ホラーゲーム実況動画。

山岡咲美

ホラーゲーム実況動画。

 何時もと変わらない日常が何時までも続くとは限らない。



「こんにちはゲレヲです、今日はこのホラーゲーム[坑道]って言うのを実況していこうかと思っています」

2020年夏、彼は何時もの様に自宅マンションでゲーム実況動画を作っていた。


四年に一度のスポーツの大会が延期されようと世界がどんなに変わろうと彼の日常は変わらなかった。


「これそのまま坑道が舞台のゲームらしいんだけど、タイトル画面は坑道とSTARTの文字のみ!シンプル イズ ベスト!!」

真っ黒の画面に赤い文字で書かれていた。



「じゃ、STARTっと」



「始まります、えっと何々?〔僕は廃墟マニアで興味本意でここに来た、この鉱山跡はマニアの間でも有名で〕えーと、この人が主人公?僕って言ってるので男かな」

3DCGで描かれたゲーム画面には山と坑道の入り口が写し出されていた。


「虫と蛙の鳴き声かな?あとは足音」

音は効果音のみで音楽や声は無く文字が画面上に表示されるゲームのようだ、どうやらキャラクター視点でキャラクター自身は映らないらしい。


「これ時間だ、画面左上に時間表示が出てますね、2020年8月5日(水)20:08…これリアルタイムだ」

画面上も彼の部屋も満月に照らされていた。


「で続きは?〔ナゼここかと言えば、ここなら本来鍵が掛かっている筈の坑道に入り中を観られるって噂を聞いたからだ〕鍵空いてたからって入っちゃだめだろ、不法侵入!」

彼は突っ込みを入れる。



「えっと…ちょっと待って、これ走るはどうする?あっこうか!で、これで調べるっと」

入り口の前、坑道サイズの大きな鉄の扉とその扉についた小さな作業員の用の扉の前で操作を確認する。


〔鍵が開いてる〕


「ガッツリ開いてますね、皆さんは坑道の鍵が開いて居ても勝手に入っちゃ駄目ですよ、これゲームだからね」

そう言うと作業員用の扉から坑道へと入って行った。


「暗いな?…あっ、たしかアイテムボックスに…あった、コレ」

彼は動作テスト時アイテムボックスにライトがあるのを確認していた。


「坑道って言うか天井高くてファンタジー系のダンジョンみたいだ、壁や天井は剥き身の岩肌で結構綺麗な感じするけど…これは何か出る系だと一方通行の狭さだな」

入り口から差し込む月明かりが遠ざかりライトの光りを頼りに前へと進む。


ガチャン!!


「うおっ!!」


後ろで大きな金属音がした。


「なんだ?………ああ、閉じ込められるやつだ、これ脱出するんだな」

一度入り口の扉まで戻り開かない事を確認する。


「なんで閉まったんだろ?ゲーム上のご都合主義かな?」

奥へと進んで行く。


「下に通ってるのレールかなあ?トロッコとかあるのかも」

坑道の真ん中には錆びた二本のレールがあった。


「車だ、こう言う所って朽ちた車とかあるよな」

目の前に軽トラックが乗り捨てられていた、坑道のはば半分くらいを奪っている。


「荷台には何も無いな、これ中から出て来るパターンか?」

少し警戒して軽トラックの運転席を覗く。


「何もない…ですね」


「あとはドラム缶がある」

ライトで照らす。


「ハウン!!」


「ネズミか…演出細けーよ!」


「…あれ建物?」

真っ直ぐそこに近付く。


「これ避難所とか休憩所とか言う奴だな」

そこは少し空間が広くなって居て頑丈そうなコンクリートの建物が建っていた。


「窓とかも一様有るんだな、地下なのに」

壊れて地面に落ちていたドアを踏みながら室内に入って行く。


「有るのは机、ロッカー、開きっぱなしの冷蔵庫、テレビ…電気は来てないですね」

照明のスイッチを見つけたが、カチャカチャと音がするだけだった。



「机の上、なんかある?ノート?…」



「なんかこのノートだけ綺麗なんだけど…」

他の物は分厚いホコリが積み重なって土気色なのにそのノートは古くはあったがホコリが払われている様だった。


「調べるのは…コレかな?」


ノートが開き画面上に表示される。


ルール説明

鬼に捕まったら負け、鬼を殺したら負け、鬼が殺したら鬼の負け、坑道から出たら勝ち、スタートの合図はルール説明をする事。


「……何?」

室内は静けさに包まれる。


「…………ロッカー調べるか?」

ロッカーをゆっくり開ける、鬼が出て来るかと思ったが空っぽだった。


「ここはもう何も無い…よな」

先へと進む…。


「来た場所は閉まってて開かないから、別に出口があるのか?」


「で、鬼に捕まらない様に逃げると…」


「鬼?」


「鬼ってなんだ??」


「鬼を殺すと負けで、鬼が殺してもダメって事は取り敢えずは死なない感じですよね…」


「十字路だ」

奥に進むと分岐するようになって居た。


「これたぶん脱出って考えると、真っ直ぐが正解なんじゃない?山の向こうに繋がってるとか…」


「分岐にアイテムとかあるのかな?」


「まっ先見てから考えよう!」


色々と考えたが、取り敢えず真っ直ぐ進む事にした。



「フウッン!」



彼の体がビクッと硬直する。


「ライト???何?何?何?…」

ライトの光に一瞬照らされたのだ。


「後ろ何か居る?」

ライトで照らそうと後を振りかえる。


「ン?!」


「まぶしい」


「ちょっ、見えないな???」


顔にライトが当たり画面が真っ白になる。


「誰?何??」

その方向にライトを向ける。


〔すいません〕


人が居た、少年だ。


〔あの、貴方どこから来たんですか?〕

少年が質問してきた。


十代後半くらいだと思われるが、なんだかもっと幼い印象だ。


「えっと、えー…??、?ボイスチャット?いや文字、キーボードか?」

ゲレヲはキーボードに入力する。


〔ここで何をしてるんですか?〕


〔僕もこのゲームをしてるんです、でもどうしても出れなくて、一緒に出口を探して貰えませんか?〕


「どゆ事?」


「超展開来ちゃったよ、これ他のプレーヤーと繋がってんの?」


「俺、協力プレイすんのか?」


「あー、えっと…」


〔い、い、ですよ、一緒に出口を探しまs…


ゲレヲはキーボードにそう打ちかけてその手を止めた。


「何か変じゃね?」

ライトでよおく少年を照らす、毛先が金髪の肩にかかる長髪、ブカブカ上着と靴は作業員の物と解る。


「アイテムか?」


「この子スゲー痩せてんな…」


少年はまるで何年もこの坑道をさ迷ってる様な風貌で、、、それでも人に信頼される様な柔らかな笑顔を見せていた。


「……?」

少年は作業服の下にパジャマを着ている。


「これ、まずい奴かも」

少年から少し遠ざかる。


〔あ…〕

その瞬間、少年の顔から全ての感情が失くなり掴もうとしてきた。


「………鬼だ!」

逃げる!!ライトは揺れ壁や天井をバタバタと照らす!


「恐っ!ヤベ!真っ直ぐ?角曲がる?真っ直ぐか?この先が出口だと賭ける???」

全力で逃げる!


「最初のモノローグの男はこの子だ!」

ゲレヲは必死に走る、少年の足は彼より遅く少し離れた感じだ。


「逃げきれる!」


「大丈夫!」


「きっとこの先が出口に決まってる!」


「ゲーマーの勘を信じろ!!」


「!」


「?」


「……」


「何起こった?」


岩肌の天井が見え、ライトが遠くに落ちている。


「転んだ?どうして?」


〔つかまえた!〕


少年がゲレヲの肩をポンっと叩く。


「ゴメンなさい、僕ずっと、ここに閉じ込められてて、食べ物も虫とか、蛙とかしか無いから、痩せちゃってて、だから…」

少年の声が聞こえる…か細い声だ、そして少年は指をさす。


「ロープ?」

坑道に、足元にロープが張ってあった。


俺は少年の顔を見上げる。


「本当にゴメンなさい…」

少年は安堵の顔で涙をながし、今にも倒れそうな感じで揺れ、そして崩れ落ちた。


「おい!」

俺は思わず少年を支える。


「鼠、あんまり美味しく無いから…」

その言葉は少年の心からの親切心だったのかもしれない。


「消えた?」


「何処いった??」


「えっ?ここ何処だ??」


「ライト?あの子のか?」


明かりの点いたままのライトが二つと少年の着ていた作業服と靴が地面に落ちていた。


「ちょっと待てよ…俺の部屋は?」


「ここ本当に何処?」



何処に居るのかは俺が一番良く知っていた。



「嘘だろ」


「あの子が鬼で俺が捕まったから?」


「……負けたの????」


「で?……」



「嘘」



「嘘嘘」








「嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘……」



***



俺は坑道の中に居た…。



服はネクタイを外したYシャツにスラックス足元は靴下を脱いで部屋で使ってるビーチサンダル。



俺はしばらくして落ち着いた。


俺は少年の着ていた作業服を着た。


俺は少年の靴を履いた。


俺は坑道をさ迷った。


俺は頭がおかしくなりそうだった。



俺は少年の住みかを見つけた…。



入って来たのと反対と思われる山面やまづらに出口があり、その近くの錆び付いた運搬用トロッコが少年の寝床だった、汚い毛布が丸まっている…。


そしてまわりには鼠の革を何とかなめそうとしたものが何枚かとその骨が散らばっていた。


出口には入って来た時と同じ扉が有り、作業員用の扉は簡単に開いたが透明な壁に阻まれる様に出る事は出来なかった。



「鬼は出れないのか………」



「?、トロッコに何か掛けてある」

俺は汚い巾着袋の中に大量のライトを見つけた。



何時もと変わらない日常が何時までも続くとは限らない……。



END

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