 そのまま、深く、息を、吐く────────気合い、十分だ。


 「はぁー………ふぅー………よし、行くか!」


 そして一人のユニフォーム姿の少年がゆっくりとトンネルに吸い込まれていったのだった。

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