第3話
もうダメ。
大好きなんです、君のこと。
◇◆◇
夕方。後輩と別れた後、携帯にメールが届いた。
差出人は、瀬奈ちゃん。これから家に来ませんか、という内容。多分、夕飯でも一緒にどうですかってことだろう。
小さい頃からよく瀬奈ちゃんの家で昼飯とか夕飯ご馳走になってるからな。
断る理由もないし、今から行くと返事を送った。
そういえば、湊は帰ってきてんのか? 放課後はデートだって浮かれてたけど、何時くらいに帰ってくるんだろ。
そんなことを考えながら瀬奈ちゃんの家に向かった。
もう何百回、この家に遊びに来たかな。瀬奈ちゃんと付き合うようになってからは、少し減ったかもしれない。
まぁ、そのとき俺が受験生だったからなんだけどね。
そのとき、瀬奈ちゃんには結構支えられたな。励ましてくれたり、お菓子作ってくれたりしたっけ。
駅から数十分。小早川家に着き、インターホンを押す。
なんか、ちょっと緊張してきた。今朝あったばかりなのにな。瀬奈ちゃんと会うときは毎回ドキドキする。
「い、いらっしゃい……」
「こんばんわ」
なんか、いつもより静かな気がする。
テレビとか付けてないからかな。あ、湊のやつ帰ってないのか。だから静かなんだな。
ってことは、今日は瀬奈ちゃんと利津だけか。
瀬奈ちゃんの後ろに付いてリビングに入った。てっきり利津がいると思ったんだけど、誰もいないみたいだな。
「りっちゃんは部屋?」
「……今日は、郁ちゃんの家に泊まってくるそうです。明日休みだから」
「ああ。郁ちゃんって、幼なじみの子」
「お兄ちゃんも今日はお泊りだそうですよ」
「あの野郎……」
ってことは、今日は瀬奈ちゃんと二人だけか。
……え、待って。二人きり? え、マジ? 本気で?
さっきから瀬奈ちゃん、そわそわしてる気がするんだけど俺の気のせい? 自意識過剰なのかな。瀬奈ちゃんも意識してる?
今日俺のこと呼んだのって、そういうこと?
「あの、夕飯……食べます?」
「あ、うん」
緊張する。こうして二人っきりになるのって、付き合うようになってからは初めてじゃないか?
どうしよう。手が震える。
お互いの緊張が空気に溶けてるんじゃないかってくらい、息を吸うたびに鼓動が早鐘を打つ。
困ったな。味が分からない。せっかく瀬奈ちゃんが作ってくれたのに。
瀬奈ちゃん、喋んないな。俺から話を切り出さないとダメだよ、な? でも何を話せばいいんだ。どうしよう。何も分からない。何も浮かばない。
瀬奈ちゃんを不安にさせる訳にはいかないのに。俺がしっかりリードしてあげないといけないのに。
結局、何も喋らないまま夕飯を終えてしまった。
このまま帰ったら感じ悪いよな。とりあえず今は二人でテレビ見てる訳なんだけど。しかもドラマ。俺は全然見てない恋愛物なんだけど……気まずいな。
もしかしてこれ、あれかな。当て付け? 何もしない俺に、なんでこういうことしないんだって無言で訴えてる感じ?
湊との約束もあるけど、なんていうか一年も我慢したせいかタイミングが分からないんだよな。
「……」
「……」
「……」
「……ぐすっ」
「……え!?」
隣から急に鼻をすする音が聞こえてきた。
別に泣くようなシーンじゃない、よな? じゃあ、なんで急に?
俺、なにかした!?
「せ、瀬奈ちゃん!? どうしたの? 何かあった?」
「……う、うう……」
「瀬奈ちゃん……?」
どうしていいか分からず、俺は彼女の頭を撫でた。
やっぱり俺のせい、かな。でも泣き出した理由が分からない。
いや、分からないこともないけど。
「ひ、浩也さん……わたしのこと、妹にしか思ってない?」
「え?」
「本当は、無理して付き合ってくれた? わ、私が……お兄ちゃんの妹だから……」
「瀬奈ちゃん」
「だから、だから……何もしてくれない、の?」
「瀬奈ちゃん、俺……」
「私が女の子にちょっとモテるから……!!」
「んん!?」
最後のちょっとわかんないんですけど。
泣かせてしまうほど、俺は彼女を不安にさせてしまったのか。
ゴメン。ゴメンね。
大丈夫。大丈夫だよ。
「瀬奈」
「え」
俺は彼女の顔を持ち上げ、そっと唇を重ねた。
初めて触れた彼女の唇。柔らかくて、熱くて、愛おしい。
「……ゴメン」
「ひろ、や……さん?」
「その、湊に言われてたんだよ。妹に手を出すなって……」
「お兄ちゃんに!?」
「うん。でも、そんなことで瀬奈ちゃんを不安にさせて、彼氏失格だよね」
涙で濡れた頬を拭い、コツンと額を合わせる。
そういえば、こんなに近くで君の顔を見るのは初めてだね。
ホント、君はどんどん綺麗になる。だから手放せないよ。
「無理なんてしてない。俺は、瀬奈のことが好きだよ。湊の妹だからとか関係ない」
「ほんと?」
「うん、大好きだよ」
もう一度、俺は瀬奈にキスをした。
今まで我慢した分を清算するように、何度も、何度も。
一回じゃ足りない。たった一回で満足できるわけない。
だから。
だから、ね?
「お兄ちゃんには内緒だよ?」
二人だけの秘密。
誰にも内緒だからね。
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