第3話
もう、逃げたくない。
ずっと、君と一緒にいたい。
◆◇◆
翌日。
僕は郁の家から学校に登校した。頑張ってね、そう笑顔で見送ってくれた郁のためにも、僕はちゃんと咲良と話をしなきゃいけない。
緊張する。でも、このまま気まずいままなんてイヤだ。僕は咲良とずっと一緒にいたい。この気持ちを、伝えたいんだ。
教室に入ると、咲良は自分の席に座っていた。
僕に気付くと、彼女は一瞬悲しげな表情を浮かべる。昨日は散々泣いたのか、目が赤い。今にも泣きだしそうだ。
こんな顔させてしまったのも、僕のせいなんだよな。ゴメン、咲良。
「咲良……」
「……お、おはよう。りっちゃん」
僕が話しかけても咲良は俯いたまま。
こっちを見ない。
きっと泣き腫らした目を見られたくないんだろうけど、このままじゃ話にならない。
ちゃんと話をしないと。今を逃したら、今度はいつになるか分からない。下校まで先延ばしにしたら、僕は怖気づくかもしれないし、咲良が先に帰ってしまう可能性もある。
だから、今しかないんだ。
「咲良、話がしたいんだけど」
「……話、って?」
「その、昨日のことで……」
「そのことなら、もういいよ。気にしないで」
「え?」
「昨日はゴメンね。りっちゃんのこと困らせちゃって……私のことは気にしなくていいから、本当に。本当にゴメンね」
話が続かない。咲良が僕と会話をしようとしていないんだ。
なんで?
咲良は、終わらせようとしているのか?
話し合う必要もないと、そう思ってる?
どうして、今度は君が僕から逃げようとするんだ。お願いだから、僕の話を聞いて。
このままじゃ、嫌なんだ。身勝手かもしれないけど、嫌なんだ。
このままなんて、もう嫌だ。
このまま、咲良と話が出来なくなるのが嫌なんだ。
そうなったら、絶対に後悔する。
こんな後悔は嫌だ。
「咲良、来て」
「え、りっちゃん!?」
僕は咲良の腕を引っ張って教室を出た。
後ろから咲良の声が聞こえるけど、そんなの構わない。僕は先を行く。
誰もいない場所へ。
君と向かい合って話が出来るように。
「……りっちゃん、強引だよ」
「……」
「りっちゃん、りっちゃんってば……」
「ゴメン」
「……謝らないでよ……」
「……ゴメン」
誰もいない階段の踊り場で、僕は足を止めた。
ゆっくり振り返ると、咲良はやっぱり俯いたままだ。
それでも、逃げようとはしない。
僕は静かに息を吐いて、早鐘を打つ鼓動を落ち着ける。
大丈夫。素直になろう。
「咲良。昨日はゴメン」
「……なんで、りっちゃんが謝るの?」
「悪気はなかったとはいえ、結果として咲良のことを泣かせてしまった」
「……だから、りっちゃんは悪くないって」
「いや、僕が悪いよ。君の気持ちから僕は逃げていたんだ。変わりたくなくて、変わることが怖くて……逃げていたんだ……」
素直に僕は自分の気持ちを告げる。
どう思われてもいい。正直に伝えたい。
僕はもう変わることを恐れない。
そうだ。成し遂げてからじゃなきゃ、後悔だって出来ないんだ。
そんなのダメだ。君の想いから逃げるなんて、ダメなんだ。
「僕たちはずっと幼なじみだったから、だから一緒にいられた。これから先も、このままの関係なら変わらず一緒にいられると思ってた。だから……ずっと幼なじみって関係でいたいと思ったんだ」
「……」
「僕は、咲良と一緒にいたいんだ。これから先も、ずっと。何年経っても、何十年経っても……離れたくない」
「……りっちゃん」
「好きだよ。僕も、咲良のことが、ずっと好きだよ」
そう言うと、咲良は目を見開いて大粒の涙を零した。
伝えられた。僕の気持ち。
臆病な、僕の気持ち。
君はどう思った? 幻滅した?
「咲良……?」
「ほん、と?」
「うん。本当だよ」
「ほんとに、ほんと? 嘘じゃない?」
「嘘じゃないって。僕の言うこと信じられない?」
「ううん。信じる。嬉しい。嬉しい……!」
涙が溢れて止まらない咲良の肩を、僕はそっと抱きしめた。
咲良は僕の背中にギュッと抱き着いて、子供みたいに泣いてる。
これから先、もしかしたら僕たちはお互いのことを嫌いになるようなことがあるかもしれない。この気持ちが褪せてしまうことが、あるかもしれない。
それでも、今はこの気持ちを大事にしなきゃ。
僕たちは今、互いを想っているんだ。
大事なのは、今だ。
そうしたら、きっと。
この先にどんな未来が待っていても、後悔はしないから。
もう、僕は君から逃げないよ。
どんなことがあっても。
僕は、これからもずっと、君の隣にいたいんだ。
この思いは、ずっと変わらないから。
きっと、いつまでも。
変わらないから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます