第61話 研究施設の秘密

「えっ!?」


 名前が決まったレニャにクレルが改めてみんなの紹介をしている。細かい事は話す時間もなかったからね。


「フェンリルはとうの昔にこの地を去ったと聞いてましたが、まさかお目にかかる日がくるとは……」


「わっはっは、少しばかり山に引きこもっておったからのう。リゼの魔力に引き寄せられて久しぶりに出てきたのじゃ。今はリゼがおる以上この森からどこにも行く気はないの。面倒を見てやらねばならんヤツもおるしな」


「そうだったのですね。リゼさんの魔力は温かくて心地よくて守られているような気さえしますものね。それに、ねこから聖獣になる事があるなんて驚きました。本当にリゼさんの魔力は不思議ですわね」


「ふふっ、リゼは特別なのよ」


「リゼさんはみなさんに愛されてますのね」


「そうだな! おれもリゼはフェンじいちゃんくらい好きだ」


 うっ。


 クレルもソルテも褒めすぎだ。慣れてないからこんな時どう返すのが正解かわからない。

 とりあえず笑って誤魔化しながら、冷えてしまった紅茶のお代わりとソルテ用の蜂蜜入りのホットミルクを用意するためにキッチンへ立った。


 レニャも紅茶よりミルクの方がいいかな?


 私の中では、精霊=甘党の図式が出来上がっている。

 みんなの好みの味は覚えているので、ササッとお茶の準備を終えて紅茶とホットミルクをテーブルに並べた。

 うむ、我ながら中々の手さばきだ。

 心の中で自画自賛しながら、レニャの前に蜂蜜の入ったカップを置いた。レニャの好みはこれから覚えるからね!


「レニャ、蜂蜜足りなかったら足してね」


 みんなが飲みはじめる中、レニャだけがジッとミルクを見ていた。


「飲まないのか? リゼの作るのは何でも美味しいぞ!」


 ソルテが褒めてくれるのはありがたいが、ホットミルクに私の技術は関係ない。ミルクを温めてライスさんからもらった蜂蜜を入れるだけなのだ。


「王都に店を構えても大繁盛だろうな。安心して飲んで大丈夫だ」


 クラウスさんは褒めてるのか貶してるのかどっちなんだ。


「あ、いえ。こんなふうに外の世界で過ごせる日が来るとは思っていなかったので。半端な私たちは地下施設ここでしか受け入れられないと言われてましたから……少し感動してました」



 なんだとーーー!?

 こんな素直で可愛い子が受け入れられない訳がない。

 なんて嫌な事言うやつだ!

 あー! ヤダヤダ。

 レニャが可愛いから僻んでるだわ。だいたい半端ってなんなのだ。レニャの可愛さは完成形ですらある。


「なんだそいつー、いやなヤツだな」


 ソルテも私と同じ意見のようだ。


 レニャはしばらくミルクを見つめた後、にこっと笑うとカップに口をつけた。


「―――!!! おいしいです!!!!」


「そうだろ! 甘いのが好きならもっと蜂蜜入れたらいいぞ」


 ソルテとレニャが美味しそうに小さな手でミルクを飲む姿を見ているとしあわせな気持ちになる。

 なんだか母親になった気分だ。


「お代わりもあるからね」


「はい! 研究室で人間が飲んでいるのは見た事はありましたけれどこんなに美味しいものでしたのね」


 その瞬間、クラウスさんとアルヴィンさんが視線を合わせた。


「レニャ殿、あなたがいた地下施設について話してもらってもいいか?」


「もちろんです。それと敬称はいりませんわ、みなさま恩人です。レニャとお呼びください」


「では、お互いそのように。クレルとフェン殿も知っている事があれば話してくれ」


「えぇ」


「わしよりもスプレンドーレの方が詳しかろうがの、承知した」


 少し苦い表情をしたフェンちゃんがボソっとスプレンドーレさんの名前を出した。


「まず、あの研究施設の目的はなんだったのですか? 何をしていたのですか?」


 はじめの質問はアルヴィンさんからだ。クラウスさんとイーサンは静かにレニャを見つめている。


「精霊の研究、そして精霊を人工的に作る事ですわ」


 クラウスさんたちの息を飲む音が小さく聞こえた。


「人工精霊なんて存在するんすか……」


「外の世界から連れてこられた精霊たちもいましたが、少なくとも私が知るだけで数十の人工精霊がいましたわ。生まれ育ったところは地下施設でしたけど、小さくとも確かにそこには私たちの世界がありましたの。家族であり友と生きた世界が存在していたんです」


「その精霊たちは今どこに?」


「……もういませんわ。研究ができなくなるからと、その時に研究施設そこにいた全ての精霊から魔力と力を奪ったんです。魔力を失った精霊は消えてしまいます。何の前触れもなく、ずっと一緒だと思っていた者たちはいなくなりました」


 クレルは静かに目を閉じて話を聞いている。


「私たちは奪われる為に作られたんです」


 私たち?


「――ではあなたも?」


「はい、私は地下施設で作られた人工精霊の最後の生き残りですわ」


 そうか、レニャが言っていた半端とはこの事だったんだね。



「なぜあなただけが、地下施設に残されていたんですか?」


「私に会いに来る人を消すためのですわ」


「君に? 我々のように研究施設を調べるものではなくか?」


「はい、友だった人間です」


 友だった人?

 研究員に親しくしていた人がいたという事?

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