第3話 期待

 入学式の翌日、午前中に健康診断や学生証用の写真撮影を済ませ、午後からは待ちに待った部活オリエンテーションだ。もともと新聞部目当てでこの高校を受験したのだから、他の部活は眼中にない。ただただ、新聞部への期待ばかりを胸に体育館に入る。

「ねぇ、詩織はどこの部活とか決めてる?」

 人懐っこい笑顔でそう尋ねるのは、私の友達第一号の卯月綾香だ。誰とでもすぐに仲良くなれる、私とは対照的な子だ。彼女には運動部が似合いそうだと考えながら答える。

「新聞部にしようかなって考えてた」

「たしかに詩織はおとなしそうだし、いいかもね。国語、得意なんでしょ。私はやっぱり吹奏楽かなぁ。こう見えて中学では吹部でトランペットやってたんだよ」

 私は少し驚いた。綾香が元吹奏楽部だったことではなく、私の得意教科を覚えていたことだ。自己紹介のときに確かにそう言ったが、そんな細かいところまで覚えていたのか。ちなみに私は中学時代、帰宅部のエースだった。

 とりとめのない話をしていると、学年主任の黒川先生から部活選びについての注意が入った。部活は基本的に3年間継続すること、部費などに関して家の人とよく相談すること、などありきたりなものばかりだ。体育館はそんな注意よりも部活紹介を待つ生徒のざわめきでいっぱいだった。

 私の胸は大きく、高鳴っていた。

 

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