第2話



 どうしてこんなことになるんだ。


 本当にこいつは昔からこうだ。人の都合なんてお構いなしで、自分勝手で、兄貴のことしか見てない。


 なんで俺、お前みたいなのに惚れたんだ。

 俺は、お前に惚れた理由がわからないよ。


 本当に、なんかアホらしい。



 ◆◇◆



 学校の帰り、俺は理生先輩に呼び出されて近くの喫茶店に向かった。勿論、莉奈には内緒でだ。あいつに言ったら、また厄介なことになりそうだからな。

 喫茶店の前に着くと、もう理生先輩が来ていた。相変わらず先輩は格好良い。通り過ぎていく女子たちが理生先輩を見て黄色い声を上げてる。これが俺の恋敵な訳なんですけど、ぶっちゃけ勝ち目ないよな。

 血の繋がった兄貴じゃなかったら諦めていたところだ。


「先輩」

「おお、透哉。久しぶりだな、ちょっと背ぇ伸びたんじゃないか?」

「成長期ですから」

「ははっ! んじゃ、中入るか」


 先輩に付いて店内に入る。客はそんなに多くなくて、俺達は窓際の席に通された。

 先輩も背が伸びたみたいだ。俺、そんなに高い方じゃないけど中学入って結構伸びたんだけどな。また差をつけられた。少しばかり悔しいな。

 俺達は適当に飲み物を注文して、適当に雑談をして、暫くしてから本題に入った。本題、それは当然莉奈のことだ。


「莉奈、もしかしてお前んちいる?」

「はい。今朝デカいカバンもってきました」

「やっぱりな。この辺であいつが行ける場所なんて他にないし……友達も少ないみたいだからな」

「どうしますか? 追い出しましょうか?」

「いや、莉奈にも事情があるんだろうし無理には……でもなぁ……なんで急に家出なんて……」

「……」


 どうしよう。俺の口から言っていいものなのか。

 兄に彼女が出来たから家出しましたなんて、正直言いにくい。てゆうか言いたくない。


「なぁ、透哉くん?」

「え、なんですか。急に君付けなんて……」

「あのさ、俺の勘違いだったら笑ってほしいんだけど……」

「はい」

「…………莉奈って、俺のこと……家族以上に好きだったりする?」

「はい」


 俺は素直に頷いた。まぁあれだけ露骨な態度を取ってれば普通に気付くよな。だからあいつ、可愛い癖にモテなかったんだよ。

 あ、可愛いってのは俺が言ったんじゃなくて他の男子がそんなこと言ってたんだよ。俺は別に可愛いとか思ってないから。本当だから。

 理生先輩はテーブルに突っ伏して小さく唸ってる。兄としては複雑な心境なんだろうな。妹に慕われるのは悪いことじゃないけど、度が過ぎるのも問題がある。


「俺さ、前から気付いてはいたんだけど……っていうか、友達からも言われてたんだけど。でも、勘違いだったら恥ずかしいじゃんか。自意識過剰だろーってさ。でもなぁ、莉奈の目というか、雰囲気っていうか……そう思わざるを得ない箇所が結構あってさ……前に出来た彼女とかも莉奈から色々言われたみたいだったし……」

「知ってたんですか?」

「まぁな。でも、単に兄離れしてないだけなんだって思ってたんだけど……」

「……俺の口から言っていいのか判らないんですけど……あいつ、昨日先輩が家に彼女連れ込んだのが嫌で家出したみたいですよ」

「……え、マジ? え? ちょっと待って、それ何時くらい?」

「……あの、なんていうか……見られたみたいですよ?」


 そう言うと、先輩は真っ赤な顔をしてまたテーブルに突っ伏してしまった。

 やっぱ妹に見られたのは恥ずかしいみたいだ。当たり前か。そんなの妹じゃなくても恥ずかしい。


「先輩、これからどうするんですか?」

「どう、したらいいと思う?」

「俺に言わないで下さいよ。それを決めるのは先輩たちですよ」

「そうだけどさー……なんて言っていいか……」

「直接彼女紹介するとかどうですか? 本気で交際してるんだと伝えればあいつも諦められるかもしれないじゃないですか」

「だと、良いんだけど……」

「これは二人の問題なんで、兄妹二人で解決してください。じゃないとあいつが俺のこと見ないじゃないですか」

「……お前、直球だな」

「ええ、まぁ。一応本人にも言ってあるので」

「告白したのか!?」

「まぁ」

「……そうか」


 先輩は少し考えて、グラスに入ったジュースを一気に飲み干した。

 どうする気なんだろう。何か先輩にも考えがあるんだろうか。そういえば、先輩の彼女ってどんな人なんだ? 少し気になるな。


「先輩。先輩の彼女ってどんな人ですか?」

「え? 彼女? そうだな……変わった子、かな」

「変わってるんですか」

「うん。本人は普通だと思ってるみたいだけど、かなり天然。でもそこが可愛いんだよなー」


 うわ、デレデレだな。今まで見たことないくらい顔が緩んでる。相当その彼女に惚れこんでるんだな。こんな兄の顔見れば、あいつだって入り込む隙間がないと思うはずだ。好きだって気持ちはそう簡単に無くせないとしても、諦めはつくと思うんだけど。

 でも、あいつからすれば決死の覚悟だよな。生まれた時から兄が好きだったようなものだし。どうするのが正しいんだろう。正解があるのかは知らないけど。


「透哉」

「はい?」

「あいつにさ、家に帰るように言ってくれないか? 話、したいからさ」

「……わかりました」



 気合入れて帰らないといけないな。


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