第3話




 ああ、これが恋ってやつなのかな。





 わかんないけど。





 ◆ ◇ ◆





 屋上での出来事があってから二週間。


 あれから分かったことは、彼女の名前。

 あの子は隣のクラスの子で、冴原美優さえはらみゆ

 勉強や運動は、平均。友達も普通にいる。先生からの評価も、まぁ普通。

 特に飛び抜けた何かがあるとかじゃない、と思う。


 まぁ強いて言うなら、人よりもネガティブ。自信が足りない子だ。

 出来ないと思ったことには手を出さない。

 壁が高いと直ぐに諦めちゃうタイプだ。


「それって勿体なくない?」

「なんでよ。出来ないって分かってるのに無理しても意味ないじゃん」

「そうやって決めつけてたら何も出来ないよ?」


 あれから俺らは昼休みに屋上で会うようにしてる。

 お互いを知っていかないと好きになれるかどうかも分からないからな。


 なんか、改めて思うけど俺らって変な関係だよな。


「俺、そういうの好きじゃないな。可能性を自分で潰しちゃうのって嫌じゃん」

「自信がある人の台詞だよね。私には無理。失敗したときのこと考えちゃうもん」

「失敗は成功の何とかっていうじゃん」

「君は良いよね。前向きで」

「美優が後ろ向きなんだよ」

「……てゆうか、なんで呼び捨てなの?」

「ダメだった?」

「……ダメ、じゃないけど……」

「かわいいじゃん、美優って」

「……黒崎君ってなんかズルいよね。あんまり女の子にそういうこと軽々と言わない方が良いよ?」


 ん? 俺、なんか変なこと言ったかな。

 普通に思ったこと言っただけなんだけどな。


「そういや、さ」

「何?」

「好きな人って、どうやったら気付くもの?」

「は?」

「俺、好きな人とか出来たことないからさ」

「そうなの? 初恋は?」

「まだ」


 即答すると、美優は目を丸くして驚いた。

 そんなに意外か? 中学生で初恋まだって人は結構いると思うんだけどな。

 誰もが初恋は幼稚園って訳じゃないだろ。


「好みとかないの? 理想とか……」

「別に。理想だけで人を好きになる訳じゃないだろ」

「そうかもしれないけど……大人しい子が良いとか、可愛い子が良いとかないの?」

「前にも言ったけどさ、そういうので好きになるのはどうかと思うんだけど」

「黒崎君って変わってるよね」

「そうか?」


 それ、普通じゃないのか?

 だって大人しい子が好きだって言って、世界中にはそれに当てはまる子が大勢いる訳で、それ全員を好きになれるかって言ったら、なれないだろ。

 可愛いとか、そういうのもだ。

 てか、相手に自分の理想を押し付けるのもどうかと思う。

 それって、本気で相手のこと好きになったとは言えないだろ。相手の個性を否定してるようなもんじゃん。

 そういうの、嫌いだな。


「俺なら、相手の全てに惚れたいって思うけど」


 それって、変なことかな。

 まぁ、お互いに全てを包み隠さずにってのは無理があると思う。好きな人相手だからこそ、内緒にしておきたいこともあるだろう。

 それを詮索する気はない。俺だってそういうのあったら触れないでほしいなって思うし。


「……黒崎君って、なんていうか……やっぱり変わってるよね」

「え?」

「なんていうか、中学生でそこまで考えてるのってスゴイよ」

「そうかな?」

「そうだよ。なんか、憧れる」


 そう言って、美優はふわっと笑った。

 あ、今の顔メッチャ可愛い。

 やっぱり美優は可愛い子だと思うな。あのギャアギャア泣いてるのも含めて。


「可愛いよな」

「は?」

「美優」

「は!?」


 あ、顔が真っ赤。

 可愛い。うん、可愛いな。

 出逢いがあれだったから美優は俺に対してキャラ作ったりしないし、素の彼女を見れてる。


 だからかな。

 もっと知りたいって思うのは。



「美優」




 俺は彼女の腕を引いて、胸に抱き寄せた。


 なんか、こうしたいと思ったんだ。

 抱きしめたいなって、思っちゃったんだよな。


 笑顔が可愛くて、愛おしくなって、つい。




 これ、好きってこと?




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