第3話
あのね、好きだから言えないこともあるんだよ。
それは、君が好きだから。
好きすぎるからなんだ。
ねぇ、わかってよ。
◆◇◆
日が暮れる頃。私は寮の門限がある藍を駅まで送り、コンビニで適当にお菓子を買ってから家に帰った。
澪、普段なら家にいるけど今日はどうだろう。もう彼氏が出来たんだし、遅くまでデートしてるかもしれない。とりあえず電話して、出なかったらまた明日でもいいか。てゆうか、澪なら掛け直してくれそうだし。
大して期待をしないまま電話を掛けると、数回の呼び出し音の後に澪が出た。あれ、デートとかしてないのかな。それともあいつ、デート中に出たとかじゃないよね。
「あ、澪? いま一人?」
『うん。なんで?』
「いや、直木とデートでもしてるのかなーって思ったからさ」
『うん。直木君とは会ってたよ。で、さっき帰ってきたところだ』
「早くない? まだ夕方じゃん」
『もう六時だぞ。それに、うちは七時には夕飯だから』
親に連絡すればいいだけの話だろうに。きっと直木もヤキモキしただろうよ。
まぁ仕方ないか、そういう考えに至らないんだろうな。
まぁいいや。直木のことなんて今はどうでもいいのよ。それより私は澪に大事な話がある。
「あのさ、澪。ちょっと大事な話があるんだけど……」
『どうした? 急に改まって……』
「うん。その……私さ、ずっと澪に隠してたことがあったんだ。それを、あんたに彼にが出来たら言おうって思ってて……」
『私に彼氏が出来たら、って……直木君に何か関係が?』
「直木は関係ないって。ただ、あんたに人並みの感情が芽生えたら言おうと思ってたのよ」
『そんな……人の感情が欠落していたみたいな……』
「似たようなものでしょう。で、話っていうのは私の恋人のことなんだけど」
ここからが本題。澪なら言っても平気だと思ってるけど、もし引かれたらどうしようって不安をある。
正直、私はこの子に嫌われたら立ち直れる自信がないんだ。それくらい、大事にしてる友達だから。信用してないとかじゃないけど、やっぱり怖いものは怖い。
私は一度深呼吸をして、少し早くなった心拍数を落ち着かせようとした。無駄だったけど、何もしないよりかはマシ。
「あの、さ。澪は藍のこと覚えてる?」
『藍……真奈の幼なじみの戸枝藍さんのことか?』
「そう。実は、さ……私、恋人は確かにいるんだけど……彼氏、じゃなくて……」
どうしよう。声が震えてきた。怖い。でも後戻りはできないし、口から出た言葉はもう取り消せない。
言え、言うんだ。決めたんじゃない。澪に隠し事はしないって。澪ならきっと、解ってくれるからって。
大丈夫。大丈夫なの。
本当に?
本当に大丈夫?
こんなに迷うなんて、本当に私、澪のこと信用してたのかな。ヤダな、友達疑うなんて。でも、怖いよ。
藍。藍、私のしてること、間違ってないよね。今、無性に藍に会いたいよ。でも、藍は怖いなら言わなくていいって言っちゃうよね。でも私、逃げないよ。言うよ、澪。
私、私ね。澪に隠してること、あるんだよ。それはね。
「……藍が、私の恋人なの」
言った。受話器の向こうから、澪の息遣いが小さく聞こえる。
どう思った? ねぇ、澪。あんたは私のことを、どう思う?
『……そうだったのか。道理で……』
「え? 何、道理って」
予想してなかった返答に唖然としてしまった。本当になんですか、道理って。私、何か言ったっけ?
いや、気付かれるようなことは何も言ってないはずだ。中学の時も澪と藍は接点なかったし。二人は同じクラスになったことなかったから、口利いたこともないんじゃないかな。
「ねぇ、何が道理なのよ」
『真奈、恋人のこと話してるときと戸枝さんと話してるときの顔が一緒だった。同じ優しい表情してたから、なんか納得した』
「そう、だった?」
顔なんて自分じゃ見れないから解らなかった。それにしても、いつも鈍いくせにそういうところはしっかり見てるのね。天然怖いわ。
「澪、私が女の子と付き合ってるって聞いてなんとも思わないの?」
『なんで? 誰が誰と付き合おうと、それは本人が決める事だろう? それが異性であろうと同性であろうと、好きになった者同士の自由だ』
「……澪らしいね。あんたなら、そう言ってくれると思ったよ」
大分冷や冷やしたけどね。やっぱり澪は澪だね。さすが私の親友だよ。
私さ、多分誰かに認めてもらいたかったんだと思う。今まで誰にも言えなくて、コソコソ隠し事をしてるのって何だか悪いことをしてるみたいじゃない。それが嫌だったんだ。私が足のことを好きな気持ちは悪いことなんかじゃないんだって、自信が欲しかったのよ。
だから、ありがとうね。澪。
「あんたに話せてよかったよ。澪も直木と上手くやんなよ」
『ああ。そうだ、私も真奈に訊きたいんだけど』
「なに?」
『性行為というのは付き合ってどれくらいでするものなんだ?』
「…………ちょっと、いや、じっくりと話し合う必要がありそうね、直木とは」
あいつ、澪とどんな話してるのよ。澪は本当に何も知らないんだから、余計なこと教え込むんじゃないわよ変態。今度会ったら説教だな。
それから澪と少し無駄話をして電話を切った。なんか、ずっと隠してたことを話せたおかげですっきりした。懸念していたことがなくなったからかな。
一応藍にも伝えておこうかな。私はメールで澪に私たちのことを話したってことを書いて送信した。
藍へ
澪に私たちのこと、話したよ。ちゃんと解ってくれたから、心配いらない。あの子、変わったところもあるけど、普通にいい子だから藍も会って話してみたらどうかな。きっと気に入るよ。
その日、初めて藍から返信がなかった。
次の日も、その次の日も。
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