第2話




 変わりたくないな。




 怖くなってきたな。




 君の隣にいれなくなるのが、怖いよ。




 ◆◇◆



 今日は日曜日。

 りっちゃんと映画を観に行く約束をした日。

 私は昨日から悩んで悩んで悩みぬいて選んだお気に入りのワンピースを着て、普段は二つに結んでいる髪を下ろしていくことにした。

 変じゃないかな。おかしくないかな。

 お休みの日に会うの、小学生以来なんだよね。なんか緊張する。私服、変じゃないよね。大丈夫だよね。


 平常心、平常心。

 緊張していたら変に思われちゃう。いつも通り、いつも通り。普通に映画観て、普通に食事でもして帰ろう。


「よし」


 準備はバッチリ。大丈夫、いつでも出られる。

 あとはりっちゃんが迎えに来てくれるまで待っていればいい。

 待ち合わせの時間の15分前。りっちゃんのことだから、多分もう来るころかな。



 ―ピーンポーン。 



「あ」


 きっとりっちゃんだ。

 私は親が出る前に急いで鞄を持って玄関に向かった。


「お、おはよう」

「おはよう、咲良」


 りっちゃんの私服、久しぶり。どうしよう、カッコいいかも。てゆうか、りっちゃんはカッコいい。他の女子もりっちゃんのことカッコいいって言ってるし、競争率高いんだよね。よく幼なじみで羨ましいって言われるもん。


「それじゃあ、行こうか?」

「うん!」


 私たちは電車に乗って目的の映画館へと向かった。

 りっちゃん、昔から優しかったけど、今でもそれは変わってないんだな。さりげない優しさが物凄く自然で、そういうのに気付いてドキッとする。

 ズルいな、りっちゃん。りっちゃんばかりそんな風に変わっちゃってさ。

 私は小さい頃と何も変わってない。昔からりっちゃんのことが好きなまま。りっちゃんのことばかり見てる。

 りっちゃんは、どうなのかな。

 私はチラッと横顔を盗み見る。

 りっちゃんは中学に入ってから眼鏡を掛けるようになった。そのせいかな、なんかちょっと雰囲気変わって、大人っぽくなったような気がしたの。

 少し置いていかれたような感じがして寂しくも思ったけど、りっちゃんは変わらず私に話しかけてくれるし、優しい。


 映画が始まり、室内が暗くなる。

 映画を見ながら私は時折りっちゃんの顔を見る。

 真剣な眼差し。真面目に映画を見ているりっちゃん。今の彼は私のことなんて少しも考えていないんだろうな。

 きっと、それは普段から変わらない。

 私たちは、ただの幼なじみ。今までも、これからも、それは変わらないんだろうな。


 変わりたいな。変わりたいけど、怖い。

 好きって気持ち伝えたら、今の関係がおわっっちゃう。

 戻れなくなっちゃう。

 そしたら、私は立ち直れない。りっちゃんの顔、見てなくなるかもしれない。

 そしたら、りっちゃんは優しいから罪悪感を感じてしまうかもしれない。

 それが嫌。でも私も何もなかったように接するなんてできない。


 私たちが幼なじみじゃなかったら、こんなに悩まずに済んだのかな。

 ねぇ、りっちゃん。私たち、このまま変わることは出来ないのかな。




 怖いよ。


 変わってしまうことが怖いよ。





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