第2話
どうしてわかってくれないの。
わたしは、わたしは、わたしは。
あなたさえいればそれでいいのよ?
◆◇◆
日曜日。いつものように私は駅に向かった。真奈が待ってる。真奈に会える。真奈に、真奈に。
今日は私の方が早く着いたみたい。
早く、早く来て、真奈。もう、我慢できないの。会いたい、会いたいよ。ちゃんと約束守ったのよ。テストの結果は良くなかったけど、でもそんなに点数下がっていなかったもの。だから大丈夫。私はちゃんと約束を守ってる。真奈との約束だもの。
真奈もちゃんと約束を守ってくれてる。毎週毎週、私のことをいっぱい愛してくれてる。好きだって、愛してるって沢山言ってくれてる。
ああ、なんだ。心配する必要なんてなかったね。私、こんなに愛されてるじゃない。なんだ、なんだ。真奈は私を愛してるの。他の誰でもない、私を。真奈には私がいれば、それでいいんだよ。私たちは、ずっと一緒なの。ずっと、ずっと。世界中のみんながいなくなっても、私たち二人がいればそれでいいの。
そうだよね、真奈。
「藍!」
直ぐに真奈が来た。相変わらず真奈は約束の時間より早く来る。だから私も、今日はいつもより早く来たんだよ。早く真奈に会いたかったから。一分一秒が惜しいの。
真奈は私の元に駆け寄って、いつもの笑顔を見せてくれた。その顔、大好き。私だけの笑顔。私だけの真奈。
「良かった。元気そうね、藍」
「うん。連絡、しないでごめんね……」
「いいよ。じゃあ、今日はどこ行く? あ、前に観たがってた映画とか……」
私は歩き出そうとした真奈の手を掴んだ。
ううん、そんなのどうでもいいの。何もいらないの、真奈だけいればいいの。映画なんていつでも観れるし、誰とでも観れる。買い物だってそう。私は、真奈とじゃなきゃ出来ないことがしたいの。だって、私のこの体は、真奈だけのものなんだから。
「……真奈の家、行こう……?」
早く、私を強く抱きしめてよ。
◆
真奈の家に着いて、玄関の鍵を開ける。今日も誰もいないんだって。真奈のご両親、仲が良いからよく二人で出掛けるみたい。
いいな、真奈の家はみんな仲が良くて。私がこの家に預けられていたときも、本当に親切にしてもらっていた。まるで本当の家族みたいに、優しくしてくれた。だから、真奈の両親が仲良くしてる姿を見ると嬉しくなる。
きっと私たちも、そんな風にずっと仲良くしていられるよね。だって、私たちは誰にも負けないくらい愛し合ってるんだもの。
「どうぞ」
「……お邪魔します」
先週と同じように静まった家の中。私たちだけの空間。誰の邪魔も入らない、私たちだけの。私と、真奈だけの、空間。
バタンとドアが閉まり、鍵が掛けられる。
ガ、チャン
「…………真奈」
私は振り向いて、玄関のドアに真奈を押しつけて思いきりキスをした。
一週間ぶりの真奈の感触。相変わらず柔らかくて気持ちいい。真奈はいきなりでビックリしてるみたいだけど、ちゃんと私を受け入れてくれてる。私が舌を入れたらちゃんと絡めてくれた。
段々と真奈の体が下がっていく。ズルズルと背中をドアに滑らせて、床に座り込んでしまった。その上に私は覆い被さる。
もっと、もっと真奈が欲しい。真奈を感じたい。真奈が足りないの。真奈、真奈。もっと私を愛してよ。私、こんなんじゃ全然足りないのよ。真奈だって、いつももっと愛してくれてるものね。
でも今日は私がたくさん真奈を愛してあげるよ。私がどれだけ真奈を愛してるか、解らせてあげる。他の子なんていらないんだって、解らせてあげるわ。
「……っ、あ、藍……!」
真奈の服を捲り上げて、真奈の胸を目の前に晒した。綺麗な真奈の胸。柔らかくて、温かくて、いつも私を安心させてくれるの。
可愛い、可愛い私の真奈の胸。いっぱいいっぱい愛してあげる。
ねぇ、気持ちいい? 真奈、息が荒くなってる。真奈が私で感じてる。その顔を見てるだけで、私までドキドキしちゃう。もっと、もっと私を感じてよ。真奈。真奈。
「っ、やめ……藍、藍……!」
どうして止めなきゃいけないの? まだ私の気持ち、伝わらないの? まだ足りないの? もっと、もっと気持ちよくさせてあげないとダメなの?
そうよね。私だってこれくらいじゃ足りないわ。もっと、もっと。真奈の秘めた場所も、愛してあげないと。私はスカートの中に手を伸ばした。
そしたら、真奈がその手を掴んで止めた。
「藍!」
「っ!?」
なんで、怒ってるの? どうして止めるの?
真奈、私が好きじゃないの? なんで? どうして!?
「どうしたのよ、藍。急にこんなこと……」
「……」
「今日の藍、ちょっと変だよ。何かあったの? それとも私、何かした?」
真奈が荒れた呼吸を落ち着かせながら、私に言った。
なに、それ。変って何?
変なのは真奈だよ。どうしていつもみたいに私を愛してくれないの。なんでよ、どうしてなの?
「……なんで? わたし、ちゃんと約束……守ったのに……なんで、なんで……」
「藍?」
やっぱり、真奈は私なんていらないの?
友達といる方がいいの?
私のこと、嫌いになったの?
どうして、どうしてなの?
ねぇ、真奈。真奈、真奈!
「真奈……私が嫌いになったの? なんで私を避けるの? なんで? そんなに友達の方が大事なの!?」
「ちょっと、何言ってるの? もしかして、澪に私たちのこと言ったの怒ってるの?」
「当たり前じゃない! だってこのことは私たちだけの秘密なんだよ!? それなのになんでそんな簡単に他人に言えちゃうの? 真奈にとってはそんなにどうでもいいことだったの!?」
「な、ちょっと藍、本気で何言ってるの? 私はどうでもいいなんて思ってないよ」
「じゃあ何でよ! なんで、なんでなんでなんで!? 私には真奈さえいればそれでいいのに! 他のものなんて何もいらないの! 真奈以外の人なんてみんなみんな死んじゃったって構わないわ! それなのに何で! なんで他の子に私たちの秘密言っちゃうの!? なんで、なんでよぉ!!」
真奈にしがみついて、私は泣きじゃくった。
だって、許せないの。私だけの秘密だったのに。それを人に言っちゃうなんて。この約束が私たちを繋いでいたのに。この約束があるから私たちはずっと一緒にいられるんだって、そう思っていたのに。
真奈には私がいなくても平気なの? 約束なんてどうでもよかったの? どうして? なんでなの?
「……藍、ごめんね?」
「……っ、な……で、なんで……?」
「ゴメン。私、藍の気持ち無視してたね。本当にゴメン」
なんで。なんで、なんでなんでなんで!?
なんで真奈はいつもいつも、いっつも!!
「……なんで? なんで真奈はすぐ謝るの!? 私が悪いって言えばいいじゃない! こんなの、全部私のワガママなんだから、私が悪いんだってそう言えばいいのに! なんでそんなに私に優しくするのよ!」
「……藍」
「わかってるよ! 約束に執着しすぎてることくらい! でも、それでも私には真奈しかいないの! 真奈だけ傍にいてほしいの! 真奈が好きなの! 真奈にだけ愛されていたいの!! 真奈がいないと死んじゃうの! だから、だからっ……う、ううう、うわあああ!!」
きっと私の声はドアの向こうに丸聞こえなんだろう。でも真奈は子供みたいに泣き喚く私の頭を優しく撫でたまま何も言わない。ただゴメンねって謝るだけ。
なんで謝っちゃうの? そうやって真奈が直ぐに謝るから、私が謝れないんじゃない。約束なんてなくても真奈は私を愛してくれる。そんなことくらい解ってる。真奈が友達のこと大事にしてることも解ってる。
でも、怖いの。不安なの。ずっと好きだって言ってくれないとイヤなの。ずっとずっと私を抱きしめててほしいの。無理だって解ってても、そうしててほしいの。
真奈だけに、私は愛されていたい。一生、真奈だけに。真奈だけを愛していたい。
「……聞いて、藍。私はね、約束のことをどうでもいいなんて思ってないよ。でもね、いつまでも私たちのことを隠し事にしていたくなかったの。ちゃんと、私たちのことを認めてほしかった。だから、いつか親にも言いたいなって思ってる。ずっと二人だけの殻に閉じこもってるのは良くないと思ったから」
「……」
「でも、それは私のワガママでもあったよね。ちゃんと藍の気持ちも汲んであげるべきだったのに……ごめんね」
「……真奈のそういうところ、嫌いよ……そうやって直ぐ私を甘やかす……」
「しょうがないじゃない。だって、藍が好きなんだもの」
ズルい。ズルいよ、真奈。なんでもそうやって私を許しちゃうなんて。怒ればいいじゃない、嫌われても仕方ないのに。こんなに自分勝手な気持ち押し付けてる私なんて嫌いでしょう。バカ、バカよ、真奈は。
でも好き、好きなの。愛してるの。訳わかんなくなるくらい、私は貴女が好きなの。
「……ごめんね、藍。私のこと、嫌いになった?」
「そんな訳ないじゃない……私真奈が思ってるよりずっと、真奈のこと好きなんだよ? わからない?」
「わからない。どれくらい好きなの?」
「……これくらい」
そっと、私は真奈にキスをした。今度は柔らかく。だけど、激しく絡めあう。
伝わる? 私、こんなに真奈を愛してるのよ。
「……真奈……もっと、もっと愛して……?」
「いいよ、藍。沢山、愛してあげる」
貴女さえいれば、私は死んでもいい。
死ぬまで、私を愛して?
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