第3話






 私の、この気持ちは。




 君には迷惑でしたか?





 ◆◇◆




 翌日。

 私はいつものように学校へと登校していた。

 教室に向かいながら私は昨日のことを思い出す。

 本当に楽しかったの。映画観終わった後も近くの喫茶店に入って沢山お喋り出来た。何だか、昔に戻ったみたいで嬉しかった。

 傍から見たら恋人に見えたんじゃないかな、なんて思っちゃったりして。



「なぁ小早川。昨日、九重と一緒だったよな」


 教室のドアを開けようとした瞬間、中から声が聞こえてきた。

 クラスの男子が昨日、私たちを見かけたみたい。そのことを、りっちゃんに訊いてる。


「そうだけど、それが?」

「お前らって結構仲良いよな。もしかして付き合ってんの?」


 ドキッとした。彼は私たちが幼なじみだって知らないのかな。

 どうしよう。教室に入りにくい。

 りっちゃん、何て答えるのかな。普通に、幼なじみだって答えるのかな。


 それとも、それとも。


「違うよ。ただの幼なじみだし……そういうの、有り得ないから」


 血の気が音を立てて引くって、多分こういうこと。

 一気に頭の後ろの温度が無くなっていったみたいだった。心臓が止まってしまったような、そんな感じ。


 有り得ない。有り得ないの?


 幼なじみは、そういう関係になれないの?



 聞こえてきたりっちゃんの声は、何だか迷惑そうだった。

 そんなに誤解されるのが嫌だった? 私、りっちゃんとそういう関係にはなれないの?

 ダメなの? 望みはないの?


 私は、弾かれるようにドアから手を離し、廊下を走った。


 ダメ。このままじゃ、泣いてしまう。

 こんな顔、りっちゃんに見せられない。


 ダメ。ダメだよ。



「咲良!」


 階段を下りようと角を曲がると、後ろから腕を引っ張られた。

 私は後ろを振り向かない。声で分かったから。

 りっちゃんが、追いかけてきたんだって。


 追いかけて来てくれたのは嬉しいよ。

 でも、今はダメ。ダメなんだよ。


「咲良、どうしたの? 急に走り出して……」

「……」

「何かあった?」

「……っ」


 唇を噛みしめる。

 泣かないように。


 泣かない、ように。


「咲良?」


 泣きたく、なかったのに。


「え」


 私の目からボロボロと流れる涙に、りっちゃんは小さく驚いた声を上げた。

 顔は見れない。私は俯いたまま、動けないでいる。


 どうしよう。

 見られちゃった。

 泣いてる顔なんて見られたくなかったのに。


「咲良……本当に、何があったの」


 何がって、そんなの言えないよ。


 ううん、言いたくなかったよ。


 でも、限界なの。

 こんな気持ち抱えたまま、いつも通りりっちゃんと顔を合わせるなんて無理。


「迷惑、だった?」

「え?」

「映画、誘ったの……勘違い、されるの……嫌だった、よね?」

「何言って……」

「私は……! 私は、このままじゃ嫌だと思ったの。りっちゃんと、ずっとこのままでいるのが、嫌だったから……だから、変わりたくて……」


 もう、何が言いたいのが分からない。

 でも今まで溜め込んでいた感情が溢れ返って、止まらない。


 止まらないよ。



「好きだよ」




 ゴメンね、りっちゃん。



「ずっと、りっちゃんが好きだよ」




 好きになって、ごめんなさい。






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