第3話



 愛してる。


 愛していて。




 だって、私は貴女のもの。




 ◆◇◆



 停学も明け、私は久し振りに学校に登校した。

 朝は麻里奈が迎えに来てくれて、教室でもずっと傍にいてくれた。席もわざわざ私の隣に移動してくれて、離れる時間なんて一秒もなかった。

 佐々木さんには朝登校したときに謝った。

 そのときの彼女の顔は、何だか複雑そうだった。どうしてだろう。私が謝ったから?


「円香、帰ろう」

「うん」


 放課後になって、私たちは家へ帰る。

 今日は私が麻里奈の家に泊まりに行く。麻里奈がおいでって言ってくれたの。学校から直行できるように、着替えとかもちゃんと持ってきてる。

 なんでも、今日はご両親がいないんだって。お会いしたかったのだけど、仕方ないわね。



 学校から数十分。

 麻里奈の家は二階建ての一軒家。彼女の手に引かれて家に上がり、リビングに案内される。生活感のある、暖かみのある空間。家族が仲良く暮らしてるんだなって、見て分かる場所だ。


「いいな、麻里奈の家……」

「え?」

「暖かい……私の家とは大違い」

「円香……」


 麻里奈が私のことをそっと抱きしめてくれた。

 髪を優しく撫でてくれて、ずっと傍にいるからって。そう囁くように言ってくれた。

 麻里奈、優しい。優しすぎるよ。

 私のワガママばかり聞いてくれて、こんなに甘やかしてくれて。

 私、もう麻里奈から離れられないよ? いいの?

 後悔、しない?


「麻里奈……」

「うん?」

「麻里奈、後悔しない? 私、もう麻里奈から離れられないよ?」

「うん。いいよ」

「本当に? 私、また何するか分からないよ? 麻里奈が他の人と仲良くしてるの見たら、また同じことしちゃうかもしれないんだよ?」

「そうならないように、私が気を付けるよ」

「なんで……なんで、そんなに優しくするの? 私が可哀想だから?」


 いつも一人で、家族とも上手くいってない。

 そんな私が惨めで、可哀想? だから優しいの?


「円香を可哀想だなんて思ったことない。ただ、円香が可愛くてほっとけないだけ。私も、円香が好きなんだよ」

「本当?」

「うん。だからね、円香」


 麻里奈が私の頬を両手で包み込んで、キスしてくれた。

 優しい、優しいキス。



「円香も私から離れないで。目の届く場所にいて。あまり心配させないで」

「ん……」


 麻里奈がキスしながら言う。

 私はその言葉を口から呑み込んで、体の中に刻み込んでいく。


 私は麻里奈から離れない。絶対に、絶対に。


「いい? 円香は私の言うことだけ聞いて。円香には、私だけなの」


 言われなくても、分かってるわ。

 私には麻里奈だけ。麻里奈さえ、いてくれればそれでいい。


 麻里奈だけ。


 麻里奈だけ。


「ねぇ、円香」

「うん?」

「私ね、親に相談したの。円香をうちに住まわせてほしいって」

「え?」

「事情話したら、いいよって。だから円香、うちで暮らそう? そしたら、ずっと一緒でしょ?」

「いいの?」

「もちろん。これで円香は一生私のもの」

「麻里奈……」


 ああ、なんて幸せ。

 麻里奈とずっと一緒だなんて。


 もう、麻里奈から離れることはないのね。

 一生。一生。


 もう、麻里奈の腕の中から、私は離れない。離れられない。


 ずっと、彼女に愛されて生きるのね。





 死ぬまで、ずっと。






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