case29.九重咲良

第1話




 変わりたい。



 でも、変わりたくない。



 君の隣に、いつまでも……





 ◇◆◇



「りっちゃん、帰ろう」

「うん。ちょっと待って」


 放課後になり、私はいつものように幼なじみのいる教室へと向かった。

 幼なじみ、小早川利津こばやかわりつくんと一緒に帰るために。


「咲良。部活は?」

「今日はないって」

「そう」


 私、九重咲良ここのえさくらとりっちゃんは幼稚園の頃からの幼なじみ。

 昔から私はりっちゃんのことが大好きで、同じ高校に行くために必死に勉強した。りっちゃんは、全然気付いてないけど。

 幼なじみを好きになるなんて物凄くベタな展開だけど、私は小さい頃からずっと、彼を想っている。

 この関係を壊してしまうのが怖くて、告白なんてできないけど。


「り、りっちゃん。今日は郁ちゃんのとこ行くの?」

「いや、今日は行かない。課題、残ってるから」


 郁ちゃんも、幼なじみ。私たちより三つ年下の中学一年生。二人は本当に仲が良くて、小さい頃は私も混ざって泥だらけになるまで遊んだんだ。

 でも今はそんなことできない。りっちゃんとも、何となく距離が出来たような気がする。

 幼なじみとはいえ、男と女な訳で。

 こうして普通に話をしてても、私は彼を意識しちゃうから上手く話せてない。りっちゃんは、昔と変わらないのに。


「……あの、りっちゃん」

「なに?」

「あ、あの……」

「こ、今度の日曜日ヒマ?」

「うん。予定はないけど」

「じゃあ、一緒に映画観に行かない? その、試写会のチケット、お母さんから貰ったんだ」


 ドキドキする。昔は遊びに行こうって気軽に言えたのに。

 断られたらどうしよう。なんか、泣きそう。


「いいよ。行こうか」

「本当!?」

「うん。日曜日だよね。僕、咲良の家まで迎えに行くよ」

「あ、ありがとう」


 りっちゃんはそっと微笑んでくれた。

 その不意に笑顔見せるの卑怯だよ。いつもは無表情なのに。



 ねぇ、りっちゃん。


 私、変わりたいよ。



 幼なじみはもう、イヤだよ。




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