第3話




 可愛い、可愛い。



 私の大好きなもの。




 君は、可愛い子。





 ◆◇


 それから数日。

 あの日の帰りに私は唯君とアドレスを交換して、何度かメールのやり取りをしてる。

 今度、週末に空手の大会があるんだって。よかったら来ませんかって、誘われた。断る理由もないし、ちょっと興味あるから見に行くって返事を送った。

 それにしても、空手か。あの見た目からは想像できないな。私のイメージする唯君は砂糖菓子だもん。

 唯君は守ってあげたくなる。そんな雰囲気の子だ。


 私は携帯を開き、この前撮った写メを見る。

 唯君に頼んで、一枚だけ撮らせてもらったの。女装した唯君はやっぱり女の子にしか見えない。違和感が全くない。

 でも、ちょっとワガママ言い過ぎたかな。

 私もそうだけど、彼にとって女顔ってコンプレックスだろうし。それをこんなにイジりまくって、女装までさせて、色んな店引っ張りまわしちゃったんだもん。

 それなのに、唯君は良いですよって笑って応えてくれた。

 優しい子だな。本当に良い子だった。


「純」

「……」

「純ってば!」

「え!? あ、麻里奈……」

「どうしたの? ボーっとして」

「あ、ううん。なんでもない。なに?」

「今日、円香が風邪で休んじゃって……悪いんだけど、掃除当番変わってもらえないかな?」

「ああ……そういえばそうだったね。いいよ」

「ありがとう! やっぱり持つべきものは親友だね!」


 親友、って思ってくれてるんだ。

 なんだ。変に気にしすぎてバカみたいだな。そうだよね、私たちは昔も今も友達だもんね。変わらないよね。

 なんかスッキリしちゃったな。

 私はニコニコと笑う麻里奈の頭にポンと手を置いた。そういう可愛らしいところ、昔から好きだったよ。


「今度、なんか奢れよ」

「もっちろん!」




 ◆




 放課後になり、部活も終えた私は家路に着こうと学校を出る。

 今日は少し遅くなっちゃった。駅前の本屋で新刊買いに行きたかったけどまた今度にしようかな。


「……あれ?」


 校門のところに別の学校の制服を着た男子がいた。

 あれは、唯君だ。でもなんで? 先輩に何か用事かな。


「唯君」

「あ、純さん」


 お。ちゃんと名前で呼んでくれた。この前、メールで佐々木さんは止めてって言っておいてよかった。なんか他人行儀で嫌だったんだよね。


「どうしたの? 遥先輩に用事?」

「あ、いえ……」

「うん?」

「その、純さんに……」

「私?」


 唯君は小さく頷いた。

 私に用事ってなんだろう。わざわざ女子校の前まで来るなんて、余程のことだよね。


「それで、私に用事って?」

「その……」


 そんなに言いにくいことなのかな。

 目は泳いでるし、口モゴモゴしてるし、顔は真っ赤だし。私、何かしたかな。


「じ、純さん!」

「はい!?」

「ぼ、僕と付き合って下さい!!」

「…………え?」


 え?



 ……え?



 これ、どういうこと?




 私、今まで女子にしかそんなセリフ言われたことないんだけど。




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