第7話 俺 アンディ。悪い奴じゃないよプルプル

3人の騎士の邂逅から3日経った。

まず、俺の名前が決まりました


どうも、アンディです。

唐突ですが今日、俺は旅立ちます。


突然過ぎて驚かれるだろうが、これには訳がある。

順序立てて話をしよう。

あれは3日、いや2日前だったか。









異世界人生初のファーストコンタクトの翌日の朝に突然、羊皮紙を渡されて、候補の中から選べと言われた。

名前がないと不便だと思われたのか、夜遅くまで考えてくれたらしい。

その気遣いにちょっと感動してしまった。


いくつかある候補の中から、アンディという名前に決めた。

俺の前世の名字の『安藤』と響きが近いため、未練がましくこれにした。


いくつかかっこいい名前もあったのだが、これから呼ばれる名前としては大袈裟過ぎてちょっと恥ずかしい。

あぁ、やっぱり俺はキラキラネームに染まり切れない日本人だなぁ。


ともあれ、これで名無しからの卒業を果たせて、お三方へ感謝の念に尽きない。

朝食はお祝いとお礼を兼ねて少し豪勢にいかせてもらった。

まあ、量を増やしただけなんだけど。


後片付けをしていると、隊長が呼んでいるらしく、伝えに来たエレイアが続きを引き受けてくれて、俺は家に向かった。

中では隊長とテオが床に広げた地図を挟んで座っており、俺が来たのに気付くと隊長が手招きで呼び寄せ、近くに座らせた。


「さて、アンディ。まずは名前が決まっておめでとう。早速だが聞きたいことがある。我々は現在、ある魔物の調査と探索の任務に就いている。かなりの巨体で非常に危険な魔物だ。この森で暮らしていてこういった魔物を見たことはないだろうか」


そういって隊長は羊皮紙を手渡してくる。

簡単なスケッチで描かれているが、特徴をつかめているようで、確かに俺が見たことのある姿だった。

前に山菜取りをしている最中に襲ってきた、猪の化け物だろう。

あいつ魔物だったのか。


「ええ、この化け物なら以前、遭遇してます。いきなり襲ってきたので倒しましたけど。頭蓋骨は別の場所にありますが、毛皮でしたらここにあるのでお見せできますよ」


そういって立ち上がり、衣装箱代わりに使っているお手製の木箱から毛皮を取り出す。

それをみて2人は目玉がこぼれんばかりに見開き、驚愕している。


ふっふっふっ、驚いているねぇ。

何せこれだけのデカさだ。

その気持ちはよーくわかる。


いずれ俺の布団になる運命だったが、その前に人に自慢できたのは気持ちがいい。


「隊長、これ当たりですよ。報告と絵の通りに腕四本足二本の特徴、間違いありません。大きさも恐らく同じです」


テオさんが毛皮を調べて、その結果を伝えると、隊長が神妙な顔をして、悩み始めた。

…もしかして勝手に倒したらまずかったのかな?

いや、襲われたら倒さないと、こっちが危ないから俺は悪くない、ハズ。


「テオ、俺はこの毛皮を持ち帰って討伐証明にするべきだと考えるが、お前はどう思う?」


「そうっすね、俺もそれがいいかと。実物がある方が上もわかりやすいでしょうし。ただ、アンディがそれを許したらの話ですが」


おぉう、テオさんさすがっす。

俺の布団候補が問答無用で没収されるのを防いでくれるとは。


「わかっている。…なあアンディ、この毛皮だが、どうしても我々が現在遂行中の任務に必要なのだ。対価は…今は無理だが必ず用意する。我々に譲ってくれないか?」


そんな頼み方されては断り辛い。

しかし、それではこの冬が辛くなるかもしれない。

…まあいいか。

この3人は俺にとってこの人生初の友人だと勝手に思っている。

ここは気前よく譲ろう。


了承の意味を込めて、笑顔で頷くと、隊長も安心したようで息を深く吐き出していた。

それから疑問に思っていた点を質問していった。

魔物とはいったいなんなのか?


これにはテオが答えてくれた。

通常の動物と違い、好戦的で強力な個体が多く、発見し次第討伐が推奨されているが、発生の条件や理由はよくわかっていないので、研究は遅々として進んでいない。

魔物は心臓の近くに魔石と呼ばれているものを持っており、これがあるかどうかで大体の魔物とそれ以外を区分されている。


ちなみにこの魔石は冒険者ギルドが買い取り、加工されたものが魔道具の材料に使われているそうだ。

この魔石と思われる赤い石は、確かに例の魔物を解体したときに出てきたもので間違いない。

そのことについて話すと、それも譲ってほしいと言われた。


えぇい、もってけ泥棒!


それにしても、話の中に散りばめられた胸熱なワードを聞き逃せなかった。

俄然外の世界を見てみたくなった。

そうした表情を読み取ったのだろう。

隊長から予想外な提案が出された。


「アンディ、これで我々の任務は完了となるだろう。近い内に本隊へ帰還するつもりだ。そこでだ、君さえ良ければ一緒に来ないか?無理にとは言わない。そうだな…、明後日までに返事を決めてくれ。短い猶予しか与えられなくてすまんが、じっくり考えてくれ。どんな結論を出そうとも、我々は君の意思を尊重する」


そう言って立ち上がり、家を出ていった。

そのあとに続きテオも出て行こうとして、ドアの前で止まってこちらを振り向かずに声をかけてきた。


「隊長はああ言ってるが、本心じゃお前を連れて行きたいんだよ。こんなところに子供を置き去りになんて、あの人には出来ないからさ。もちろん、俺もエレイアも同じ考えだ。前向きに考えてくれ」


そう言い残して出て行った。


この場所を離れて、彼らに付いていく?

あんなに頑張って、ここまで築いた村を捨てて?

それはいくらなんでも…。


悪くない。

いや、むしろ最高じゃないか?

さっきの話を聞いてから外の世界に、まるで憧れのような感情がふつふつと湧き出していた。


この村の生活は自給自足で便利な道具もない。

現代日本の生活を知っている身としては充足しているとは言えない。

彼らについていき、人の生活する街で暮らすのを想像すると楽しそうだ。。

異世界の街並みというのも拝んでみたいし。


よし、決めた。

俺はこの村での暮らしをやめるぞ!ジ〇ジョー!


そうと決まれば早速隊長達に話をしなければ。

明後日までにとは言われているけど、早ければそれだけ準備に余裕ができるしいいじゃないか。

そう言って家を出て隊長を探しに走り出した。











とまあそんなこんなで今日出発となったわけで。

あの後は持っていく物をまとめるのに丸1日費やした。

エレイアからのアドバイスも受け、金属の類は全て持っていくことにした。

村で売ればなかなかの金額になるそうな。

それ以外の品は置いていくことにした。


隊長曰く、この村の塀は作りが頑丈なので、後で近くの村に場所を伝えて再利用を勧めるらしい。

まぁ放っておかれるよりはいい。

…いいんだが、俺がここまで村の形を作ったのだから、多少の権利は俺も主張できるんじゃないか?できませんか、そうですか。


ちなみに村を囲んでいる塀を作ったのも俺だと話したところ、えらく驚いたようで、何度も確認された。

一人でやる規模じゃないといわれたが、結構時間かかったんだから、そらそうだろ。

本当にすごい人は一瞬で全部やっちゃうんだろうなと言ったら、すごい勢いで否定された。


後で詳しく教えてもらえるようだが、俺の魔法は色々おかしいらしい。

あと魔法じゃなくて魔術だそうだ。


改めて見ると、結構いろいろ作っていたもので、その半分以上は一度使った切りの物も多く、そういえばこんなのも作ったなーと思い出しながらの整理だったので、しばしば途中で手が止まってしまう。

その度にエレイアとテオから突っ込みが入り、作業を再開できていたが、もしも一人でやっていたら今日までに終わらなかっただろう。


結局持っていくものは、刃物6本と皿が10枚とジョッキが5つ、シャベルが9本と意外と少なくなったので、木箱に詰め込めるだけ詰め、余ったのは蔓で編んだ紐でまとめると背負った木箱の上に括り付けて運ぶことにした。

衝撃対策で普段寝具に使っている毛皮を箱に巻き付けておく。

見た目は二宮金次郎っぽくなるだろう。


重さも結構あるので強化魔術を使って安定性を保つ。

楽に持ち上げて歩く俺の姿を見て、なぜか3人は死んだ魚のような目で見る。

これも魔術でやってると言うと、何かを諦めたようにため息を漏らした。


なんでそんな反応に?


例の魔物の毛皮は隊長さんが背嚢に括り付けて持ってくとのこと。

くるくると巻物状にしても、電信柱ぐらいの太さがあるので大変そうだ。

俺が持つかと提言してみたが、大人の仕事だとして撥ね退けられた。

これでも中身は30超えの大人なんだが、そういうことではないのだろう。

純粋に体格の問題かと。


村を出て門を閉めた途端、なんだか寂しさの様なものが込み上げてきて、ジッと門を見つめて、おもむろに深く頭を下げる。

3か月近く世話になったのだ、最後にお礼をしてもおかしくないだろう。


頭を上げる頃には気持ちも切り替わり、3人の元へ行き、出発を告げられてからは後ろを振り返ることはなかった。

男の門出に涙の一つもあっても良かったが、これからの道行と同じ晴れた空の下ぐらい、笑顔で去りたいじゃないか。

そうして前だけを向いて森をズンズン進んでいった。






先頭をテオ、真ん中にエレイアと並んで俺が、最後尾を隊長が歩く。

移動の最中、エレイアから色々話を聞いた。

これから向かう村のことやヘスニルの街のこと、それから一番聞きたかった冒険者のことも。


大体は俺の想像と大差なかった。

一攫千金を夢見てギルドに登録して、報酬と引き換えに依頼を受ける。

ランク制をとっており、上位者には仕官の道も開けるそうだ。


隊長さんが短期間だけ冒険者として活動していたことと、テオは隊長が冒険者から引き抜いたことも聞かされた。


それを聞いて2人に話を聞かせてもらおうとしたが、エレイアに止められた。

今は周囲の警戒中なので話しかけるのはよくないそうだ。

夜にでも時間を割いてもらえるはずとのこと。


魔道具のことも聞いたが、村に行けば一つぐらいはあるかもしれないので着いてから教えてくれることになった。

貨幣のことも聞いたが、それも村についてから教えてくれるらしい。


その後は順調に行程が進み、一度だけ狼4匹に襲われたが、テオとエレイアの連携であっさり倒される。

本来であれば解体して毛皮を持ち帰るところだが、今は荷物が増えるのを嫌ってそのまま放置してきた。

夕方になってから野営に丁度いい開けた場所が見つかったため、早めに今日は休むことにする。


水の心配はいらないと俺から言ってあるので、隊長たちは半信半疑ながらここで野営の準備に取り掛かっていた。

普段は火を熾した後は交代で見張りを立てて、焚火を囲んでマントにくるまって寝るらしい。


なるほど、危険な森の中ではそうするのも当然か。

順番に見張りの役が回るため、朝方に見張りに立った人間の疲労も考え、すこし出発は遅くするとのこと。

そのおかげで日中の移動時間が減るのが悩みだそうだ。

安全のためには仕方ないとはいえ、中々大変だ。


安心してください、その不満、私が解決しますよ。

3人を少し下がらせて、地面に両手をつけて土魔術でちょいちょいと家を建てる。

形状はかまくらを真似て、天井中央に50センチほどの穴を空ける。

中で火を使うことを想定した、煙を逃がす穴だ。


内部の広さは半径4メートルほどにした。

大人が3人入るのでこれくらいは欲しかった。

入り口は大人が屈んで入る大きさ程度、荷物を重ねて積めば塞ぐくらいはできる。


あっという間に完成させて、ドヤ顔で振り返ると、3人が顎が外れそうなくらい大口を開けて驚いていた。

…なるほど、これぐらいでもまだ普通ではないということか。

本気なら一軒家ぐらいいけるんだが。

加減がわからんな。


ともかく率先して中に入り、荷物を下し焚火の準備をする。

火を熾し終えた頃には3人が入ってきて荷物を降ろすと、中を見まわしだした。


「…なんともまあ、信じられんな。野営でこんな安全な住居が使えるとは。魔術の可能性をまざまざと見せつけられたな」


「いや隊長、こんなこと普通はできませんって。アンディ、お前にも言っておくがな、普通土魔術ってこんなこと出来ねーからな。まあ、安全に夜を越せるなら何でもいいけど」


男性陣の返事を背中で受け流しながら、食事の準備に取り掛かる。


「夕食でしょ?手伝うわよ。あ、そういえば水の件は任せることにしたけど、どうするの?」


「それは今用意します。エレイアさん、俺の荷物から一番大きい器取ってもらえます?あぁそれでいいです」


そういって用意してもらった大鍋並みの大きさの器に、魔術で水を生成する。

大気や土中、そこらの植物なんかからも水分を集めるので、少し時間が掛かるが、それでも5分もかからず器は満杯になった。

これ、乾燥する冬になっても使えるのかな。


「これで充分でしょう。足りなくなったらまた足しますので、好きに使ってくださいね。…ってなんです、その顔?」


エレイアが何か苦い顔をしているが、理由がわからないので、他の2人に目で理由を尋ねてみたらテオが教えてくれた。

この人説明好きだな。助かるけど。


「ぶっちゃけ魔術で生み出した水はあんまし旨くねーんだわ。俺らは入団の歓迎会で飲まされたことがあってな、飲めないこともないんだが、なんつーか味気ないみたいな?喉の渇きが収まらない感じがするんだよ。一杯の水を出すだけで魔力をバカ食いするのに味が悪いんじゃ、本当に最悪の時にしか飲みたくないね」


それでエレイアが嫌そうな顔したのか。

確かに料理に使うのにも飲用にも使うとなればそんな反応もするだろうな。

でも、大丈夫だろう。

前に飲んだ時は普通にミネラルウォーターっぽい味だったし。


「いや、大丈夫ですって。俺のは不味くないですから。何なら飲んでみます?」


そう言って、荷物から木製のマグカップを取り出し、水をすくってエレイアに差し出す。

突き出されたマグカップを受け取り、一向に口をつけようとしない。

隊長とテオにチラと目で助けを求めるが、逸らされてしまい追い詰められた顔になった。

いや、本当に大丈夫だから、一気にいっちゃって?


ジッとマグカップを見つめている内に覚悟が決まったようで、一息に飲み干した。

一瞬時が止まったような静寂が下りるが、すぐに甲高い声が上がった。


「うそ、おいしい!全く不味くないわ。普通の水と同じよ、これ」


「だから言ったじゃないですか。じゃあ安心したところで食事の準備にかかりますよ。安心してください、皆さんの分もありますよ」


そう言って準備に取り掛かる。

エレイアの言葉を受け、他の2人も水を飲んでいく。

「どれ、…本当だ。普通の水だな。充分旨いぞ。テオ、お前も飲んでみろ。…魔術で出したのにこの違いは一体何だ?」


隊長の疑問の声を打ち消す勢いでテオがうまうまと騒いでいる。

よかった、満足してくれたようで。


今日の料理は簡単なものしか作れない。

鍋に沸かしたお湯で持ち込んだ干し肉から出汁を取り、試作していた乾燥させた山菜を投入する。

これも今日食べるつもりで持ってきた、鹿肉をぶつ切りにし、串に刺して焼いていく。

切る際に出た端切れの肉は鍋の具にした。


途中からエレイアも手伝ってくれて完成した料理を皆で食べ、片づけを終えたらいよいよ隊長から話を聞けた。

冒険者暮らしの時のことや、テオを引き抜いた時の話などを、時折テオとエレイアの補足を挟んで話してもらった。

細かく話すと小説1章分になりそうなので割愛。


話がひと段落したところで俺の魔術についての話になった。


「土魔術は本来、大人4人が隠れる程度の壁を作ったり、落とし穴を作る程度のことしかできない。複数人でとりかかれば簡単な防御陣地ぐらいは短時間で作れる。基本は土木作業に向いているな。水魔術は水を操って消火や移動に使ったり、生み出した水は飲用には適さないが、作物は育つから農業には使える。どちらも熟練の魔術師が使えば殺傷能力には期待できるが、あまり実戦で使う者はいない。その点、火魔術は攻撃に特化していると言える。それ以外には使い道はないから、潰しがきかないのが難点か」


隊長のプチ魔術口座で知らされる新たな事実のオンパレード。

俺の本来の運用からはかけ離れた魔術の実態に衝撃を隠せない。


なにせ俺は土も水もどちらも攻撃に使えるのだ。

土魔術で相手の足元にいきなりでかい落とし穴を作れるし、圧縮した水を高速で撃ちだせばウォーターカッターのように切断もできる。


一番威力のあるやつだと成型した弾丸状の石を高速回転で撃ち出したり、圧縮した水球を飛ばしてぶつけた瞬間に圧縮解除すると爆発したりとか、色々やばい威力の魔術もある。

ただ、威力があるだけに発動までの時間は結構かかるという欠点も抱えているが、慣れればそこもなんとかなりそうな余地は覚えている。


そのことを隊長に聞くと、そんなやり方は聞いた事が無いと言われ、土から金属を抽出するのもあり得ないと言われた。

むしろ、お前そんなこと出来たのかみたいな感じで問い詰められて、粗方白状してしまった。

だってなんか迫力がすごかったんだもん。

怖いっ、でもゲロっちゃう!


「なるほど、お前には言いたいことと聞きたいことがあるが、まあいい。とりあえず雷の魔術は全く新しいものと捉えていいだろう。強くは言えないが、あまり言いふらさない方がいい。王都の魔術協会の連中にさらわれて研究材料にされかねんぞ」


魔術協会!

また新たな胸熱ファンタジー用語が出てきた。


聞くと単純に冒険者ギルドの魔術師版で、魔術の開発・発展に日夜活動しているそうな。

やっぱりホ○ワーツみたいな感じなのかな。

一度訪ねてみたい。

でも、モルモットは勘弁な。


長い時間話し込んでしまったようで、なんだか眠くなってしまった。

俺の様子を感じ取ったようで、今日はこれでお開きとなった。

安全な寝床とはいえ、やはり起きている人間は置いておきたいらしく、いつも通りの交代制の見張りを行うことになった。


これもいい経験だと思い、隊長に頼んで、俺もそのローテーションに組み込んでもらおうとしたが、子供は寝てろと切って捨てられて、矛先をエレイアに変えて再度お願いをしてみた。

もちろん断られたが、しつこく頼むと朝方の見張りに起こすということを約束させた。

子供の無垢なお願いを断り切れないエレイアさん。

チョロい。


子供の体に夜更かしはきついので、皆に先に断って見張りの交代まで寝ることにした。





SIDE: ギリアム・スーラウス


「眠ったみたいですね。…アンディ君の魔術、どう思います?」


エレイアがそう言ってアンディに掛かっていた毛皮の位置を直している。


「さっき薪に火を付けた魔術が恐らく雷魔術なんだろう。確かに見たことも聞いたこともない魔術だ。火をつけるだけなら大したことはないが、恐らくもっと強力なのも使えるんだろうな。想像も出来んが。水魔術にしても普通の水と変わらない質であれだけの量を生み出して、疲れも見えなかった。もしかしたら俺たちの知る魔術と何か違う力なのかもしれん」


魔術のことはわからんが、土の家を作り出し、飲用可能な水を潤沢に生み出せるだけでも軍事行動に付いて来て欲しいところだ。


普通の魔術師がここまでやれるようになるのにどれだけの時間と手間がかかるだろうか。

それをこんな子供がこなしてしまうとは。

下らん争いに巻き込まれないといいが。


「隊長、俺はアンディを騎士団に取り込むのは反対です。これだけ有用な能力ですと、上の連中に目をつけられたら、使い潰されかねません。冒険者になるにしろ街で仕事を見つけるにしろ、魔術の腕だけでも十分やっていけるでしょう。その方がアンディの可能性を生かせるはずです」


テオの言葉にも一理ある。

騎士団というのは完全に命令系統に支配されている。

そんなところでは、いいように使われるだけ使われて自由に生きることなど到底できない。


「私もテオと同じです。まだ子供なんですし、私たちが道を閉ざすのはあってはならないことですから。あの子は賢い子です。自分の道は自分で決めさせましょう」


エレイアはアンディの力を知る度に自立した大人として扱うようになっていった。

まあ、まだ弟を構う姉みたいな感じは抜けていないが。


真面目になった空気を軽くするために努めて明るい声を出す。


「どうするにしろ本体に合流してからだな。なに、俺だってアンディの為にも出来ることはするつもりだ。ただまあ、来た時よりも水の心配だけはしなくて済むのはありがたいよな」


俺の言葉に笑い顔が出てきて、見張りの順番を話し合う。


いつものように俺・テオ・エレイアの順番でいこう。

それと夜明け前にアンディも加わるか。

いつもより少し早起きをするようなものだから大丈夫だろう。


そうして夜は更けていく。


SIDE:OUT

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