第3話



 話がしたいよ、君と。



 ◆◇◆



 放課後。小早川先輩がちゃんと伝えておいてくれていれば、佳山君は帰らないで残っててくれるはず。ただ、私がいることで逃げちゃう可能性もあるのよね。それはちょっと傷つくかも。

 とりあえず、私は机に座ったまま皆が帰るのを待った。佳山君も残ってる。芦原君に声を掛けられたけど、断ってる風だ。きっと一緒に帰ろうって言われてるんだと思う。芦原君には申し訳ないことしちゃったかな。

 部活行く子や、友達と帰る子たちが教室を出ていく。佳山君もたまに私の方を見ながら、ずっと教室に残っててくれてる。


 そして、数分後。教室には私たちだけになった。


「……佳山君」

「え、あ……井塚さん」


 私は席を立ち、佳山君の前へと歩み寄った。良かった、今日は逃げたりしないのね。でも、明らかに困った顔をしてる。自分から告白してきたくせに、そんな顔するのは失礼じゃないかしら。

 佳山君も自分の机から離れ、私と向き合ってくれた。よく見ると、彼の表情は困ってるようにも見えるけど、その目はしっかり私を見据えてる。なんだか、緊張してきた。


「あの、急にゴメンね。佳山君に教室に残ってもらうように先輩にお願いしたの私なんだ」

「え、そうなんだ……」

「うん。だって、佳山君ってば私のことずっと避けてるでしょう? これじゃあ話も出来ないじゃない」

「…………ゴメン。その、俺……あの日のこと何となくしか覚えてないんだけど……でも、やっぱりその……」

「告白したことは覚えてる?」

「……」


 佳山君の顔は一気に顔が赤くなった。何となくでも覚えてるのね。なら、話は早い。


「私ね、今まで佳山君と話をしたことないでしょう? だから、君のこと恋愛対象として意識したことないの。それは今でも変わらない……」

「……うん。そう、だよね……」

「だから、ごめんなさい……って言うしかないんだけど……」

「……」

「でもね、私は佳山君と友達として話がしたいの。もっと色んなこと知って、色んなことを話し合いたい。ダメ、かな?」


 私は素直な気持ちを打ち明けた。恋愛なんてしたことないから、告白されたからってすぐに意識するなんて出来ないよ。でもね、これからがある。まだ私たちはお互いのこと何も知らないんだよ。だから、「これから」。

 それが叶うなら、私は君と友達になりたいよ。よく告白された子が「お友達から始めましょう」ってセリフを使うけど、それはただ断る為だけの言葉なんかじゃないよね。


「……とも、だち……?」

「うん」

「……えっと、いいの?」


 え。


「いいのって、いいの? 本当に、友達になってくれるの? 私、結構君に対して酷いこと言ってると思うんだけど……」

「いや、まぁ告白したのに友達でっていうのはツラいところだけど……でも、これからお互いを知っていってからでも、いいかなって」

「……それは、諦めたわけじゃないと?」

「…………まぁ、そうですね……それでも良ければ、俺と友達になってください」


 佳山君が顔を真っ赤にしたまま頭を下げた。良かった、終わりにならなくて。

 そうだよ、これからがあるもんね。お互いのこと知っていかないと、ちゃんとした意味で返事も出来ないよ。好きも嫌いも解らないじゃない。

 私は佳山君に黙って手を差し出した。こういうのはちょっと古臭いかな。でも、これからよろしくねって意味で。


「よろしくね、佳山君」

「こちらこそ」


 握手を交わして、私たちは一緒に帰ることにした。本屋に寄りたいって言うと、佳山君はまだ赤いままの顔で「いいよ」って言ってくれた。本屋で今まで読んできた本の話とかしたり、好きな作家の話とかして、買い物を済ませた後に駅前のファーストフード店でお茶して色んな話をした。

 佳山君は相変わらず緊張してるのか顔は赤いまま。でも、自分の話を色々としてくれた。

 好きな本、好きな作家、他にもどんなテレビを見てるのかとか、ゲームの話とか、休日の過ごし方なんかも聞いた。

 それと私は、自分で小説を書いてることを話してみた。そしたら彼は、バカにしたりもしないで「スゴイね」って、感心したように言ってくれた。今度読んでくれる? って私が聞いたら、喜んでって答えてくれた。

 やっぱり、君と友達になれて良かったな。


 それから私たちは友達としての付き合いが始まった。

 最初は登下校時に挨拶を交わして、図書室で少し話をするくらい。たまに一緒に帰って、本屋に寄ったりした。お互いのアドレスを交換してから数週間くらいして、休日にも会うようになった。


 それからね、私たちが下の名前でお互いを呼ぶようになるのは、もう少し先のお話。

 相変わらず真っ赤な顔をして、二回目の告白をしてくれた彼に私がなんて返事をしたのかは、まだ内緒。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る