case31.黒崎郁
第1話
恋って、なんだろう。
ドキドキする感覚って、どういうのかな。
わかんない。
わかんないけど、羨ましいな。
人を愛せるのって。
◆ ◇ ◆
なんか、中学に入ってから色恋沙汰の話をよく耳にするようになった。
誰と誰が付き合ってるとか、誰が誰のこと好きだとか。
俺の幼なじみは高校生なんだけど、最近付き合いだした。まぁ、この二人は昔っから両思いだったんだけどね。こっちからしたら、やっとくっ付いたかって感じ。
好きって、どんな風になるんだろうね。
俺はまだ初恋すらしてない。恋とか興味なかった。友達と遊んでる方が楽しかったから。俺の姉も彼氏とかいないんだよな。もう社会人だっていうのに。
「……はぁ」
「どーした?」
「俺、ぼっちかも」
「はぁ?」
机に突っ伏していた俺に、友人の井上唯が声を掛けてきてくれた。
唯は女にしか見えない男子。これで空手部に入ってて、何度も優勝してるんだから怖い。確かちょっと前に演劇部の女子にゴスロリ系の服着せられてたっけ。あれは完全に女子にしか見えなかったわ。
そういえば、その服着て部活に出されたとかで、ゴスロリメイド服で空手部の主将を投げ飛ばしたらしい。その写真が出回ってたみたいだ。
「郁、友達多いじゃん」
「友達が多くてもなぁ……なぁ、なんでお前は彼女出来たの?」
この顔で彼女持ちとかどういうことだ。むしろ彼氏出来ちゃったとか言われた方が納得できたわ。
「なんでって……そりゃあ、勇気出して告白したし……」
顔を赤らめるな。
可愛いって思っちゃうだろ。てゆうか、普通に可愛いわ。ズルいぞ、お前。
「唯に彼女出来るなら俺に出来てもおかしくないだろ……」
「失礼だな、お前」
「そもそも、好きな人すら出来たことないしなー」
「……そんなに悲観しなくてもいいだろ。まだ中学生なんだし」
「……そーだけどさぁ」
好きなタイプとか、こういう恋人がほしいって理想もない。
てか、誰かを好きになっている自分をイメージ出来ない。恋人がいる自分とか、結婚してる自分とか、想像できない。
「……恋って何だろう」
「いきなりだな」
「中学生って、そういうの多いじゃん」
「まぁ、そうかもしれないけど」
「なのに俺、その波に乗れてない」
「無理して乗るもんじゃないだろ」
「そうかもしれないけど」
俺、もうダメかも。
将来、みんながどんどん結婚していく中で俺一人が独身なんだよ。そして最後は孤独死するんだ。
なんて寂しい人生なんだ。今から悲しくなってくるよ。
俺は気を紛らわせそうと思い、唯に一言サボるとだけ告げて屋上へと向かった。
あー寂しい。俺、友達多い方なんだけどなー
屋上に入ると、誰もいなかった。
もうすぐ授業だもんな。そりゃそっか。
適当に寝転んで、俺は目を閉じた。
「うわああああああああ!!」
寝たかったんだけどな、俺。うん。
その悲痛な叫び声に目を開けると、フェンスのところで一人の女子が空に向かって泣いていた。
何してるんでしょうか、彼女は。
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