第2話



 きっと私、こんなに想われたことない。


 でも、応えられないよ。

 どうしたらいい?





 ◇◆◇




 なつ君の家で夕飯を作って食べ、二人でテレビを見ながらお酒を飲んだ。

 特に会話はなく、ただボーっとバラエティーを眺めるだけ。お酒を飲んだせいかな、ちょっとだけ眠い。このままだと寝ちゃいそう。


「……姉さん、眠い?」

「んーん……」

「寝ていいよ」

「まだ、寝ない……」


 何となく、まだ寝たくない。起きていたい。せっかく泊まりに来たんだから、なつ君とお話ししたい。


「……なつ君、話しようよ」

「なんの?」

「なつ君のこと、とか」

「俺の? 何もないよ」

「好きな子いるって言ってたじゃない。その子とは、どーなったの?」

「……どうもなんないよ」


 どうしてだろう。なつ君、ちょっと素直じゃないけど良い子なのに。やっぱり私のせいなのかな。


「私のせい?」

「は?」

「私がなつ君に甘えてばかりだから……だからなつ君はその子と一緒になれないの?」

「違うよ。姉さんは気にしなくていい」


 そう言って、なつ君が私の頭を撫でてくれた。なつ君は優しいな。こんなにカッコよくて良い子、女の子が放っておくわけないよね。だって自慢の弟だもん。小さい頃から私のことを守ってくれた、優しい弟だもん。

 私も大概ブラコンだな。弟が心配で仕方ない。


「……あのね、なつ君。お姉ちゃん、もうなつ君に甘えるの止めるよ」

「は?」

「私ももういい大人なんだし、いつまでも弟に甘えてるのはおかしいもんね」

「何言ってんだよ」

「そうしたら、なつ君も安心して好きな子のことだけを考えていられるでしょ?」

「だから、姉さんがそんなこと心配する必要はないんだって言ってるだろ」


 心配するよ、だって姉なんだから。お姉ちゃんは不器用な弟のことが心配なんです。


「……なつ君?」


 どうしたんだろう、なつ君黙ったままだ。それに、なんか怒ってるみたい。どうして? どうして怒るの? 私、何か気に障ること言ったのかな。


「……頼むからさ、そんなこと言わないでくれる? 本当に俺、迷惑とか思ってないから」

「でも、なつ君」

「いいから! 姉さんは俺に甘えてればいいんだよ!」


 声を荒げるなつ君に、私はビクっと肩を震わせた。

 どうしちゃったの、なんでそんなに悲しそうな顔をするの。わからないよ、なつ君。


「どうしたの? お姉ちゃん、何か変なこと言った?」

「……そうじゃ、ないけど……でも、とにかく姉さんは気にしなくていいから」

「ねぇ、なつ君。どうしてそんなに悲しそうな顔するの? 本当に、もし私が何か気に障るようなこと言ったんなら謝るから」

「だから、姉さんは悪くないんだって……」


 なつ君は私から顔を逸らして俯いてしまった。

 どうしよう。やっぱり私が何か言っちゃったんだ。でも、思い当たる節がない。もしかして心配しなくていいって言ったことを怒ってるの? なつ君、過保護なところがあるから。


「なつ君、そんなにお姉ちゃんは頼りないのかな?」

「……」

「そりゃあ今まで迷惑かけてばかりだったかもしれないけど、もう平気よ。だからお願い、そんなに悲しい顔しないで」

「……違うって、言ってんだろ!」


 思いきり腕を引っ張られ、私はなつ君の腕の中に抱きしめられて、


 キスされていた。



「ん、ふぅ……」

「っ、は」


 息を吸い込んで、なつ君が噛みつくように唇を重ねてきた。

 荒々しくて、乱暴で、感情のままに思いをぶつけてくるようなキス。隙間から入り込んだ舌が口の中を弄ってきて、私の呼吸を奪う。

 背中を叩いても、なつ君は離してくれない。それどころか抱きしめる腕に力を籠めてくる。

 痛いよ、苦しいよ。


 どうして、こんなことするの? やめて、怖いよ。なつ君、なつ君……!



「俺が好きなのは、姉さんだけだよ」



 え……?





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