殺しの理由

アール

殺しの理由

ある時、1人の青年が逮捕された。


サラリーマンをナイフで刺し殺した凶悪犯。


全国指名手配されていた彼を追い続けていた警察は、とうとう捕まえることができたのだ。


と言っても、捕まえるには何年もの年月を有してしまったが。


彼は過去に逃走したどの犯人と比べても、

とてもしぶとかった。


非常線を警察にはられており、

徒歩や車、また電車などでは逃げられない事を

悟った彼は、なんと自力で海を泳いで逃げたのだ。


これには流石に警察も動揺したが、ありとあらゆる手段を使って、どんどん彼を追い詰めていった。


それでも青年は逃げ続けた。


どんな手を使ってでも絶対に逃げ切ってやる。


そんな強い意志が彼からは感じられた。


しかしその逃走劇もようやく終わったのだ。


何台もの車を盗んで逃走した彼との必死な

カーチェイスの末、ようやく捕らえた警察は誇らしい気持ちでいっぱいだった。


そして世間を賑わせた逃走犯の青年の素性が露わとなる。


彼はとても若く、医者になるために大学に毎日通っていた、勉強熱心で将来有望な青年。


それが周りにいた知人の彼に対する評価だった。


だからこそ、彼らは首を傾げる。


「本当に信じられません。

彼が殺人を犯した事を聞いたときは嘘だと思いました……」











「……おい、一体どうしてなんだ。

どうしてサラリーマンをナイフで刺し殺した?」


警察署内の取り調べ室。


若い刑事の男が犯人の青年を問い詰めていた。


机を何度も叩き、青年に恐怖を与えてなんとか情報を引き出そうとしている。


だが、その顔は曇りに曇っていた。


何故なら何度尋問しても、青年から帰ってくる返事はこの言葉だけだったからだ。







「……分かりません。


本当に思い出せないんです。


気付いたら警察に逮捕されていて……。


だから刑事さんに、"お前は人殺しだ"と言われた時も信じられない気持ちでいっぱいでしたよ。


しかも殺されたサラリーマンの人と

僕はなんの接点もない。


だから殺す理由もないじゃないですか。


ああ、これは悪夢としか言いようがない。


一体どうしてこんな事に………………」






そう言って項垂れる青年。


若い刑事はお手上げだと言わんばかりに首を横に大きく振った。


その様子を見て、再び取調室のマジックミラーの外側から眺めていた刑事たちはため息をつく。


ここ数週間の間というもの、一向に捜査が進まないのだ。


確かに青年の言う通り、彼は殺されたサラリーマンとはなんの接点もない。


知人でもなければ親戚でもない。


ならどうして彼はサラリーマンを殺したりしたのだろうか。


医者を目指すほどの学力もあり、

将来有望だった筈。


なのにどうして彼は殺人者になったのだ?


殺しを含めた、

警察に捕まるまでの記憶が一切ない、

気付いたら警察に逮捕されていたと彼は言っていたが…………。


考えれば考えるほどわからなくなる。


一体何を調べればいいんだ……。


そんな事を思いながら刑事たちが頭を悩ませていると、机の上の電話がなった。


近くにいた捜査主任が出る。


「はい、私です。

未だやつは同じ事を繰り返すばかりです。

はぁ、しかし……。分かりました。

そのように致します……」


そしていかにも残念そうに受話器を置いた。


周りにいた部下の1人でその様子を見て恐る恐る尋ねる。


「なにがおこったのですか」


「上からだ。

今すぐヤツの捜査を終わらせろと。

被害者の遺族や、市民はいち早くやつの処罰を望んでいる」


「し、しかし。

まだ、ヤツから殺した理由を聞き出せていません」


「どうせヤツはガキだ。

というヤツだろう。

こんなのよくある事だ。

毎日のストレスが積もり積もって犯行に至った。

殺す相手は誰でも良かったんだろう。

だから偶然に目についたサラリーマンを狙った」


「で、でも。

ヤツはという不思議な供述をしています。

それについてはどうすれば……」


「そんなの、ヤツの嘘に決まっているだろう。

犯罪者はああだ、こうだと言ってなんとか罪を逃れようとする。

本当に見苦しいったらありゃしないぜ。

とにかく上からの命令だ。

そういう風にうまく処理しておけよ。

事件は毎日起こっているんだ。

こんな意味のわからない供述をする極悪犯に振り回されている暇はない……」


こうして青年の殺害理由は

「若さゆえのあやまち」となり、彼は刑務所に送られてしまった。


途中、彼は泣き叫びながら抵抗に抵抗を重ねたが、他の警察官たちに取り押さえられる。


また、その様子もテレビに取り上げられたため

余計、彼に対する世間の非難は強まっていった。












一方その頃。


地球より遥か上空の宇宙空間。


そこに一気の宇宙船が止まっていた。


その宇宙船から地球に向けて感知できない

特殊な電波が放出されており、その主である

クボ星人の1人が、どこかガッカリした様子でもう1人の乗組員に向かってこんな事を言っていた。


「あーあ。

またゲームオーバーになってしまったよ」


「おいおい、またやってるのか?


「まあね、楽しいんだよ。

警察ってヤツらから逃げ続けるんだ。

これが退屈しないんだぜ?」


「でもさ、大丈夫なのか?

地球人にとっちゃこの一年、立て続けに奇妙な殺人事件が連発してるって事になってるんだろ?

動機は不明、被害者と犯人の関係性も分からない。

普通なら大騒ぎする筈だがな」


「ああ、それなら大丈夫だよ。

操る地球人はだけって決めてるからな」


「……?

それってなんの意味があるんだ」


「それが不思議な事にだな。

地球では若いヤツが殺しをやっても、

理由がはっきりしない場合は

って動機で処理されちまうらしいんだよ」


「なんだよそれ、不思議だな」


「だよな。

やっぱり面白いよ、地球人って。

……まぁ、それより。

早く次のゲームを始めるか。

若いヤツなんて、地球には何人もいるからな……」






















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

殺しの理由 アール @m0120

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ