case16.小早川湊
第1話
だってさ、しょうがなくね?
好きな人が目の前で可愛い顔してるんだよ?
俺、ガキだからさ。
我慢とか、出来ないんだよね。
ガキだから。
◇◆◇
急に由佳先生が俺のこと避けたのがなんかムカついて、地味に傷付いたから、その理由を聞こうと思って放課後の保健室に来た訳だけど。
まさか、その理由が俺が他の女子と仲良くしてて嫉妬したからだったなんて。可愛すぎるよ。なに、それ。俺が先生に告白しちゃったから、意識してくれたってこと?
なんでそんなに可愛いんですか。俺がここに来てから、ずっと目が潤んでるし。顔真っ赤にしちゃってさ、いつも強気で気丈な先生が、今は子犬みたいなんだよ。
俺も健全な男子なんで、好きな人の可愛い姿を見たらドキドキしちゃうんですよ。我慢も出来ません。
だって、大人じゃないからさ。
だから、つい、キスしちゃったんです。
俺の、初めてのキス。
触れた先生の唇はメッチャ柔らかくて、なんかふわふわしてて、気持ちいい。
それに、先生の唇から零れる息が熱くて、なんか変な気になる。ドキドキっていうか、ゾクゾクする。先生、色っぽい。ちょっと俺、ヤバいかも。
「……ん、ふ」
「は、ぁ……せんせ……」
段々と、先生の腕から力が抜けていく。さっきまで固く閉ざしていた唇だって、今では俺のことを受け入れてくれてる。
嫌じゃないのかな。俺とキスするの、嫌じゃないの?
ねぇ、先生。本当に俺のことどう思ってる?
「……先生」
「……君は、ズルい」
「え」
少しだけ唇を離すと、先生が呟くように言った。
「……お前は若いからいい。まだ何度でもやり直しが出来る。でも私はそうもいかない。ここで君と付き合ったとして、先に老いるのも死ぬのも私だろ。先にドンドン老けてく私を見て、君が私を嫌わない保証なんかない。それが、怖いんだよ……」
先生が、俺から目を逸らして言う。
確かに先生は俺よりずっと年上だし、普通に考えたら先に死んじゃうのは先生かもしれない。
でもさ、そんなこと言ったら俺だって言いたいよ。
先に置いていかれるのは、俺なんだよ。子供っぽいって嫌われるかもしれないって、いつも不安なんだよ。だって、どう足掻いても歳の差は埋まらないんだ。
それでも、そんな理由だけで諦められないだろ。好きなんだから、好きになっちゃったんだから。
「大丈夫ですよ。俺、先生と会ってから先生以外の人に見向きもしませんでした。三年間、ずっと」
「……これからは分からないだろ」
「分かります。自分のことは、自分が良く分かります。俺は、一生貴女だけが好きです」
「嘘付け」
「嘘じゃないです。もし、本当に俺が先生以外を好きになるようなことがあったら、煮るなり焼くなりしてくれて構いませんよ」
「……言ったな」
「言いました。何なら、何か契約書的なモノでも書きましょうか?」
「必要ない」
先生が小さく微笑んだ。その顔も可愛いな。
俺は先生の上から退いて、起き上がった先生のことをギュッと抱きしめた。先生は、抵抗しないでそのまま俺に身を委ねてくれてる。
先生、小さいな。腕の中にすっぽり収まっちゃう。
「先生。勝手にキスしてごめんなさい。まだ返事も聞いてないのに」
「……本当だよ。普通ならぶん殴ってるところだ」
「怒った?」
「怒った」
「……嫌いになりましたか?」
「……さぁな」
俯いてて顔が見えないから、なんか怖い。
イヤ、じゃなかったのかな。それとも、先生は大人だからキスくらいじゃ何とも思わないのかな。なんていうか、飼い犬に噛まれた程度にしか思わないとか。
俺は、かなりドキドキしたのに。なんか、それはちょっと悲しいかもしれない。
「先生。俺とキスして嫌でしたか」
「なんでだよ」
「何となく」
「……ノーコメント」
酷い。嫌だったか嫌じゃなかったか、それくらい答えてくれてもいいじゃないか。ケチ。
「ねぇ、先生」
「なんだよ」
「俺、本当に先生のこと好きだからね」
「……」
「子供の言うことなんて当てにならないかもしれないけど……本気ですから」
「……」
「それだけ、それだけは信じて」
先生は黙ったままだった。
でも、俺から離れようとはしなかった。
やっぱり先生、可愛い。
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