第64話 レニャの過去
――――ピッ ピッ ピッ ピッ
……まぶしい、からだもおもい。
急に意識が開けたが、自分が今どこにいるのかわからない。無機質な機械音だけが聞こえてくる。
だんだんと眩しさがおさまって薄っすらと目を開けると、透明の丸い物の中に入っていた。
どこにいるのかわからないけれど、ポカポカしてからだがあたたかい。日向ぼっこしてるみたいできもちいいな。
周りを見渡すと幾つもある機械の中に何かが入っているがよく見えない。
目だけをキョロキョロと動かして周りを見渡しても、分からないことが増えただけだった。
体も思うように動かず、どこかも自分が誰かもわからない。だんだん眠たくなってきた。
暗闇の中に消えてしまいそうな感覚があったけれど、それでもいいやと思えるくらいにこの中は心地よく思考もだんだんと低下していった。
しかし、あと一息というところで私の意識は再び駆り出された。
「おい! 急げ、反応があったぞ!」
「アレク落ち着いて! 気付かれてしまうよ」
そんな声と共にバタバタと足音が近づいてきた。
バン! っとドアが開くと白い服を着た2人の男が我先にと私のところへ走ってきた。
その瞬間バチっと目があった。
海の色をした瞳と夏の木々を思わせる緑の瞳だった。
「やった! 目を覚ました」
「僕たちがわかる? 声は聞こえる?」
向けられた優しい声に何故か嬉しくなって、コクリとうなずいた。懐かしい気がしたのだ。
「今までのこと覚えているかい?」
私が首を横に振ると2人は少し寂しそうで少しホッとしたように見えた。
「そうだ私の名前はロイ、彼はアレクだ」
「よろしく」
海の瞳がロイで緑がアレク。わたしも名前を言わなくちゃ。
口にしようとして言葉に詰まった。あれ、名前……なんだっけ?
なにもわからない。悲しくなってきた。声もうまく出なくて涙だけがハラハラと流れていった。
「泣かないで。もう心配いらないから」
「もう少しだけお休み。僕たちはいなくならないから」
本当に? もう消えたりしない?
――――もう……?
わたし、ロイやアレクを知ってる?
だめだ、思い出せない。あぁ、また眠くなってきた。
「眠ったようだ」
「ソフィ、僕らの事も忘れてしまっていたね。だけどそれで良かったかもしれない。ねぇアレク、ソフィが思い出すまでは何も言わずにいよう」
「力を奪われたショックが大きかったんだろうな。ネラディオスの研究者が加わってからジュレここもだいぶ変わってしまった。陛下は何故彼らを迎え入れたのか。我々の目指す道は精霊から力を搾取する事ではなかったはずだ」
「リメール施設長が陛下に研究内容の見直しの意見書を出されたそうだが国益の為とお聞きになられなかったそうだよ。せめてソフィのように力を奪われ捨てられた精霊たちをもう一度森へかえす事してあげたい」
「ソフィが目覚めたおかげで他の精霊たちにも希望がもてた。どれだけの精霊を助けれるかわからないが出来るだけのことはやろう。彼らに気付かれないうちに」
「あぁ、まずはそれぞれ変えていた回復薬の濃度をソフィのものを中央値として傷の程度に合わせてもう一度見直そう」
**********
目が覚めると約束通りロイとアレクはそばにいた。
「やっと目をさましたね、一番最初に起きたのに今度は最後まで寝ていたから心配したよ。あれから2週間も眠ってたんだよ?」
最後まで寝てた?
ロイの言う事の意味がわからず首を傾げるとアレクがニコニコしながら私の横を指差した。
「はじめまして!」
「おそーい。ぼくたちソ……、君が起きるの待ってたんだよ」
「楽しみに待ってた、でしょ?」
アレクの影からは私と同じように透明の容器に入った女の子2人と男の子がいた。
「小さい」
思わず出た言葉にロイがふふふっと笑った。
「君も同じくらいの大きさだよ。みんな友だちだよ、仲良くできるかな?」
友だち……はじめて会うはずなのにロイやアレクと同じように懐かしい。
「仲良く、できるよ」
「よろしくね!」
「僕だってできるよ! よろしくな」
「私だって!」
それからわたし達はずっと一緒にいた。
ロイとアレクはずっとここにいるわけではなく、夜になると毎日きれいなお花を持って「ただいま」って来るの。
別の所でお仕事をしているから夜しかこれないんだって。
どうしてここから出れないのかみんなに聞いたら「今はしょうがないよ」って悲しそうに言うんだ。
だけど、最近は昔みたいに飛んでみたくてうずうずする。
――――昔? あれ、わたし飛んだことなんてないのに。もやもやしてなんだか気持ちわるい。
「君たちが入っているその中には気化させた回復薬を流してるんだ。今は体が疲れているから外に出てしまうと倒れてしまうよ」
疲れてなんかないって思ったけど、みんがはいつものようにしたかないって顔をするんだ。
「しょうがないな」
「わたしは別にこのままでもいいよー」
「そうだね! でももう少し広いならもっとうれしいなぁ」
「うーん、広さかぁ。少しアレクと相談してみるよ」
あれ、そういえば。
「今日はアレクいないの?」
「ふふふ、実は今日は君たちにお客さんがいるんだ。もうすぐアレクと一緒に来るはずだよ」
「お客さん?」
ロイがにこにこしながら扉の方を見ると、ちょうどドアが開いた。そこにはアレクと消えそうなくらい儚げな女性ととんでもなく目つきの悪い子どもがいた。
「わー! アレクその人たちだれー?」
「きれーい! こわーい!」
「アレクのお嫁さんとこども?」
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