第2話






 君には、何も知らない子供のままでいて欲しかったな。




 なんて、そんなこと思っちゃう俺がいるんだよね。



 君を大人にしたのは、俺なのに。






 ◆◇◆




「……ん」


 カーテンの隙間から差し込む光に、俺は目を覚ました。

 もう朝か。

 上半身を起こし、枕元にある携帯で時間を確認した。今は7時。どうしようかな。今日はふけちゃおうかな。

 俺は隣で眠る絢ちゃんをチラッと見る。


 あのあと、店の更衣室で終電がなくなるまで抱き合って、そのまま俺んちで続きしちゃって、そんでまぁ……今に至る感じ。

 さすがに無理させすぎちゃったかな。俺もあんなに理性なくすとは思わなかった。かなりがっついちゃったもんな……絢ちゃん、俺のことどう思っただろ。


 でも、絢ちゃんは最高に可愛かったです。

 もうダメって言いながら俺にしがみついちゃってさ。必死にキスしてきちゃったり、あんなに乱れた絢ちゃんは貴重だよ。ヤバかったよ。おかげで俺、止まらなかったですよ。最高にハイってヤツでした。


 それにしても、絢ちゃんがあんなこと言うなんてな。

 見た目が幼い分、悩んじゃったのかも。

 俺が甘やかしていたのが、子ども扱いされたって思っちゃったんだな。

 だって可愛いから甘やかしたくもなるでしょ。



 小さな寝息を立てる絢ちゃんの頭をそっと撫でると、猫みたいに擦り寄ってくる。

 本当に可愛いな。

 彼女の身体には、俺が付けたキスマークが全身にある。真っ白な肌に、赤い花が咲いたみたいに。

 あ、暖房付けておかないと。

 俺も絢ちゃんもあのまま寝ちゃったから全裸なんだよね。

 部屋中に脱ぎ散らかした服を着て、俺は部屋の暖房を付けた。春先とはいえ、さすがに裸じゃ寒いからね。ちょっと部屋を暖めておこう。


「……腰いてぇ」


 ヤりすぎたな。

 俺は腰を擦って、コーヒーを入れた。

 絢ちゃん、まだ起きないかな。朝ごはん、何か買ってこないとないし、近所のコンビニまでひとっ走りしてくるか。


 俺は上着を羽織って、絢ちゃんが起きないようにそっと部屋を出た。

 外に出て、思いっきり背伸びをする。あーやっぱ腰痛い。メキメキ言ってる気がする。そんな気がする。

 俺、昨日で一ヶ月分はやった気がします。それくらい元気いっぱいでした。

 俺、まだまだ若いんだな。最近、ちょっと老いたような気がしなくもなかったんだけど……全然元気じゃん。

 まぁ、男の子だからね。うん。


 歩いて数分のところにあるコンビニで適当にパンと飲み物を買って、俺は帰宅した。

 絢ちゃん、まだ寝てるかな。




 ◆



「……」


 部屋に戻ると、布団の塊が隅っこで縮こまってた。

 絢ちゃん、もう起きたんだ。そんで昨晩を思い出して恥ずかしくなりました、と。


「絢ちゃん、朝ごはん食べよー?」

「……」

「絢ちゃん、お腹空かないのー?」

「……」

「昨日は激しくしすぎちゃったから、きっとお腹空いてると思ったんだけどー」

「……うああああああああ」


 あーあ。

 なんか意味不明な唸り声上げて余計に縮こまっちゃった。ただでさえ小っちゃいのに。


「あーやちゃーん」

「ほ、ほほほほほっといてください!!」

「えー、それは出来ないよー。ね、顔見せて?」

「い、いやです!!!」

「昨日はあんなに俺にしがみついて離れなかったのに」

「それはもう言わないでください!!」


 そんなに恥ずかしいのか。

 まぁ、普段の絢ちゃんからは想像も出来ないくらい……あれだったからね。

 あ、思い出したら興奮してきた。落ち着け俺。昨日の今日だぞ。


「絢ちゃん、そんな気にすることないよ」

「でも……」

「俺らは恋人なんだよ? あれくらい普通だよ。恥ずかしいことないよ」

「……で、ででででも……」

「確かに昨日の絢ちゃんの乱れっぷりは半端なかったけど」

「うああああ!!」


 そう言うと、絢ちゃんが俺の口を塞ぎに来た。

 あらやだ、この子まだ服着てないじゃないの。布団の中から胸がチラ見してますよ。ちょっと勘弁してよ。今、頑張って抑えてるんだから。そんなの見せられたらまた襲っちゃうよ?

 でもここは抑えて抑えて。

 俺は自分の上着を彼女に羽織らせて、ギュッと抱きしめた。


「でも、俺は嬉しかったよ?」

「先輩……」

「絢ちゃんは? 嫌だった?」


 そっと顔を覗き込むと、絢ちゃんは頬を赤く染めて、目を泳がせた。


「い、嫌じゃないです……先輩が、その……あんなに私のこと求めてくれたのは、嬉しかったです」

「うん。俺も受け入れてくれて嬉しかったよ」

「……私、ちゃんと先輩の気持ちに応えられてましたか?」

「物凄く」

「……良かった」


 絢ちゃんはほわんとした笑顔を浮かべて、俺に抱き着いた。


 あーあーあーあ、もうダメだってば。

 俺、もう限界でーす。我慢とか出来ませーん。


「絢ちゃん、ご飯あとでね?」

「え? ……あっ」



 俺はそのまま絢ちゃんを押し倒した。




 本当に可愛い。



 可愛いよ、絢ちゃん。






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