第66話 レニャの過去3
「君たちから目を離すべきではなかったんだ。ネラディオスの研究員に怪しい動きがあるとわかっていたのに……2度とあんな目には合わせないよ」
アレクの目と声には強い意思がこもっていた。握り締めている拳がわずかに震えている。
わかっていたのに、もっとしっかり警戒していれば……。後悔がアレクの胸に広がっていく。
だが、ネラディオスの研究者がした事も自分たちがしていた事と変わりはない。精霊達から魔力を奪っていたことには。精霊を作り出すなどなんて傲慢で罪深い事を。
全てを話すことで彼らソフィたちに拒絶されるかもしれない。それでも、たとえ嫌われてもここから出して自由に生きてほしい。
「ネラディオス?」
「隣国だ。彼らが来てから研究施設ここも変わってしまった。我々は精霊に敬意をもち知恵を借りて民の生活に活かすための研究をしていたのに、それが今では……すまない」
私たちの魔力を根こそぎ奪ったのは、この研究施設に途中から合同研究員として入ってきたネラディオスの研究者だった。
2人は悪くないよ!
嫌な事をしたのだってそのネラディオスって国の人なんでしょ?
今だって私たちを必死で治してくれてる。辛い顔をしているアレクを見て胸がギュッと痛んだ。
その思いはみんな同じだった。
「だから何度も言ってるだろー! アレクは謝らなくていいって」
「そうだよ、悪いのはあいつらなんだから!」
「ソフィもそう思うでしょ?」
わたしは力強くうなずいたけれど、アレクは首を横に振った。
「同じ事だよ。君たちを作りそして魔力を集めていたんだ、僕たちと彼らのやっていた事は同じなんだ。今回の事でやはり僕たちは間違っているとハッキリわかった。もうこんな事はするべきではないんだ。みんなの魔力が戻り次第、ここから出て外の世界で自由に暮してほしい」
――――外の世界、自由。
想像もつかない言葉はザワザワと落ち着かない気持ちにさせた。本当にそんなことができるの?
「それで何をしたらいいの?」
腕を組んで静かに話を聞いていたコラードがアレクとロイに向けて問いかけた。
「およそ一月で魔力回路は修復するはずだ、それから半月は魔力を体に馴染ませてほしい。一度壊れた回路を修復するのは初めてだから、どんな支障が起こるかわからない。その間にリアナには外で生きる為の知識を与えてほしい。そして一月半後、コラードにはみんなを外に連れ出してほしい。この中で外へ出れるのは君だけだ」
ロイがそう言うとすぐにリアナがコラードを見た。
「わたしが教えれる事は全て教えるけれどコラードへのお願いはあまりにも危険ではないの? それに、この子たちの魔力が回復して外へ出ても今度はその魔力で見つかってしまうわ」
「リアナの言うとおり魔力持ちを捕まえる為のヤツらの執念は凄いから。ロイだって知ってるように脱走防止も兼ねてそこら中に魔力を感知する装置があるし、施設から出た瞬間に未登録の魔力はあっという間に見つかると思うよ」
簡単にはいかないようだ。
「なぁ、コラードは外に自由に出れるのか?」
「出ることは可能だよ。未登録の魔力だと見つかると言っただろ? 研究施設にいる魔力持ちはみんな管理されているんだ、任務がなければ外出は出来ないし指定の時間に戻らなければ強制的に研究施設ここへ転移するよう体に陣が刻まれている」
「体に陣!?」
「コラード人間なのにどうして?」
次々に投げられる疑問にコラードはチラッとアレクとロイを見た。2人とも顔色がわるい。コラードは小さくため息をついた。
「何も知らないのか……。本当に大事に守られていたんだな」
「え? なんて言ったんだ?」
コラードは少し考えるとぶっきらぼうにこたえた。
「名前がわからないとやっぱり不便だって言ったの! 」
「な、名前?? 今この流れで? いや確かにそうだよな……? でも、へっ?」
「あ、私たち自己紹介してない」
「ソフィもお名前思い出したし、私たちも言ってもいい……かな?」
すごく真剣な話をしていたのにみんなの混乱している姿がおかしくて思わずクスクスと笑ってしまった。
「ソフィ! 笑うなよ」
「ごめん、スイたちの慌ててる姿が面白くて」
スイの名前を読んだ瞬間、みんなの目がこぼれるんじゃないかってくらい見開いていた。
「私たちの事も思い出したの?」
「もちろんだよ! スイ、ユラ、メイ」
スイにユラにメイ……ありがとう。
みんな私が悲しい思いをしないように言わずにいてくれてたんだよね。涙がじわりと出るより早くスイから雷が落ちた。
「はぁ? アレクとロイがわかった時に俺たちの事も思い出してたのか? 早く、早く言えよ!」
「そうだよ! ソフィったら何も言わないからわたし達の事だけ忘れてるって……ヒックヒック」
「ソフィ、意地悪しちゃダメだよ」
えぇっ、ちがうよ! 意地悪なんてしてないー!
オロオロしているとリアナが助け舟を出してくれた。
「落ち着いて、ソフィは意地悪なんてしないわ。アレクとの話でまだ混乱してたのよ、ね?」
わたしはリアナの言葉にブンブンと頷いた。スイは「そうか、思い出したばっかりだったもんな」とブツブツと言うとバッと顔を上げた。
「じゃあ許すよ、なっ?」
「「うん」」
3人はそう言うと今度はコラードの方を向いてにっこり笑った。
「と言うわけだコラード。俺がスイ、真ん中のがユラ、その横がメイだ」
「水色頭がスイで黄色頭がユイ、赤頭がメイだな。覚えた」
「なんだよ、その覚え方……。アレク、ロイ! コラードのやつなんだかひどいぞ!」
「色と形で覚えた方が覚えやすい。名前もわかったし、話を続けよう。アレク、ロイ?」
名前を呼ばれた2人はなぜかひどく疲れているようだけどホッとしたような不思議な表情をしていた。
「どうしたの?」
「いや……」
目頭を抑えているアレクを見てリアナがそっと教えてくれた。わたしが思い出した時拒絶されるのじゃないかって不安になっていたと。
趣味は実益を兼ねる〜緑の魔力持ち 庭の畑は今日もにぎやかです〜 おしるこ @nk81
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