第3話



 知らなかった。


 君の想いを、私はずっと、気付いてあげられなかった。




 ◇◆◇




 どれくらい、そうしていただろう。

 抵抗する力もなくなって、私は大人しくなつ君の唇を受け入れた。もう、頭の中はメチャクチャ。何も考えられなくて、まるで熱で魘されてるみたいに息苦しい。


「……」

「……な、つくん」

「……ゴメン」


 なつ君は、泣きながら言った。その表情は痛々しくて、こっちまで悲しくなる。そんな顔、しないでよ。お姉ちゃん、なつ君のこと怒ってないから。いや、ほんとなら怒らないといけないんだろうけど。


「……俺、ずっと姉さんのこと好きだったんだ」

「え……」

「家族としてじゃない。本気で、女として、俺は姉さんが好きなんだ」


 どう、言葉を返していいのかが分からない。冗談? からかってるの?

 ううん、なつ君の顔は真剣だ。本気で、私のことを好きだと言ってくれているんだ。でも、どうしよう。私はなつ君と血の繋がった姉だ。その気持ちに応えることは出来ない。

 でも、でもね。そんな理由で答えたら余計になつ君を傷付ける。なつ君だって、そんなこと分かってる。それでも、こうして私にことを想っててくれていたんだ。

 だったら、私もちゃんとなつ君と向き合って、答えを出すべきじゃないか? ちゃんと、弟としてではなく、一人の男の人として。


「……なつ君。私、ね。今までなつ君のこと、そういう風に見たことなかったの」

「……」

「だから、直ぐには返事出来ない。ゴメンね」

「…………いいよ、どうせ俺は弟なんだ。だから……」

「うん、だからね。ちゃんと答えを出せるまで待ってって」

「え?」


 直ぐになつ君のことをそういう対象として見ることは出来ない。気持ちの整理が出来ないし、やっぱりなつ君は私にとって大事な弟なんだもん。

 でも、大事な弟だからこそ、ちゃんと真剣に向き合ってあげたい。生半可な返事は失礼だもんね。


「ゴメンね、なつ君。なつ君の気持ちに甘えて……」

「いや、その……俺の方こそゴメン……俺、姉さんに……」


 なつ君は私の腕を引いて、起こしてくれた。

 その申し訳なさそうな表情は、何だか小さい頃みたい。私はなつ君の頭を撫でて、そっと微笑んだ。大丈夫、これくらいで嫌いになったりしないよ。

 だって、私はなつ君のお姉ちゃんだもん。


「もうあんなこと、しないでね?」

「しないよ。俺は姉さんを困らせたかった訳じゃないんだ」

「そうだよね。いつだってなつ君は私に優しかったもんね」

「やめろ、恥ずかしい……」


 照れ屋さんなところも変わらないね。

 私、なつ君のそういうところは好きだな。なんていうか、そういうのではないけど好きなとこいっぱいあるよ。なつ君のこと、嫌いだと思ったことないもん。

 ずっと一緒にいてくれてありがとう。情けないお姉ちゃんでゴメンね。


「ありがとう、棗」

「なんだよ、急に」

「ううん、なんでもない。なつ君、いつから私のこと好きなの?」

「は!?」

「教えてよ」

「うっせーよ! さっさと寝てろ!」

「えー!?」


 なつ君のケチ。

 でもいいや。私たちはずっと一緒だもんね。


 いつか、きっと直ぐにでも、答えを出すから。


 待っててね。




 ずっと、傍にいてね。





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