第1話:プロローグ

 「──はぁ~……あっつ~……」


 季節は真夏、七月の中旬だ。

 まだ朝なのにも関わらず、気温は四〇度近くもある。

 身体の芯まで燃えるような炎天下の日差しが地面コンクリート燦々さんさんと照りつける中、一人の少年がダラダラと歩いていた。

 少年の名は辰巳虹星たつみこうせい

 至って普通の高校二年生だ。たぶん。

 中肉中背。容姿普通。黒髪に少し珍しい茶目。

 髪はスポーツ刈りで上に逆立っている。

 これから硬式野球の地区予選があるので、試合会場へと向かっている途中なのだが──────……。


 「はぁ……。

 完っ全に迷っちまった……マジでやべぇよ……」


 試合会場まで本来なら駅から一五分弱なのだが……。

 その距離でさえ俺の方向音痴が自動的にオートで発動してしまい、こうして道に迷ってしまったのだ。


 「何故だ………。

 何故、俺は方向音痴に生まれてきてしまったんだ……」


 自身を呪うように呟く。

 このクソ暑い灼熱地獄しゃくねつじごくの中でずっと歩いていたら、そのうち干涸ひからびて死んじまうよ……。


 現在の時刻は八時半。

 会場の集合時間が八時二〇分なのでとうに過ぎてしまっている。

 一応、監督に遅刻連絡を入れておいたが気が進まない。

 進まないものは進まないのだ。

 俺のチームの試合は二試合目からだが、事前練習に遅れるのは申し訳ないし……なにしろ仲間チームメイトに合わせる顔が無い。

 マップアプリを使って行こうにも現在地は不明。

 使用方法は覚えていないし、見方も分からないという状況だ。

 偏差値四十台の頭でどうすれば良いか自問自答しながら歩いていると、自分がいつの間にか見知らぬ路地裏にいることに遅れて気がついた。


 「……ん?

  どこだ、ここは……?」


 あたりは薄暗く蒼然そうぜんとしていて、少し気味が悪い。

 俺はこのような場所が大の苦手なので(ビビりとも言う)早々に引き返そうとしたその、瞬間─────

 足下から地面を踏み締める感覚が忽然と消失────感じたことの無い浮遊感を覚えた。


 「……は? えっ!?」


 何故か地面が突如として消滅。

 真下に底無しの闇の穴が出現していた。

 脳内は混乱でパニック状態へと緊急移行。

 もちろん、この状態で俺が出来る抵抗なんてものは一つも無い。

 結果。

 為す術なく真っ逆さまに自由落下。

 勢いよく底無しの闇の穴へと吸い込まれていった──────────────………。


 「えぇぇぇぇぇぇぇー!?

 なんでだよぉぉぉぉぉーー!!」


 ………。

 ……。

 …。


 ……少年が落下した直後、瞬時に闇の穴が消失。

 後には少年の叫声が不自然なほど静かだった路地裏にキンキンと木霊したのだった─────……。

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