case22.穂住円香

第1話





 昔からそう。


 私は、いつもこう。




 だから、一人なの。




 だから、一人にしないで。




 ◆◇◆




 小さい頃からずっと、両親の仕事の都合で海外と日本を行き来してた。

 だから友達なんて出来る訳ないし、両親も仕事で家を空けるから、ずっと一人ぼっち。

 今年の春からは日本で一人暮らしをすることになった。両親が引っ越しばかりで申し訳ないからって、マンションを借りてくれたの。フランスと日本、どっちで暮らしたいかって聞かれたから、私は日本って答えた。

 だって、私の四分の三は日本の血だもん。そっちの方が良いわ。

 でも結局、私は一人ぼっち。この見た目だからどこにいても浮いてしまう。


 だからね、嬉しかったの。

 麻里奈が声を掛けてくれて、友達になってくれて。

 だって生まれて初めての友達なのよ。

 この人は私を一人にしない。そう思ったの。ずっと私の傍にいてくれる。

 私を、愛してくれるんだ。


 そう思ってたのに。

 麻里奈は、他の子と仲良くする。麻里奈は明るくて良い子だから友達も多い。

 でも、私が一番だよね。だって麻里奈、私のこと一番大事にしてくれてるもんね。

 それなのに、何でなの? なんで私のこと置いていくの?

 私が越してきて良かったって、そう言ってくれたじゃない。

 あの子が、あの子がいけないの? 麻里奈とずっと一緒にいる、あの子。

 なんなの、あの子。邪魔だな。邪魔なのよ。麻里奈に近付いて、私から麻里奈を奪うの。


 だから、ね。

 排除したの。

 お気に入りの傘が汚れてしまったけれど、でも麻里奈を取り戻すことは出来た。

 私だけの麻里奈。





「麻里奈……ごめんなさい」

「もういいよ。私の方こそゴメンね、一人にして」


 私は一週間の停学になった。

 あの人、私が怪我をさせた人は軽傷だったみたいで、大事には至らなかったみたい。

 私たちは二人で、私のマンションへと向かっている。明日は休みだから、今日は泊まってくれるって。


「円香、一人暮らしなの?」

「うん。両親は仕事で海外に残ってる」

「そっか。私、また遊びに来てもいい?」

「うん。ずっといてくれてもいいのよ?」

「さすがにそれは無理だよ」


 麻里奈の家は家族みんな仲が良いみたい。

 いいな。羨ましいな。私も、そんな円満家庭に生まれたかったわ。


「そうだ。今度、私の家に遊びに来なよ。停学中は外に出れないけど、もうすぐゴールデンウィークもあるし」

「いいの?」

「勿論」


 麻里奈、やっぱり優しい。

 私だけの麻里奈。


 私たちは部屋に入った。まだ越してきたばかりで何もない部屋。

 あるのは祖父が買ってくれたベッドとテレビくらい。あとは殆ど段ボールの中。全然片付けてないのよね。片してから呼べばよかった。こんな部屋じゃ退屈させるだけよね。


「ゴメン、麻里奈……まだ片付けとか済んでなくて」

「いいよ。そうだ、今から一緒にやる?」

「でも……」

「私、掃除とか好きだからさ」


 そう言って麻里奈は鞄を部屋の隅に置いて、掃除を始めた。

 ちょっと意外。麻里奈はそういうの苦手なタイプだと思ってた。

 なんていうか、麻里奈は世話好きよね。初めて会ったときの放課後も、喫茶店で色々気を遣ってくれたし。学校でも私が孤立しないように沢山話しかけてくれた。なんでも私を優先してくれた。

 麻里奈って、人から頼られたりするのが好きみたい。私が甘えると、凄く嬉しそうにするもの。


「円香ー、これ何処に置くー?」

「あ、えっとね」


 私たちは二人で部屋の片付けをした。

 あっという間に部屋は片付いて、お腹が空いたから近所のスーパーで買い物をして、二人でご飯を作って食べた。

 またしても意外。麻里奈は料理が上手かったの。私は今まで家の手伝いとかしたことなかったから、全然出来ないんだけど。



「ねぇ、麻里奈」

「うん?」


 夕飯を終え、私たちは一緒にお風呂に入った。

 二人で入るにはちょっと狭いけど、私は麻里奈と一緒なら良い。


「麻里奈、迷惑してる?」

「何が?」

「……私みたいなのが、傍にいて……」

「円香……」


 私はいつもこうなの。

 昔から独占欲強くて、好きになった人が他の人と仲良くしてるの見るのが嫌い。

 私は麻里奈が好き。だから麻里奈が他の人と仲良くしてるの見て、感情的になってしまったの。

 それでいつも失敗する。嫌われてしまうの。

 でも麻里奈は違ったわ。こんな私に親切にしてくれる。

 でも、なんで?


「私ね、昔から円香みたいな子に弱いみたいなのよ」

「え?」

「本当はね、円香にも他に友達が出来たらいいんじゃないかなって思って、ちょっと距離を置こうと思ってたんだけど……出来なかった。円香のこと気になっちゃって、昨日は何も手に付かなかったもん」

「……じゃあ今朝の、こと……怒ってる?」

「ちょっと怒ってる。でも、私が円香を一人にしたせいだもんね。もうしないでしょ?」

「うん、しない。麻里奈が傍にいてくれるなら……」

「うん。じゃあいいよ。ただ、純には謝るんだよ」

「……それは」

「円香」

「……わかった」


 正直、口利きたくないんだけど、麻里奈がどうしてもって言うなら仕方ないわね。

 私は麻里奈に抱き着いた。肌と肌が触れる。柔らかくて気持ちいい。安心する。


「麻里奈……キスしたい」

「え!?」

「ダメ?」

「で、でも……女同士でそれは……」

「私、麻里奈が好きなの。だから、ね?」

「……」


 迷ってる。

 麻里奈は押しに弱いのね。そういうところも可愛い。


「ねぇ、麻里奈」

「……ちょっとだけ、だよ?」


 真っ赤になった麻里奈が、少しだけ私に近付いた。

 可愛い。可愛い、麻里奈。

 私はそっと麻里奈の唇に触れた。

 温かくて、柔らかい。

 何度も啄んで、触れて、熱を絡めていく。

 段々と麻里奈もキスに夢中になっていくのが分かる。自分から唇を押し当ててきて、舌を入れたら応えてくれた。



 可愛い、可愛いよ。麻里奈。




 大好き。





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