第2話






 君みたいになりたいよ。




 君みたいに、なりたかったよ。





 ◆◇◆




 翌日。

 今日は日曜日で学校は休み。特に用事もないので、私は街に買い物に出た。

 そろそろ新しい服も欲しいし。

 そう思った私は駅前のショッピングモールで色んな店を見て回った。

 可愛い服を着たマネキンが、どこの店にも並んでる。

 あ、あのコートも可愛い。でも、サイズ的に着れないし似合わないだろうな。あのふわふわのスカートも、ワンピースも。

 可愛いものは好きだけど、似合わないんだよね。おかげで私が着てる服はメンズだ。若干大きいけど、こっちの方が選ぶの楽なのよね。



「あれ」


 目の前にいるの、唯君だ。

 メンズ服の前で真剣な顔して何してるんだろう。


「唯君?」

「え? あ、昨日の……」


 パッと顔をこっちに向けた唯君の顔は、ふわっとした笑みを浮かべてて可愛い。

 なんか、唯君って砂糖菓子みたい。ふわふわで、甘くて、本当に可愛い。


「佐々木純。高等部一年だよ」

「僕は井上唯です。中三です」

「一個下なんだ」

「はい。佐々木、一年だったんですね。姉と同い年かと思ってました」

「私、先輩って呼んでたのに?」

「あ、そうですよね。すみません」


 唯君は照れた顔で笑った。

 うわぁ、可愛い。どうしよう、キュンとする。可愛すぎる。

 顔だけじゃない。何気ない仕草とか、話し方とか、声とか。とにかく私のツボを突く。


「ね、ねぇ。唯君も服買いに来たの?」

「あ、はい。でも、僕だとメンズ服が入らなくて……だからいつもキッズ服なんですけど……」


 私とは逆だな。

 唯君、今着てるパーカーも大きいサイズなのか袖が余ってる。唯君、私が思ってるよりも小さいのかな。


「ねぇ、唯君って身長いくつ?」

「え」


 あ、あからさまに嫌な顔した。やっぱり気にしてるのかな。


「……145、です」

「……そっか」


 想像よりももっと小さかった。

 先輩も小柄な人だから、遺伝かな。


「いいなぁ」

「え?」

「あ、ゴメン。私、こんなだからさ……小さくて可愛いのが羨ましいなって。って、こんなこと男の子に言うのは失礼だよね」

「いえ……僕は、佐々木さんみたいに背が高いの、憧れます」

「ホント、お互いの性別が逆だったら良かったのかもね」


 そうしたら、こんなに悩まなくて済んだんだろうな。

 麻里奈のことも……


 ああ、まただ。

 また麻里奈のこと考えてる。どうせ今頃、穂住さんと一緒なんだろうな。

 はぁ。嫌だな。こんなことばかり考えてるの。


「佐々木さん?」

「え? あ、ゴメンね。急にボーっとして」

「いえ……何か、考え事ですか?」

「まぁ、色々ね……そうだ。唯君、今ヒマ?」

「はい」

「じゃあ、一緒に服見て回らない?」

「いいんですか?」

「うん。どうせ暇してたし」

「じゃあ……はい」


 私たちは一緒に色んな店を回って、お互いの服を見た。

 やっぱり唯君は男の子らしい、というかメンズの服があまり似合わない。本人を前にこんなこと言えないけどね。


 ……。


 女の子の服、着てほしいなぁ。

 昨日の制服姿も可愛かったし。せっかくだからウィッグも付けて、メイクとかもしてみたり。

 ダメかな。ダメだとね。でも、見たいかも。

 丁度この店、ウィッグも売ってるし。てか、すぐそこに置いてあるし。


「ゆ、唯君」

「はい?」

「えいっ」

「うわ!!」


 不意を突いて、唯君にウィッグを被せた。

 うっわぁー! かわいい!!

 予想以上だ。サラサラのロングヘアーが凄く似合ってる。


「ゆ、唯君かわいい!!」

「もう……いきなりビックリするじゃないですか……」

「ゴメンね。つい……」

「うう……」

「ねぇ。そのままあの服、試着だけしてみない?」


 私が指をさしたのは、春物の可愛いワンピース。

 絶対に唯君に似合うと思う。自信持って思う。


「あ、あれ!?」

「やっぱりダメ?」

「……ぼ、僕じゃなくて佐々木さんが……」

「私じゃサイズ合わないし、そもそも似合わないし……」

「そんなこと……」


 ああいう可愛い服、私には似合わない。

 ピンクとか、そういうの、似合わない。

 本当は、着てみたいけど。


「……わ、わかりました」

「え、いいの?」

「はい。で、でも一回だけですよ!」

「うん! ありがとう、唯君!」


 私は唯君にワンピースを渡し、試着室の前で着替えが終わるのを待つ。

 まさか本当に着てくれるなんて。良い子だな、唯君。

 一回と言わず、他にもいろいろ着てほしくなるかも。てゆうかコスプレさせたいな。メイド服とか。



「さ、佐々木さん」

「あ、着替え終わった?」


 試着室のカーテンの隙間からコソッと顔だけ覗かせる唯君。

 そういうところが可愛いんだって。

 唯君は目を泳がせ、真っ赤な顔で出てきた。


「……う、わ」

「……」

「可愛い! 唯君、メッチャ可愛い!!」

「そ、そんなことないです!」


 そんなことなくないよ。

 もうどっからどう見ても女の子じゃん。男の子じゃなくて男の娘だよ。

 こんな可愛い服を着こなしちゃうなんて、どれだけ可愛いのよ。そうやって恥じらう姿が余計に可愛く見せてるよ。尋常じゃない可愛さだよ。


「ねぇ、こっちの服も着てみない!?」

「い、一回だけって言ったじゃないですか!!」

「お願い! あとでなんか奢るから!」

「え、ええ!?」


 押しに弱いのか、唯君はそれから私が選んだ服を着てくれた。

 他の店に移動して、メイド服なんかも着てくれた。

 どれも似合ってて、最高に可愛い。



 いいなぁ。


 いいなぁ。




 私も、君になりたいよ。




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