第8話 森を抜けたらそこは村だった

体が揺さぶられる感覚で意識が浮上していく。

目を開けるとエレイアが俺の肩を揺すっていた。

目覚めたのを確認して微笑んで挨拶をしてくる。


「おはよう、アンディ君。見張りの交代よ。もうすぐ夜明けだから一緒に起きててあげる」


「おはようございます、エレイアさん。…ふぅ、眠気覚ましに少し外の空気を吸ってきます」


そう断ってかまくらから一歩出て、周りを少し歩く。


寝起きに朝の冷たい空気が気持ちいい。

鳥の声に誘われて見上げると、木の枝に鳥が止まっている。

ちょうどいいので俺たちの朝食になってもらおう。

大きさ的に2匹いれば十分だと思い、両手から電撃を飛ばす。

パチンと音を立てて鳥が2匹落ちてくる。

一緒の枝にとまっていた鳥が驚いて飛び立っていく。


回収してみんなの所に戻って来ると、隊長さんも起きていた。


「おはよう、アンディ。鳥の音が聞こえたが、手に持ってるものを見るにお前の仕業か」


「おはようございます、隊長さん。ちょうど目についたので仕留めました。朝食にでもと思いまして」


エレイアが少し怒ってるようだが、なにかあったのか?


「もう、アンディ君が出てってから鳥の騒ぐ音が聞こえたから心配したのよ。一匹貸して」


そう言って解体を手伝ってくれる。

なるほど、俺の心配をしてくれたわけか。

それは悪いことをした。


肉は串焼きにして、内臓はきれいに洗ってから鍋で煮込む。

昨日の残りを流用して水炊き風に仕上げる。

全て終えてあとは煮込むだけになった時、テオが起きてきた。


「おはようございます、テオさん。朝食の準備できてますけど、どうですか?」


そう言って椀を持ち上げて尋ねる。


「ああ、もらうよ。旨そうな匂いに起こされちまったな」


「どうぞ、ではいただきましょう」


どうやら味に満足がいったらしく、粛々と食事は進んでいった。


「さて、少し早いがテオも起きてしまったことだし、出発の準備に掛かろう。アンディ、片づけはどれくらいで済む?」


「食器を洗って詰め込むだけなので、すぐ終わりますよ」


「よし。テオはまだ寝たりないだろうから、少し休んでろ。エレイア、テオの準備も頼む。用意ができ次第出発だ」


そういってそれぞれが動き出した。

もともと、物をあまり出していなかったので、食器類をしまい、焚火を消して30分ほどで出発準備が終わった。


中から全員が出たのを確認してから、かまくらを解体する。

地面に魔力を通して内側に崩れていくのをイメージするだけで終わる。

跡には少し盛り上がった小石の混ざった土の地面だけになった。


「魔術で作れば撤収も楽なもんだな。いっそ大工にでもなれば稼げるかもしれんぞ?」


「それも選択肢に入れてますよ。街に入ってからゆっくり考えるつもりです」


「なんなら騎士団うちに来るか?アンディならどこの隊でも欲しがるぞ」


隊長がニヤけながら誘いをかけてくる。


騎士団てことは公務員か…。

前世なら安定の職業だが、この世界だとどうだろ?

きっと貴族とか偉い人たちと関わることが多いんだろうな。…想像するだけで面倒そうだ。

隊長たちと一緒に仕事をするってのはそそられるものがあるけど。


「うーん、申し訳ないですが、俺は宮仕えってのはどうも向いてない気がするんで」


そう言って断るが、隊長の勧誘が続きそうになった時、エレイアに止められる。


「ダメですよ、隊長。アンディ君のことは自分で決めさせるって話したでしょう?」


初耳ですエレイアさん。

いつの間にそんな取り決めを?

テオも頷いてるし。


そこから隊長は黙り込んでしまい、少し気まずい空気で森を歩いていく。

どうも隊長も先走ったのを反省している感じだし、険悪な雰囲気でもないので特に問題なく進む。

途中休憩を挟んで昼ぐらいになると、森に人の手が入っているエリアが目立つようになってきた。

そしてついに、森の中にはっきりとわかる道が現れた。


ここまでくると俺にも人里が近いことが分かった。

歩きながらの昼食で移動を優先させる。

俺は干し肉を提供し、隊長さんからはとんでもなく硬い乾パンみたいなのをもらった。

食い辛かったが、それだけ噛む回数が増えて満腹感も多い気がする。

できればもう食いたくないが。


今歩いている道は荷馬車の往来を想定して、かなり幅の広い道だ。

しばらく道なりに進んでいくと、本来の森の入り口であろう場所にバリケードが築かれていた。

いわゆる逆茂木というやつで、その後ろに立っていた何人かの騎士らしき鎧姿の人間がこちらに気付き、警戒の声を上げる。


「止まれ!現在森は封鎖中だ。一般人の立ち入りは禁止されている。両手を見える位置に出し、ゆっくりとこちらに歩いてこい!」


そういわれ全員手を挙げて近づいていくと、誰何の声を上げた騎士が、こちらの顔が確認できる位置まで来たところで話しかけてきた。


「やはりギリアム隊長でしたか。一応規則なのでこのような形式をとったことをご理解ください」


そう言って左胸の前に握った右手を添えて頭を軽く下げた。


恐らく騎士の礼というやつかと思われる。

隊長の部下らしいが、任務に忠実であるためにさっきの誰何が必要だったのだろう。

なかなか真面目そうな性格をうかがわせる。


「いや、構わん。警戒任務ご苦労。こちらの任務が完了した。通っていいよな?」


「もちろんです。よう、テオお疲れさん。エレイアも大変だったな」


2人に気軽に声をかけているということは同僚なのだろう。

2、3言葉を交わして、俺の方に視線が向いた。


「ギリアム隊長、その子は?村の子ではないですよね」


「この少年は任務の途中で保護した。記憶喪失のため身元が分からない。とりあえず村まで連れて行ってからこれからのことを考えるつもりだ」


「そうでしたか。…災難だったな坊主。記憶、戻るといいな」


そう言って頭をガシガシ撫でてくる。

見た目より力があるのか、撫でるというよりグラグラ揺らされた。

擦り方が強過ぎてハゲるわ。


「ありがとうございます。ですが、ご心配なく。エレイアさんに色々教えて頂きましたから、どうにかやっていくつもりです」


「…なんというか、随分しっかりした子供だな。っと、失礼しました。どうぞ、お通り下さい」


そう言って脇にどき、礼の姿勢をとって俺たちを見送った。


森を出ると畑が広がる光景があり、遠くに建物らしき姿が見えたが、あそこがモトック村だろうか。

道中聞いた話では林業が盛んという話だったが、農業もそれなりにやっているようだ。


畑の間を縫うように伸びる道を進むと、ちょいちょいと農作業中の村人が見えた。

時々馬に乗った騎士が巡回しているのだろう。

道の真ん中には馬の蹄の跡が無数に刻まれていた。


村に近づくと、テントの様な物がいくつか建っているのが目立ってきた。

派遣されてきた騎士団の駐屯地だと思われる。

こちらを確認した誰かが声に出したのか、騎士達がテントから次々と出てきた。

するとその中の一人が俺たちの方へ駆けてくる。


騎士であるのだから当然鎧姿だが、他の騎士たちと比べて幾分か豪華に思えるその人は、騎士団の中でも偉い人なのかもしれない。

身長は190センチはあるだろうか。

スキンヘッドに左の蟀谷から左頬まで古傷が目立ち、ギラついた目も相まってマフィアみたいな相貌だ。

いや、口の周りの髭が整えられているから武藤敬○か?

そんな大柄でマッチョな男がこちらにすごい勢いで突っ走ってくる絵はちょっと怖かった。


「ギリアム!よくぞ…、お前たち、よくぞ戻った。疲れているだろうが先に報告を頼む。わしの天幕で聞こう」


そう言って隊長に話しかけて、テオ、エレイアと順番に見て安心したように肩の力を抜いて笑みを浮かべた。

そして、俺の方を見た時不思議そうな顔もしていた。

まあ、行きにいなかった人間、しかも子供が一緒にいると誰?って思うよな。

「はっ!了解しました。…ここからは俺だけで行く。お前たちは休んでいい。どっちかでもいいが、落ち着いたらアンディに村を案内してやれ。では、解散」

そう言って、テオとエレイアは騎士の礼で答え、隊長と偉い人が去っていくのを見送った。


「さて、それじゃあ俺は隊の連中を安心させてくるわ。アンディは任せていいか?」


「ええ、アンディ君は私が面倒みるから、あんたはとっとと行ってきなさい」


そう言ってしっしっと手を振るエレイア。

犬か。


「俺は犬か。じゃあなアンディ、あとはこいつについてけ。こんなのでも案内ぐらいはできるから」


「ちょっと、誰がこんなのよ…っもうっ!」


それだけ言い残してテオはさっさと走って行ってしまった。

食いつかれる前に逃げる、テオさんさすがっす。

でも残される俺のことも考えてよ?

エレイアさんの顔が怖いです。


とりあえずエレイアの荷物を置きに、女性用のテントに寄って着替えてきてから、村の案内をしてもらった。

俺の荷物を持ってくれるみたいだったが、そこは固辞した。

見た目は子供でも男であるからには女性に荷物を持たせるわけにはいかない。

そのことを言うと仕方なさそうに従ってくれた。


重くなったら言えと言われたが、実際これぐらいの重さは苦にならないので、村を歩き回るくらいでは疲れはしないだろう。

そもそそもこの村はさほど広い村でもないようだ。

もちろん、俺の暮らしていた元廃村よりは断然広いが、ほとんどが民家なので特に見るものもない。


「アンディ君、あそこ見て。石柱みたいなのあるでしょ?あれ、魔道具なのよ。アンディ君興味あるんでしょ?近くで見てみましょうか」


そう言って指さしたのは村の外周に沿って所々にある石の柱だった。

形は2メートルぐらいの長さの電柱といったところか。

近づいて見ても、ただの石柱にしか見えない。

だが、触れてみると手のひらから伝わる感覚で柱の内部に魔力があるのは感じられる。

なるほど、魔道具とはこういうものかと初めての感覚に感心していた。


「こういうのって大きい村になら結構あるのよ。これは柱の間に土の壁を作るやつね。村に危険が迫った時とかに使うと、あっという間に村の周りをグルっと土の壁で囲んでくれるの。一回使うと魔力を溜めるのに1か月くらいかかるらしいけど」


ほぉう、実に面白い。

魔力を溜める装置というのも興味がある。


というか、それなら土壁を作ったままにしておけばいいんじゃないかと思い聞くと、それは現実的ではないらしい。

この手の装置で作った壁という物は、硬化の工程を省いて、魔力で強引に作り上げるため、瞬発的な防御力には優れるが、持続性は低いとのこと。


これは時間稼ぎを目的にしているため、壁が存在する間に応援を呼ぶためにあるのだとか。

壁を作る際の魔力は自然に漂う魔力を吸収してため込むらしいので、満タンにするのに時間がかかるのはこのせいだという。


俺が塀を作った時は一々硬化の作業を行っていたため時間が掛かったんだな。

まあそのおかげで今も普通に存在できているのだからどちらも一長一短か。


「エレイアさん、魔道具ってどこで手に入りますかね」


「欲しいの?そうねぇ、ヘスニルに行けば売ってると思うけど、高いわよ?簡単な明かりの魔道具だけでも給料1か月分とかざらなんだから」


1か月分の給料か。

ルームランプ一つに20万円とか出せないな。

いや、海外デザイナー作の高級品とか考えるとそうでもないか?


だが、興味は益々出てきた。

これを解析すれば俺の魔術も進化できるんじゃないか?

そう思うとこの溢れんばかりの好奇心を抑えられるだろうか?いやない。(反語)


「アンディ君?なんか怖い顔してるけど、大丈夫?」


おっと、いかんいかん。

色々と想像していたら、某『笑ゥせぇるすまん』のような顔になってしまっていた。

無邪気な少年の顔に戻して、と。


「いえ、なんでもありません。ためになる話をありがとうございます。次は荷物を換金したいのですが、どこかいい所はありませんか?」


「そうね…。冒険者ギルドか商人ギルドに持ち込むのがいいんだけど、生憎この村には雑貨屋しかないから、まずはそこに行ってみましょ」


『あらたなワード しょうにんギルドを てにいれた』


そんな吹き出しが出そうなくらいには気になった。


商人ギルドについても聞いてみたが、まあこれも想像通りだ。

冒険者ギルドとさほど変わらない。

税金と昇格のシステムが違うくらいであとはほぼ同じ。

こちらは恐らく世話になることはないと思うので深くは聞かなかった。


そうして村唯一の雑貨屋にきたが、見た目は完全に民家。

入り口が広く作られているくらいで、中に入ると8畳ほどの広さの壁際に棚が並べられている。

奥のカウンターには髪を後ろに束ねた、痩せぎすの中年女性が店番をしていた。

この人が店主なんだろう。


「いらっしゃい、エレイアちゃん。また香油?少し使い過ぎなんじゃないの。その子は見ない顔だね。まさかあんたの子かい?」


「どっちも違います!今日はこの子の荷物の買い取りです」


やり取りから付き合いの良さを感じさせるが、仮にも騎士相手にこの態度はいいのか?


背負っていた荷物を降ろし、刃物と食器類を分けて床に広げていく。


「大した量だねぇ。少し待ってな。今そっちに回るよ」


そう言ってカウンターの横の板を跳ね上げてこちらに来る。

1品1品見ては手元の紙になにやら書き込んでいく。

書き物の音と金属が擦れる音だけが室内に鳴っていた。


しばらくして査定が終わったのだろう、カウンターに戻っていった店主は手招きをしたので、近づく。

俺の身長的に、カウンターの高さはギリギリで、乗っているものを確認するので精一杯だ。

背伸びをしてのぞき込むと、羊皮紙に書かれた文字に驚愕する。


読めないな。

そういえば俺はこの世界の文字を知らない。

困っていると、店主が読み上げ始めた。

査定結果の口頭での説明は仕様です。


「どれも造りは雑でそのままじゃ売り物にならないね。けど使っている鉄は恐ろしく品質がいいから、溶かして使うのを前提に買取させてもらうよ。スコップはこのままでも問題ないけど、手入れが必要だから少し安くなるね。全部で大銀貨8ってところだね」


驚きの真実、この世界ではシャベルではなくスコップの方の名前を使っている。

西日本と東日本で呼び名が違うというのは知っているが、俺はシャベルの地方の住人だった。


「大銀貨8枚!?そんなに高くなるんですか!?(…私の給料半年分ってことに…)」


「鉄の純度がかなり高いのさ。これでも鉄の質の良し悪しくらいは解るつもりだよ。こいつは今使ってるあんたの剣よりよっぽどいい鉄さ」


そう言って買い取った包丁を爪の先で叩く。

まあ魔術で直接鉄を抽出したわけだから、不純物がほとんどないのは当然か。

それに雷魔術で直接成型したため、作成の工程で不純物が入る余地もない…と思う。

大銀貨の価値はよくわからんが、エレイアが驚いているからにはなかなかの金額だろう。


「では、それでお願いします。それと布と鞄がほしいんですが」


「布はそっちの棚の一番上だよ。そこの台を使いな。鞄は今はそこに掛かってるのが全部さね」


そう言って木で出来た箱を指さし、次いで入り口の上に吊り下げられてある鞄を指さした。

厚みのある布と薄くて粗い布とその中間の布の3種類が何色かある。

この布で服を作るつもりなのでとりあえず3種類とも買う。


「…一応聞きますが、服って売ってます?」


「あるよ。けど子供用のはほとんどないね。そういうのは親同士で融通しあうもんだ。今あるのはこれだけ」


そう言って、カウンターの向こうから箱を取り出して中身を広げた。

どう見てもワンピースじゃないか。

麦わら帽子をつけてくれるとでも?


「…女物じゃないですか。男物はないんですか?」


「うちにあるのはこれ1着だけ。男なんざすぐ大きくなるんだ。父親の服が合うようになるまでこれでってのも珍しくないさ」


確かに中世のヨーロッパでは男もスカートを履いていたとは聞いたことがあるが、俺は嫌だぞ。

それに、ニヤニヤしてんじゃねーか、このおばはん。


「アンディ君、信じちゃだめよ。そういうのはホントに小さい頃に、一時しのぎにする方法だから。ベラさんも嘘教えないで下さい。信じたらどうするんですか」


呆れた声でそう窘めるエレイアに店主もさらに笑みを深めて、箱に服をしまった。

今のは完全に魔女の笑い顔だぞ。


気を取り直して鞄をみるが、これは1種類しかない。

同じ形の同じ大きさのが2つだけ。

背負う形でポケットも側面に対称的に2つ付いてるだけのシンプルなものだ。

上の口を紐で絞るタイプで、ぱんぱんに詰めたら高さ50センチくらいになるだろうか。

エレイアに降ろしてもらって背負ってみるが、少し調整すれば十分使えるようだな。


これに布を入れ、ついでに裁縫セットも買った。

買い取り金額から代金を引いてもらう形で買う。

全部で銀貨8枚に負けてもらった。

これも高いのか安いのかわからん。

エレイアが特に何も言わなかったから妥当なところなのだろう。


500円玉より一回り大きい大銀貨7枚と10円玉ほどの大きさの銀貨2枚。

サービスでもらった布製の小袋に入れてもらい、腰紐に括り付けた。

銀貨だけでも2種類あるということは、他の硬貨も同様なのだろう。


店主に別れを告げ、村長の所に顔を出す。

子供とはいえ住人が増えるのを把握していないのはまずいらしい。

名前としばらく滞在する旨を伝えるだけで長居はしなかった。


途中でエレイアに貨幣価値について聞いた。

硬貨は金・銀・銅・鉄の順に4種類、それぞれに普通の硬貨と大硬貨が存在し、10単位で繰り上がっていく。

この硬貨にも当然通貨単位があるが、普通の人は使わないらしい。

銅貨何枚とかでやり取りをするそうだ。


金額がでかくなれば『ルパ』という通貨単位で言うようになる。

そりゃそうか、金貨何千枚とか分かり辛いし。

街中でなら成人が大銀貨1枚あれば1カ月は普通に暮らしていける。

物価の違いなどもあって一概には言えないが、大体大銀貨1枚=10万円くらいか。


その後は騎士団で使っているテントの場所に行き、自分の寝床を用意しようとしたらエレイアに止められた。


「アンディ君は私のテントを一緒に使いましょう。他に同居人がいるけど、大丈夫よ。皆喜んで入れてくれるわ」


エレイアの同居人ということは女性なのだろう。

いや、健全な精神の男としてはそういう環境では落ち着くことは出来ないと思う。


「女性だけの所に入り込むのは気が引けます。俺はどこかに適当に寝床を作るのでお気になさらずに」


そういってどこかいい場所に土魔術で小屋を建てようと思い、立ち去ろうとしてエレイアに止められた。


「ちょ、だめよ!あんな目立つのここで使っちゃ怒られるわよ?」


…なんだと?怒られるの?

ぬぅ…体は子供でも心はいい大人だから怒られたくはないな。

かと言って女性と同じ場所で寝起きをするのはいかがかと思うのだが。

うーむと腕を組み悩んでいると、エレイアが溜息を吐いた。


「はぁー、仕方ないわね。空いてる天幕を用意させるからそこを使ってちょうだい」


おお、わざわざ用意してくれるとは。


「本当ですか?ありがとうございます。念のために言いますと、エレイアさんと一緒にいるのが嫌になったわけではないですから。男としての気持ちの問題で―」


「わかってるわよ。気を使ってくれてるっては伝わってるから。こんな小さくても男の子なのね」


そういって頭を撫でてくる。

森の入り口で会った騎士の人とは比べ物にならないぐらい優しい撫で方だ。

そうそう、撫でるってこういうのだよ、こういうの。


案内されたのは本来は食料を保管していた天幕だったそうだ。

今までに消費した分だけスペースに余裕があり、さらに残っていた食料をもう1つの保管用の天幕に詰め込むことで、空けることができたらしい。

転生初日に寝た穴だらけの家に比べたら充分快適だ。

暖かいし、天国だよ。

食事の時にまた呼びに来るということで、エレイアとはお別れした。


食事の時間がいつかはわからないが、まだ昼を少し過ぎたくらいだ。

まだ当分先だろうと思い、横になる。

誰かが用意してくれたのだろう、薄い布が敷いてあり、その下の地面を魔術で柔らかく捏ねてから横になった。

呼びに来るまでの間と決めて少し眠ることにした。

子供の体に睡眠は大事だからね。

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