case6.芦原透哉
第1話
俺にだって解らない。なんであんな奴に惚れちゃったのか。
本当に、訳わかんない。
でも、やっぱり好きなんだよな。あいつのこと。
◆◇◆
出逢いは幼稚園の時。なんか一人で隅っこにいて、誰が話しかけても無視しまくってて。変な奴って思った。
年長組に兄がいるらしくて、そいつにはメチャクチャ甘えてて、ただの人見知りなのかと思ってたけど、それとはなんか違うような気がした。
俺がそう思ったのは、あいつの顔つきだ。人見知りなら、相手に対してビビってる様子があってもおかしくないのに、あいつは堂々としてた。相手の顔を見て、しっかり目を見て、真っ直ぐ答えていたから。
つまり、あいつは最初から兄にしか見てないんだ。それを知って、何となく頭にキた。どうしてかは解らなかったけど、とにかくムカついた。俺が話しかけても何にも反応返さないくせに兄には笑ってみせたりして、何なんだよって思った。
だから俺は、あいつに悪態着くようになった。
「おい、おまえ」
「……」
あいつは睨んできた。話しかけんなよって顔で。最初は「りなちゃん」って声を掛けたけど、なんか名前呼ぶのも嫌になった。あいつが名前呼ばれて喜ぶのは兄だけだったから。
その兄、理生先輩は俺に対して弟のように接してくれた。理生先輩は確かに優しくて面倒見も良くて、好きになるのも無理はないのかもしれない。
でも、あいつは兄しか見てないから必然と兄を好きになっただけ。他の男を知らないから、比べる対象がいないから。
だから俺は、あいつが俺を見るように、嫌な奴でもいいから、あいつの印象に残るように、ずっと傍にいた。
幼なじみというポジションを守り抜いてきたけれど、それも限界だ。
俺は兄を想うあいつを好きになった時点で失恋しているようなものだったけど、あいつだっていつまでも兄に片想いしていられる訳じゃない。
理生先輩にだって恋人が出来るし、いつか結婚もする。そうなったら、あいつも、莉奈も兄ではなく他の男にも目を向けざるを得ない。独り身になんか、俺がさせない。
だから、これはチャンスだと思った。兄が家に彼女連れ込んで落ち込んでる莉奈に、俺は俺が男であることを意識させる。
そうすれば、今までの幼なじみとしての関係は消えるだろう。でも、何かが進む。確実に、何かが変わるんだ。
翌日。目が覚めると莉奈はいなかった。書置きだけしてあって、そこにはバカって大きく書かれた下に小さくありがとうとあった。何が言いたいんだか。
俺は身支度を済ませて家を出た。多分、莉奈も学校にいるんだろう。そう思って階段を降りると、何故か莉奈が大きなカバンを持って階段を上がってきていた。
何してんの、こいつ。
「おい、何してんだよ」
「泊めて」
「もう泊めただろ」
「もう一日泊めて!」
「はぁ?」
「だって兄貴と顔合わせにくいし……それに、あんたんち、ご両親が出張中で暫く帰ってこないって前に言ってたじゃん」
「言ったけど……だからってお前な……男しかいない部屋に上り込むことがどんなことが解ってるのか?」
「余計なことしたら、あんたのお母さんに言いつけるから」
何なんだよ、この女。本当に俺、なんでこんな女好きになっちゃったんだ?
莉奈は俺んちに荷物を置いて、一人でさっさと学校へ行った。
なんか、憎たらしくなってきた。
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