第2話



 世界で一番、君が好き。


 君だけが好き。何でこんなに君が愛しいのか、全然わからないけど。


 でも、好きよ。愛してる。



  ◆◇◆




 私と藍は、中学までは同じだったけど高校は別々の所に通ってる。

 本当は藍も私と同じところに行こうとしていたんだけど、偏差値が低いからって母親が有名な女子高に無理やり通わせている。それも寮のある所に。

 結果的に家から追い出したようなものだ。

 勝手なものだ。自分の都合だけで子供を振り回すなんて。

 早く、あの子を自由にしてあげたい。そしたら私があの子を最高に幸せにしてあげるのに。



「藍、学校はどう?」

「つまらない。周り、お嬢様ばっかりで話し合わないし」

「そうなんだ。まぁ、あと二年我慢してね」

「出来るかなぁ。私、週に一回しか真奈に会えないなんてすっごくイヤ」


 立ち寄ったファミレスで、藍はグラスの中の氷をストローで突っつきながら頬を膨らませた。藍の通ってる女子高はここから遠くて、日曜日や祝日にしか私たちは会うことが出来ない。学校帰りに会えないこともないんだろうけど、寮の門限が厳しいから無理もさせられないし。

 それに、入学したばかりの頃に寮を抜け出したことが何回かあったせいで学校側に目を付けられちゃってるから卒業までは大人しくしていてくれないと。私だって藍に会えないのは寂しいけど我慢してるんだからね。


「そういえばさ、藍。澪って覚えてる?」

「澪? ああ、春待さんのこと?」

「そう。あの子、最近彼氏が出来たんだよ」

「もしかして、前から言ってた春待さんのストーカー?」

「そう。まぁ、さすがにストーカーは言い過ぎだけどさ」

「そうなんだ。春待さん、そういうの興味なさそうだったのに」

「まぁね。それでさ、私ね。あの子に私たちのこと言いたいなって思ってるんだ」


 私がそういうと、藍は明らかに嫌そうな顔をした。

 藍には悪いけど、私は澪に隠し事ってあまりしたくないんだよね。だって親友だし、色々と話もしたい訳なんですよ。


「……なんで?」

「前から思ってたんだ。澪は友達だし、隠し事ってあまり好きじゃないし……」

「でも、約束したじゃない。私たちだけの秘密だって」

「それは親には内緒ってことで……うちの親なら理解してくれそうだけど、藍のお母さんは絶対に反対しそうだからね」

「……でも」

「ダメ? 藍がイヤだっていうなら言わないよ」

「……真奈のそういう言い方、ズルいよね」


 藍はわかったって渋々言った。

 ごめんね、藍は嫌がるだろうなって解っていたんだけど、もしあの子に彼氏が出来たらこの秘密を告白しようって思ってたことなんだ。だから、これだけは譲れない。

 私は席を立ち、藍の隣に座った。そして藍の頭を抱き寄せて、良い子良い子って頭を撫でてあげる。心配しなくてもいいよ。澪なら他の人に言いふらしたりしないから、安心して。

 藍は甘えるように私の胸に顔を埋めてきた。小さい声で「真奈、真奈」って何度も呼んでる。そういうところは昔と変わらないわね。本当に可愛い子。


「ねぇ、真奈……」

「わかってる。一週間、我慢したご褒美ね」

「……ん」

「今日はうちの親、夜までいないんだ。だからさ、久しぶりに一緒にお風呂にでも入る?」

「いいの?」

「うん。その代り、わかってるよね?」

「うん。ちゃんと我慢するよ。絶対に我慢する。寮も抜け出さない。ちゃんと勉強もする」

「よし、いい子ね」


 これは、毎回寮を抜け出そうとする藍に私が提案したこと。真面目に学校に通って、寮も抜け出さずに一週間我慢出来たら、私の部屋で藍を可愛がってあげるって。まぁ、私へのご褒美でもあるんだけどね。だって、一週間も藍に触れないなんて地獄以外の何物でもないわ。

 私たちはファミレスを出て、家に向かった。指を絡ませて、隙間が出来ないように手を握って、一週間の空いた時間を少しでも埋めようと余すことなく肌を重ねる。


 もう我慢できないよ、藍。



 家に着くと、誰もいないことを知らせてくれるようにシンと静まってる。藍は玄関先で私に覆い被さり、激しく唇を重ねてきた。甘い、甘い、藍の唇。柔らかくて、何度も食い付きたくなる。

 私は藍の服を脱がしていった。もういいよね、場所なんて気にしていられないよ。上着を脱ぎ捨てて、ワンピースも邪魔でしかない。下着姿になった藍は、昔に比べて色っぽい身体つきになった。

 中学の頃は凄く痩せてて、骨が浮き出るくらいだった。でも今は寮の学食があるおかげで毎日ちゃんと食事が出来てるから健康的な体になって、今では私より胸もデカい。触ってても気持ちいいし、藍の反応を見てるだけで十分私を興奮させてくれる。


「まなぁ……」

「ふふ、お風呂……いこっか?」


 切なげな声を出す藍の頭を撫でて、私たちは風呂場に行った。脱衣所で藍が私の服を脱がしながら、体中にキスをする。くすぐったくて、止めてって言っても藍は止めない。止めてほしいなんて、本気で思ってないんだけど。

 着てるもの全て脱いだ私たちは、浴室に入ってシャワーを頭から浴びた。熱いお湯を浴びながら、火照った体を重ねていく。

 真昼間の情事。私たちの秘め事を、シャワーの音が掻き消してくれる。


「……真奈、真奈……」

「藍……かわいい、私の藍……」

「……ほん、と? 好き? わたしのこと、すき?」

「好きよ、世界で一番好き。藍の全部が好き」

「うれしい……私も好きよ、真奈……真奈だけ、真奈だけが好き。真奈がいれば何もいらない……」

「藍……」

「真奈。もっと、触って……? 会えない一週間、ずっと真奈に抱かれてるって思えるくらいに、私に真奈を感じさせて……」

「いいよ。私も、藍を感じたい……」


 濡れた前髪を掻き上げて、藍の唇を貪る。その柔らかい舌を絡ませて、吐息も何もかもを食らう。まるで蜂蜜みたいな甘さ。噎せ返るような、だけど癖になる。そんな甘さ。中毒に、なりそう。

 藍の体は全部が甘い。顔も、胸もお腹も腰も、脚も、声も全て。

 だから私は、その全てに私の跡を刻むの。

 真っ白い肌に紅い華を咲かす。見えるような場所に付けると厄介だから、藍にしか見ることが出来ない場所にだけ付けていく。肌に吸い付く度に藍は小さく体を跳ね上げて、甘ったるい声で喘ぐ。その声、私だけのものよね。


「藍……かわいい……」

「……真奈、もっとぉ……」


 いいよ、藍。貴女が望むだけ、私をあげる。

 私たちは、それから部屋に戻ってベッドの上で体を交わらせた。汗の一滴も逃さないほど、私は藍の全てを求めた。

 一週間分なんてものじゃない。一ヶ月分は求めあったかもしれない。それくらい、私たちはお互いに飢えていた。たった一週間で餓死しそうなくらいだった。

 だから私は藍の体から溢れる蜜を全て舐めつくした。もっと、もっと啼いてよ藍。その声を私の耳の奥に響かせて、鼓膜に刻んでよ。


 藍。


 藍、藍。藍。


「愛してる、藍……」


 ずっと、私だけのものでいてね。






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