第2話
ふわふわとした感覚の中で、何か柔らかいものが触れた気がした。
この私に断りもなく触れるなんて、生意気ね。
私に触れていいのは、この世で一人だけなのよ。
◇◆◇
「……ん、んん?」
「あ」
頭を触られた気がして、私は目を覚ました。そしたら、目の前には虎太郎の顔があった。
「……ちょっと、誰に断って私に触ってんのよ」
「すみません。気持ちよさそうに眠ってたので……つい」
何が、ついよ。駄犬のくせに。
私は思いっきり虎太郎のことを蹴り飛ばした。足がお腹に当たったみたいで、虎太郎はお腹を押さえて蹲ってる。謝らないわよ。私は悪くないもの。
横になったままの虎太郎に私は近付き、虎太郎のお腹に足を乗せた。力は入れてないから痛くはないでしょう。
「虎太郎。ノートはきちんと取ったでしょうね?」
「勿論」
「返事は、はい」
「はい、凜さん」
物分かりの良い駄犬ですこと。
私はゆっくりと足に力を入れていった。ちょっとずつ虎太郎は苦しそうな顔をしていく。
それでいい。それでいいのよ。私、あんたのそういう顔、好きよ。大の男が女に踏まれて苦痛に顔を歪ませて。それでも抵抗せず、私に屈するの。
「っ、く……」
「痛い? そりゃそうよね。ねぇ、怒らないの?」
「……凜さんが望むことなら、俺は……」
「……ふぅん?」
本当にあんたって、馬鹿よね。ここまでされて、まだそんなこと言うの。
だったら、これならどう?
私はお腹に乗せていた足を下へ、下へとズラしていった。行き着いたのは、足の付け根の真ん中。そう、股間部分。
「……っ!?」
「ふふ、痛かったかしら?」
ふむ、あまり良い感触ではないわね。柔らかいような、固いような変な感じだわ。
でも、虎太郎の顔はさっきよりも表情が歪んでる。ここまでしたのは初めて。いつもは蹴り飛ばしたりする程度なんだけど、たまにはいいわよね。虎太郎は変態だし、段々と頬が赤くなってるし。
イヤね。こんなことされて喜んでるなんて。
「変態」
「……っ」
「こんなことされて、男として恥ずかしくない訳?」
「……り、凜さんになら……俺は、何でも……」
「あら。そんなに私が好きなの?」
そう言うと、虎太郎は真っ直ぐ私のことを見た。何、その目。ハッキリ言いなさいよ。
「言いなさい、虎太郎」
「……はい、凜さん」
少しだけ、足の力を緩める。
そうしたら、虎太郎は上半身だけ起こして、私の目を見つめた。真剣な眼差し。嫌いじゃないわ。好きよ、そういう目も。
「俺、凜さんが好きです」
「……」
「ずっと好きです。だから、貴女の望むことは何でもしてあげたいし、貴女にされることならどんなことでも受け入れる。本当です」
「……そう」
薄々は感づいていたけど、本当にそうだったなんて。でも、あんたが好きな子にこんなことされて喜んでる変態であることに変わりないのよ。
そうね、どうしようかな。ここで、はいそうですかって終わりには出来ないわ。返事もしてあげない。私があんたのこと、喜ばせるようなことすると思う?
「それで? 私にどうしてほしいの?」
「え?」
「私が好きなのはわかったわ。それで、貴方は私とどうしたいの? 付き合いたい? キスしたい? それとも……?」
「そ、れは……」
「言いなさい、虎太郎。私の命令は……?」
「……絶対、です」
よろしい。私は虎太郎の上から足を退けて、彼の前で腕を組んで言葉を待つ。
ほら、言いなさいよ。あんたが何を望んでいるのか。いつも私といて、何を思っているのか。
アンタだって健全な男子高生ですものね。積もり積もった思いの丈を、私にぶつけてみなさい。許可してあげる。
「……俺、は」
「なに?」
「……り、凜さんとずっと一緒にいたいです」
「それだけ?」
「……っ、それは……その……もっと、あります」
「じゃあ、早く言いなさい」
「も、もっと……凜さんに触れたいです」
「それで?」
「それ、で……俺にも、触ってほしい。蹴り飛ばされても、何されても、俺は凜さんと触れ合えれば、それでいい……」
「他には?」
「…………えっと……り、凜さんの彼氏になりたいです。キスもしたいし、それ以上だって……!」
「私が欲しいのね? 駄犬のくせに」
「……はい」
虎太郎の顔は尋常じゃないくらい真っ赤。余程恥ずかしかったのね。
「よく言えました」
少しだけ、ご褒美あげるわ。
さぁ、優しいご主人様に感謝しなさい?
私は虎太郎の足の間に座り、頬を両手で包み込んだ。虎太郎、泣きそうな顔してるわね。本当に犬みたいじゃない。そんなに目を潤ませちゃって。
そっと手を頬から首筋に滑らせて、服の上から胸を触る。あら生意気に筋肉付けちゃって。結構ガッシリしてるのね。何だか、こっちまでドキドキしちゃう。虎太郎の心臓、突き破ってきそうなくらいバクバクしてるじゃないの。
虎太郎の耳元に唇を寄せて、ふっと息を吹きかける。そしたら、虎太郎の肩がビクッて震えた。
へぇ、虎太郎ってば耳が弱いの?
だったら、もっとイジめてあげる。唇がギリギリ触れない距離で、もっと息を吹きかけて、キスするみたいに音を立てる。そうしながら手で彼の体を撫でまわして、足の付け根を何度も何度もマッサージするように触れていく。
くすっぐたい?
それとも、気持ちいいのかしら?
虎太郎ってば、さっきから息が荒いわよ。可愛い声まで出しちゃってさ。
「どう? 虎太郎……どんな気分?」
「……り、凜さん……も、俺……」
「何? ちゃんと言わないと解らないじゃない?」
「……そ、それ以上は……もう、ダメ、です……」
「どうして?」
「それは……っ、凜さん……お願いですから……!」
ふふ、可愛いわね。物凄く興奮しちゃってる。でも、ダメね。ちゃんと言わない子には、お仕置き。
「っ!?」
私はそのまま虎太郎から離れた。虎太郎は物足りなさそうな顔で私を見てる。寸止めされて苦しいのかしら?
ダメよ。最後までなんてさせてあげないったら。そこまでしたら意味がないでしょう。ご褒美は十分過ぎるほどあげたし、私はあんたの彼女じゃないんだからね。
「それじゃあ、帰るわよ。カバン持ってきて」
「は、はい……凜さん」
虎太郎は逃げるように屋上から出ていった。このままトイレにでも行く気かしら。時間制限でも付けとけばよかったわね。
でも、満足は出来た。あんな虎太郎の顔、初めて見れたし。久しぶりにドキドキ出来たわ。屋上から出て、玄関へと向かいながら私はさっきの虎太郎を思い出す。虎太郎もやっぱり男の子だったのね。ああ、笑いが止まらない。
今度はどうしてあげようかしらね。また楽しみが増えたわ。
「ふふっ」
早く来なさい、虎太郎。
もーっと、イジめてあげる。
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