第63話 近づく真実

 ステンドグラスを通り抜ける光の先には精巧に作られた美しい女性の像がある。瞳を閉じたまま慈悲深く微笑むその姿を背に5人が円卓を囲んでいる。


「失礼します!」


 急いで来たのか僅かながら息が上がっている修道着を纏った若い男はドアをノックし部屋に入ってくると、一番奥に座っている男の元に向かった。


「ジュレの施設に侵入者ですか?」


「はっ、侵入者は2名で共にフェリクスの魔術部の者のようです。施設内部で大きな爆破があり、医療部隊に2名共運ばれたようですが1名は現在治療中、もう1名は手の施し様がなかったようです。イスタ様より大司教様へお伝えするようと伝書が届きました」


「魔術部で間違いないのですね? フェリクスでは侵入者禁止区域になっていたはずですが……。わかりました、イスタには引き続きフェリクスの動向を調べるように伝えてください。今は警戒しているでしょうから慎重にと」


「はっ!」


「イスタって今、フェリクスにいたんだ。どうりで最近見ないと思った。にしても爆発ってことはアレで死ななかったんだ、フェリクスむこうにも優秀な魔術師がいるんだね。まっ、1人は瀕死みたいだから身を挺して守ったってとこかな。それにしてもジュレの森かぁ。あそこの研究施設ボクも行ってみたかったんだよね」


「レイトは物好きだな、俺は頼まれても行きたくねぇ」


「精霊を使った研究なんてなかなか見れないからね。セドアさんってそんな筋肉してるのに今更実験は倫理に反してるなんて言わないよね?」


「筋肉は関係ねぇだろ。あぁいうのは趣味じゃねぇんだ。それに研究なら学者様に頼めばいくらでも見せてもらえるだろう。なぁ、ジェスター」


「……」


「セドアさんがヤな言い方するから、ジェスターさん返事しないじゃん。それにボクが見たかったのはジュレ施設なの、あの規模の実験なんて今は出来ないでしょ。あーぁ、もっと早く生まれたかったなぁ」


「けっ、それよりも精霊を餌に何十年も女を待ってたんだろ? 先にフェリクスの魔術部に餌の精霊が見つかったんなら面倒な事になりそうだな」


「精霊は生きてはいないはずです。彼女が現れた時のために魔力を間近で感知すれば、体内から相当量の魔力爆発を起こすようにしていましたから。レイトが言うようにフェリクスの魔術師が生きていたのが不思議なくらいです」


「お、ジェスターちゃんと話せるじゃねーか。しかし、こんなにも現れねぇとはな。あの女どっかで死んでんじゃねぇのか? 散々体もいじってたんだろ?」


「言葉には気をつけてもらえませんか。精霊研究に対する冒涜です。それに、そう簡単に壊れるようには作っていません」


「何もダメだなんて言っちゃいないんだぜ? あんたたち学者様の研究のおかげで軍力は飛躍的に上がったしな。女が助けに来た所を魔力爆発で手負いにさせて捕まえようなんて悪趣味な罠はごめんなだけさ」


「あなた方がきちんと捕縛していたのなら、精霊を使った罠など必要なかったのですがね」


「それも失敗したがな」


「ベイク、ジェスターに喧嘩売るのやめなさいよ。筋肉と根暗の喧嘩なんて見たくないわ。ただでさえヒューバート様が会議にいらっしゃらなくてショックなのに」


「……アリシアの方が酷くない?」


「イスタ、女なんてそんなもんだよ」


「なに?」


「なんでもねーよ、おっかねぇな!」


「少し落ちつきなさい。アリシア、ヒューバート様はお忙しい身です。わかりますね? フェリクスへ経つ日が正式に決まりました、2月ふたつき後です。目的は精霊と加護者の保護です。ベイク、アリシアには護衛としてレイトには教会代表として同行してもらいます。ジェスターは引き続き精霊研究をお願いします。みな、よろしく頼みますよ」





 ―――――――――――――――





「歴史は変えるざるを得なかったんでしょうね。王族と精霊の結びつきなんて歓迎以外の何ものでもないっすけど人間と精霊両者の合意の元そんな研究が行われていたなら公には出来ないっすね」


「民意は得られないでしょうね。なぜそのような方向に進んでしまったのか理解し難いですが」


「人間は不老不死や力を求めたと聞いたが真実はワシにも分からん。精霊が賛同した理由は知る気にもならんかったわい」


 理由などなんの意味も持たないとフェンちゃんの目は冷え切っていた。


「精霊も同じような事を幼い人間にしてたの?」


 そして今まで静観していたクレルのレニャへの問いは違うという言葉を願っているように見えた。


「精霊も人間もですわ。幼い人間の多くは孤児のようでした。私わたくしが待っていた友もそうです」


「そう、なのね」


「クレル、大丈夫か? 顔色が悪い」


 クラウスさんがスッとクレルの側へ行った。

 よく見るとクレルの顔は頬の赤みも消え真っ白で、握りしめている手も小さく震えていた。

 無理もない、精霊も関わっていたのなら光の大精霊や精霊王であるクレルの両親も知っていた可能性は高い。


「少し横になった方がいいよ、待っててベッドを整えてくる」


「リゼ、大丈夫だから」


 首を横に振って拒否するクレルは休むつもりはないようだ。

 ダメだと思ったら無理やりにでも休ませようと決めてこのまま話を聞くことにした。


「私わたくしはフェン様のように始まりなどは知りません。答えられるのは過ごしてきた日々だけですわ」


「十分よ」


 レニャから聞いた話は全く別の世界の出来事のようだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る