第11話 いい日旅立ち

カンカンと木の打ち付けられる音が響いている。

何事かと起きると、既に日が昇ってしばらくたっている時間だった。

服作りが長引いて眠れたのはかなり遅い時間だった。

だが、そのおかげでなんとか1着出来上がっていた。


部屋の隅に畳んで置いていた灰色の甚平を着てみると丈も合っており、上出来だ。

普通の甚平より袖と裾は長めにしてある。

これからの季節を考えて調整した。

若干重さはあるが、無視できる範囲だ。


天幕を出て音の聞こえる方に向かうと、昨日の模擬戦をした場所で騎士達が訓練をしていた。

何カ所かに分かれて木剣で打ち合いをしている。

集団で訓練をしている光景は前世の部活動の朝練を思い出させる。

嘘ついた。

俺は帰宅部だった。


ぼーっと突っ立って見ていると、俺に気付いた人から挨拶されるので丁寧に返していく。

朝の挨拶をきちんと出来る男ですよ、俺は。


「おはようさん。変わった服を着てるな。そんな服持ってたのか」


「おはようございます、テオさん。これは自分で作りました。ここの雑貨屋から布を買えたので、昨日の夜に一気に仕上げました」


「お前…、服まで作れるのかよ。出来ないことはないのか?」


「別に何でもできるわけでもないですよ。これ、結構簡単な作り方で出来ますよ。ほらこことか」


そう言って袂を開き、裏地を見せる。

ここに長すぎて余る袖を折り返して縫い込んであるので、引っ張って見せれば解ってもらえるだろう。

「ほー、なるほど。面白いな。けどこれなら長さの調整も簡単にできるな。よく考えてある」


そう言ってうんうん唸りながら甚平の裾やら襟やらを捲ったり引っ張ったりしている。


「なにしてんの、テオ…?」


「おう、エレイアか。見ろよこれ。アンディの手作りなんだけど、中々よく……あ・あれ、なんか怒ってます?」


こちらも訓練終わりなのだろう。汗と火照った体が健康的な美しさを演出しているエレイアが、テオの後ろに立っていた。

だがそれを打ち消すほどの怖さが、感情の無い顔をしているエレイアから感じる。

朝からお怒りなご様子。

一体なぜ?


「アンタ、アンディ君に何してんの…?」


「何って、だからこいつが作った服-」


そう言ってハッとした顔をする。

静かに怒っているエレイアと、何かに気付いて冷汗をかいているテオ。

何が起きているのかわからない俺だったが、今の状況を改めて見るとその原因が分かった。


子供の俺の服をテオが捲って頷いていた。

それをテオさんの後ろから見た場合、俺の体によからぬことをしている風に見えないこともない。

なるほど、児ポ法違反か。

いやこの世界にもあるかはわからんが。

ただ倫理的にまずいことは、やはりどの世界も共通なのだろう。

それは目の前の2人を見ると俺にも理解できた。


このままではテオさんが抹殺される(社会的に)!


「エレイアさん、これは」


「大丈夫、わかってるから。アンディ君は何も心配しなくていいのよ。罪は贖わなければならないの」


わかってない!勘違いです!

テオはエレイアの雰囲気に呑まれて動けないでいる。

いや、小刻みに震えてはいるな。

このままでは俺が動かないと最悪な未来しか待っていない。

これを回避させることができるのは俺だけだ。


『テオさんは俺の服を珍しがって見てただけなんですよ~』


『なぁーんだそうだったの勘違いしちゃった~うふふ~』


『『あはははは~』』


よし、完璧なシナリオだ。

たったこれだけで全てが丸く収まる。

さあ、言うぞ!


~~~っっだ、だめだ!エレイアさんが怖過ぎる!!

目線を巡らし、周りに誰かいないか探すが、目が合うと片っ端から逸らされる。

ええい!恐怖の王エレイアに立ち向かえる猛者はいないのか!


「訓練が終わっても戻ってこないと思えば…なにをやっている」


キタコレ。 真の勇者隊長顕わる!

この波に乗るしかない。


「隊長さん!いい所に!実はカクカクしかじかで…」


「これこれウマウマというわけか。…はぁ、わかった。あとは俺が引き受けたから、お前は団長の所へ行け」


「でもこれ……いえ、では2人をお願いします」


そう言って、そそくさとその場を離れていく。

正直結末が気になるが、あの場にいたくないのも確かなので、足早に団長の所へ向かう。


「失礼します。アンディです」


「おう、入れ」


天幕って入り口が垂れ布だけだからノックが出来なくて不便だよな。

入り口の横に木の板と棒でも取り付けてドアノッカーみたいに使ったら結構いい感じに思える。


中に入ると前回と同様の場所に団長が陣取っていた。

違うのは今回はテーブルの上に数枚の書類と筆記用具が載っていることか。

席を勧められたので失礼して着席する。


「ギリアムはどうした?一緒に来なかったのか?」


「広場でちょっと問題がありまして…。その始末に残りました」


テオとエレイアの名誉の為に真実をぼかして要点だけを伝える。

俺に出来るのはこれぐらいだ。

多分、あとで隊長から聞き出すと思うけど。


「そうか、まあいいか。今日呼んだのはこれを渡すためだ。昨日の模擬戦の礼だ。遠慮なく受け取れ」


そう言ってテーブルの上に置いてあった2枚の封筒を渡して来た。

これ羊皮紙じゃなくて植物の繊維で出来てるちゃんとした紙だ。


断りを入れて開けてみる。

これは……読めん。


「さっきギリアムから聞いたが、冒険者になるそうだな。ならヘスニルのギルドへ向かうのだろう?門を通るときに身分証が必要だが、そっちの小さい封筒の方を見せれば簡単に通過できる。もう一つのは教会への紹介状だ。それで書庫への立ち入りの手続きが免除される。文字の勉強をするならうってつけだろう」


おぉ、完璧だ。

俺に必要なものが全部あるじゃないか。

どうやらギリアムは俺の欲しいものを正確に団長に伝えてくれたようだな。


「ありがとうございます。これで安心して先へ進めます」


とりあえずヘスニルの場所と所要時間を確認してから、明日は準備に充てて、明後日にでも出発するか。

そういえば俺は今丸腰だが、なんか持った方がいいな。

雑貨屋で武器とか扱ってるかな。


団長に尋ねて、場所と所要日数は分かった。

流石に武器をくれとは厚かましくて言えないが。


「それで、いつ発つ気だ?」


「できれば早い方がいいかと。善は急げです」


団長が首をかしげているが、意味はくみ取れたようだ。

日本のことわざだし仕方ないね。


「善は…?珍しい言い回しだが、いい言葉だ。…そうだな、今日これからヘスニルへ向けて荷馬車が出る。今から急げばそれに同乗できるが、どうする?」


善は急ぎすぎだろ。

だが、好機だ。

徒歩での移動を考えていただけに、馬車での移動はありがたい。

馬車なら半日で着けるらしい。


「是非おねがいします。申し訳ありませんが、時間がないので今から準備に移りたいと思います。退室してもよろしいでしょうか?」


「ああ、構わん。必要なものは雑貨屋でヘスニルまでの荷物と言えば用意してもらえるはずだ。馬車は村前の広場で待つ。遅れるなよ?」


それを聞いて頷きを返してとっとと天幕を出た。

まずは自分の天幕に戻ってリュックを取ってこないと。

それから雑貨屋に行って、団の皆に挨拶と忙しくなる。


雑貨屋でヘスニルへ行くことを告げると、野営の道具と保存食をセットにしたものを勧められた。

馬車で行くから1日で着くとは言ったが、こういうのはもっておいたほうがいいらしく、押し切られた。


銀貨8枚とられた。

武器は置いてないらしく、弓ぐらいしかなかったので諦めた。

俺には魔術があるからいいんだ。

残念に思っていない。ほんとだよ?




昼前には準備も終え、広場で見送りを受けている。

団の全員ではないが、それでも結構な人数に別れの声をかけてもらった。

特に森からの付き合いで仲が良かった3人とはやはり別れが惜しい。


隊長とテオは男同士なので、あっさりしたもんだった。

テオが少し落ち込んでいたけど、あの後なにがあったんだろう?

エレイアに関しては雑貨屋で買い物をしている時に突撃してきて、半泣きであと1日あと1日だけと引き留めがしつこかった。


親愛の情からなんだろうが、美女に引き留められるのは前世含めて初めての事なので少しだけ嬉しい。

だが俺も旅立つと決めた一人の男だ。

心を鬼にしてきっぱりと別れを告げた。


そこからずっと俺の傍を離れず、広場までずっとついてきて、荷馬車を待っている間ずっと抱き着かれていた。


「アンディ君、体には気を付けるのよ?お腹を出して寝ちゃだめだからね。辛くなったらいつでも訪ねてきてね。あぁ、やっぱり私も行こうかしら」


オカンか。


「無茶言うな。俺たちはまだ調査が残ってるんだ。信じてアンディを見送ってやれよ」


テオが宥める声に応えもせず、ずっと俺の頭を撫でてくる。はふん。


「アンディ、これを。魔物の毛皮と魔石をもらった時、対価を出すと言ったろ?俺達からの餞別も入れてある。持ってけ」


そう言って隊長から金の入った小袋を渡される。

結構重さがあるので中身には期待してしまう。

荷馬車の準備が出来たらしく出発の声をかけられた。


「ありがたく頂戴します。…皆さん!短い間でしたが、お世話になりました!行ってきます!」


そう言って馬車の荷台に飛び乗った。

木箱が詰め込まれた幌馬車のため、荷物の間に体を収めるとピッタリはまった。


たった今の別れに寂しさが募り、立ち上がり遠ざかる人影に手を振る。

馬車の縁に身を乗り出し、腕を目いっぱい伸ばして高く振る。

向こうの人影も大きく手を振り返してくれた。

見えなくなるまで手を振って、再び荷物の間に体を収めた時、不意に涙が頬を伝っていった。

この涙は子供の体に精神が引っ張られて流れたものに違いない。

そう思い込むことに決めたんだ。





村を出てから4時間は経っただろうか。

少し前に昼食を簡単に済ませて、今は馭者のおじいさんと一緒に並んで代わり映えのしない景色を見るだけ。

草原に時々林か岩場ぐらいが見える程度で、いい加減暇になって来た。


「今ってどれくらいの所なんですかねぇ」


「そうさのう。半分は過ぎとるな。街には陽が完全に落ちる前までに着けるはずじゃよ」


まだ半分とか、異世界の移動速度舐めてたわ。

馬車は荷物の運搬に気を使ってか、ゆっくり進んでいる。

もちろん普通に歩くよりは早いのだが、それでももどかしい思いは抑えられない。


不謹慎だがなにか起きないかと思ってしまうほどに暇なのだ。

今なら魔物に追われた馬車がこっちに向かって来たら、喜んで助けるのに。

都合よくそんなことが起こるはずもなく、陽が落ちた頃、交易都市ヘスニルの外壁が見える場所まで来た。


「あれがヘスニルじゃ。大きかろう?」


おじいさんが指さした先には高さが20メートルはあるかと思われる外壁が横に広がっており、そこに口を開いた門へと並んでいた人々が飲み込まれていく。

門扉の高さは10メートルはないが、3つ並んでいる。

今は1つだけが開いているが、昼間は全部開けられるそうだ。

これだけの街に出入りする人数をチェックするのに門が一つでは足りないのだろう。


ここで馬車は別の場所へ移動するとのことなのでおじいさんにお礼を言って別れ、入門待ちの人の列に並ぶ。

それほど列が長くなかったのですぐ俺の番になった。


「次の人。ん?坊主一人か?親はどうした?」


門番が俺を見て一人なのを訝しんでいるのを無視し、事前にリュックから出しておいた封筒を手渡す。


「俺一人です。身分証がないのでこちらをご確認ください。これはヘスニル騎士団団長アデス・ハルア閣下からの書状です。どうぞ」


「…なに?団長が?どれ、……確かに団長の字と印だな。よし、通行を許可する。通っていいぞ」


そう言って確認を終えた封筒を返してもらい、街に入ることができた。


門をくぐると、一気に夜の喧騒の波に襲われた。

食事時なのだろう。色んな匂いが混じった独特な匂いが辺りに漂っている。


行きかう人々は多様な姿をしており、普通の人間だけでも鎧姿だったり、服の面積より肌の露出の方が多い格好の妖艶な空気を出す踊り子風の女性も平然と歩いている。


時折種族が違うのか見た目はほとんど人間で動物の耳が頭に生えている獣人らしい人や、耳が長い美形の恐らくエルフと思われる人種も普通に歩いている。


見ているだけで飽きないが、時間が時間だ。

先に宿の確保をしておこう。


人の出入りが多い建物を覗いていくと、宿屋とそうでない店の看板の見分けが出来るようになった。


特にこだわりもないので適当なところで決めよう。

そう思い、次に目についた宿に入っていく。


中に入ってすぐのカウンターで恰幅のいい中年女性が何やら作業をしている。

シニョンがこちらに向いている頭に声をかけようとした時、俺がいるのに気付いたようだ。


「いらっしゃい!あら、坊やひとりかい?親はどうしたんだい?」


うーむ、このセリフは今の俺には必ず付きまとうのだろうな。

まあ悪意の欠片もないのだから甘んじて受け入れようではないか。


「俺一人です。親はいません。宿泊希望ですが一泊おいくらでしょうか?」


「おや!賢そうな子だねぇ。どっかのお貴族様か商人さんみたいだよ。うちは一泊大銅貨3枚、前払いで5日分渡してくれたら割引ね。食事は朝と夕の2回。昼は有料で出してるわ。見ての通り1階が食堂だからここで摂れるからね。今貸せるのは階段上がってすぐの101号室よ」


とりあえず5日分でいいか。銀貨を2枚渡すと大銅貨7枚が返って来た。

何割引きかは、えー…いくらだ?あー…まあそこそこだ。


「それじゃあ、ここに名前をお願いね」


「あ、すいません。俺、字が書けないんです。代筆をお願いできますか」


そう言って代わりに書いてもらった。

いい機会なので俺の名前がどういう文字なのかを見せてもらう。

なるほど、アルファベットの様な感じだな。

これから文字を学んでいくのだ、まずは自分の名前を書けるようになることを目指そう。


「女将さん、まず夕食を頂きたいんですが、いいですか?」


「構わないよ。先に鍵を渡しとくから好きな席に着いてね。鍵を見えるようにテーブルに置いておけば料理が運ばれてくるから」


なるほど、鍵が食券替わりか。

宿泊代に含まれるということはメニューが強制なのは当然か。

適当な席に着き、椅子の脇にリュックを降ろし、行儀よく料理を待つ。


改めて中を見渡すと、壁に大きなランプが幾つか掛けられており、既に暗くなっていた室内を明るく照らしていた。

周りの席には宿泊客だろう人たちがそれぞれ食事をとっている。

中には酒が入っているのか、騒いでいる集団もいた。

あまり人数は多くないが、身なりや人種が多種多様でなかなか面白い。


この料理を待つ時間ってのも食事の一部だよなぁ。


「おまたせしましたー!」


てっきり女将さんが運んでくるかと思っていたが、来たのは若い女の人だった。

いや若いというか幼いと言った方が正しい。

小学校高学年くらいか。

顔つきが女将さんと似ているので多分親子だろう。

母親を真似ているのだろう、サイズが少し大きい前掛けが微笑ましい。


チップとか渡した方がいいのかな?いやでもこっちの世界で普通じゃないと変に思われるしな。どうしようか。

そうしている内に、てきぱきと料理をテーブルに並べて行って去って行ってしまった。


親の手伝いを褒めてやろうとしたが、遅かったか。

まあ、同じ年ぐらいにしか見えない俺から褒められてうれしいかは疑問だが。

とにかく食事に取り掛かろう。


目の前に並んだ木皿はどれも湯気が立ちいい香りが立ち上る。

まずは白濁したスープから匙を入れる。

一掬いでとろみの強さがわかる。

口に含んでみると確かな塩気とハーブの複雑な風味が舌を撫でていく。

どこか豚骨スープを思い出させるが、こちらの方がはるかに濃厚で野趣あふれる味だ。

大き目の具がゴロっと入っており、満腹感もある。


別の皿には分厚いステーキが乗っている。

添えてあったナイフと2股のフォークで切り分け、口に運ぶ。

味付けはシンプルな塩だけだが、噛むと染みだす脂で口の中がカーニバル状態や。

かなり歯ごたえが強く、何度も噛むことになるが、その度に脂が口中に広がって実にうまい。

惜しむらくは香辛料を使っていないことだ。

テーブルの上に香辛料の入った瓶が無いことからも、この世界では香辛料は貴重なのだろうか。

これに胡椒があるだけでもっと旨くなるだろうに。


やはりパンは堅く、スカスカした食感であまり旨いとは思えない。

村で食べたものよりは多少は柔らかく、幾分食べやすいが。

周りの人たちがスープに浸けて食べているのを見て、真似てみる。

なるほど、これが正解か。

堅さが和らぎ、スープを吸ったパンこそが完成形であると如実に伝わってくる。


一通り食べると、小皿に乗った小さな果実が気になる。

イチゴくらいの大きさだが、形に見覚えがない。

なんだかビワに似ているが、茶色なのだから同じ物ではないだろう。

デザート感覚で口に入れて衝撃を受けた。

梅干し並に酸っぱいのだ。

キューっとする頬を擦り反省する。

どうやら少しずつ食べる箸休めの様な物だったか。

なにかの漬物だろうと思われるが、その正体はとんと知れない。


全て食べ終わりカップの水で食後の時間を楽しむ。

この宿は当たりだ。

俺の自論だが飯の旨いホテル・旅館はサービスがいい。

逆に食事に気を使わない宿はサービスも悪いし、宿自体の管理にも手が行き届いていない場合が多い。

あくまでも前世での俺の経験であるが、こっちの世界でも全く当てはまらないということは無いと思うので、今後の基準の一つにしてもいいだろう。


「料理おいしかったです。ご馳走様でした」


「おう、ありがとよ」


荷物を持って立ち上がり、厨房の方に声をかけて部屋に行く。

返ってきた声は宿の親父さんかな?

ぶっきらぼうな返事だったが、あれで普通なのだろう。


部屋は4畳ほどの縦長の造りでベッドと椅子だけのシンプルなものだ。

とりあえず、部屋に備え付けられたランプに火をつける。

火打石のよなものがそばにあったが、俺には魔術がある。

パチっと火花をつけて部屋に明りが生まれた。


荷物を置いて、ベッドに寝転がって一息つく。

今日一日のことを思い出していると、村を出る時に隊長さんから渡されたお金が気になった。

幾ら位入ってるのだろう。

早速袋から中身を取り出してみると、金貨1枚と大銀貨が2枚出てきた。

日本円で大体120万ぐらいか。


…えらい大金を貰っちまった!

どうしよう!お礼状とか書いた方がいいかな?

いや、待て。まずは貯金しとこう。失くしたらいかん!

というかこの世界で銀行ってあるのか?


怒涛のように頭の中を驚愕と困惑が走り回って、落ち着くまで少し時間が掛かった。

一日の最後に一気に疲れたな。

風呂に入りたいが、宿にあるかな。

女将さんにでも聞いてみるか。


「風呂ぉ?そんな贅沢なもんないよ。体を拭くのに桶一杯のお湯で銅貨5枚だね。水かい?向こうのドアから中庭に行けば井戸があるから、そこを使っておくれ」


情報に従い階段横の奥にある扉から中庭に出ると確かに井戸があった。

よし、これで風呂にはいれる。


まずは土魔術で風呂桶型に土を固める。

内側を固めたら今度は水魔術で井戸から水を汲み上げる。

いちいち汲み桶で組んでたら朝になっちまう。

水が溜まったら金属の棒をそこに浸す。

これは廃村で使っていた電熱線湯沸かし器の柄を切って持ってきたものだ。

狭い範囲であればこの長さで十分にお湯が沸く。


あっという間にお湯になり、温度を調整するために井戸の水を足して、ようやく入浴。


「あ゛あ゛~、生き返ルるぅう」


つい声が出てしまうが仕方ないだろう。

なにせ昨日は風呂に入れていないのだ。

廃村にいた頃は毎日入っていたのに、旅に出たら入れなくなると、途端に疲れが抜けない体になっていた。

贅沢を知った体は弱いな。


30分ほどで風呂を上がり、お湯を排水溝に流していく。最後に土魔術で風呂を解体して終了。

この街は下水道が整備されているようで、一定カ所にこのような排水溝がある。

トイレも原始的だが水洗式で、用を足した後は備え付けの綿に水を含ませたものでお尻を拭く。

古代ローマでも同じのがあったと記憶している。

俺はこれに抵抗があるので、水魔法でウォッシュレットを再現して洗っている。

何気に水魔術は文明の利器の再現度が高い。

イメージに依るのだろうと言うのが俺の仮説だ。


ホコホコした体と気持ちで、部屋に戻り、ベッドに潜り込むとあっという間に眠りに落ちて行った。

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