第59話 再び名付けだ!
「それにしても、おまえ普通に話せたんだな」
「何言ってるんっすか、当たり前ですよ。クレルさまや守護神さまに失礼な事はできないっすからね。時と場合と相手を選んでるんっすよ」
「イーサン、クラウスさまはあなたの上司だという事を忘れないように」
「はい」
返ってきたイーサンの答えにクラウスさんは顔を引きつらせているが、アルヴィンさんが注意したのでそれ以上は言わずにため息をついている。
残念だが、すぐに疲れたと言っては森にご飯を食べに来るクラウスさんに尊敬される上司のイメージは確かにない。
「私のことはクレルでいいわよ。『さま』なんて堅苦しいのは好きではないから」
「わしも気軽にフェンちゃんとでも呼んでくれ。そもそもフェリクスの守護神でもないしのぅ」
「えっ!? フェリクスの守護神さまじゃないのですか?」
驚くイーサンに、ワッハッハっと笑いながらフェンちゃんが守護神と呼ばれる様になった経緯を説明した。
「まぁ、そんなわけじゃ。こやつらの仲間ならそこまで礼儀にもこだわらん、身を挺して精霊や仲間を助けるあたり中々気概もありそうじゃしな」
「フェンちゃん! 光栄っす!」
「……すごいなあいつ」
「えぇ」
「そんな羨ましそうな顔してないで、おまえもフェンちゃんと呼んでみたらどうだ?」
「やめて下さい、恐れ多くて無理ですよ」
しかし驚いたっす! とその後も最初とは180度ほど変わった態度でフェンちゃんと軽快に話すイーサンをクラウスさんとアルヴィンさんはどこか遠い目をしながら見ていた。
クラウスさん曰く、若さ故の適応力なのだろう。
「ところであなたの名前はなんていうのかしら?」
「クレル姉様、私に名前などありませんわ。私という意思が芽生えた時には小さな透明の容器の中にいましたの。私の他にもたくさんの精霊たちが同じ様にいましたわ。人間に呼ばれる時はみな番号でしたの」
精霊はそう答えると力なく笑った。
番号? ……それに生まれてからずっと精霊の研究施設そこにいたって事?
それとも。
「どういう事だ、意思を持った時には……だと?」
「施設では何が行われていたのですか? 他の精霊たちはどこへ?」
グッと手に力が入った精霊の肩にポンと軽くイーサンが手を置くと、クラウスさんとアルヴィンさんが立て続けに質問するのをイーサンが軽く諫めた。
「そんなに怖い顔で聞いても答えれないっすよ。ね?」
イーサンに覗きこまれた顔からボッ!! っと音がしそうなほど顔が赤くなってプルプルと震えている精霊を見て、ショックを受けたと思ったクラウスさんとアルヴィンさんが不躾だったと謝っているが、あの反応は間違いなくイーサンの顔覗き込みという不意打ちによるトキメキが原因だろう。
シュチュエーションは違えど、私もアルヴィンさんと会う時は必ず陥る現象だ。気持ちはよくわかる。
いかんいかん、そんな事を分析している場合ではなかった。
「名前を決めましょう。聞きたい事はあると思うけれど詳しい話はそれからでもいいでしょ?」
「うむ、そうじゃの。名前がないと不便じゃし番号なんぞは呼ぶ気にはなれんわい」
謝り倒しているクラウスさんとアルヴィンさんをよそめにクレルとフェンちゃんが話を進めている。
しかし、精霊の名前を考えるのは大賛成だ。
「そうだね! 可愛い名前にしようよ」
幼く見える姿だからクレルとは違う可愛さだが、可愛さに間違いはない。
その可愛さにふさわしい名前がいい!
「名前ですの? 私の名前……。でしたら……皆さまに考えてほしいですわ」
「ふふっ! お任せなさい!」
クレルも張り切ってる。クラウスさんたちも、あーでもないこーでもないと真剣に考え始めた。
しかし色々案は出るもののいまいちしっくりくる名前がない。
「決まらないわね。ピンとくる名前がないわ」
「そもそも、こんな短時間で決まるものでも決める事でもないんだがな」
「名付けの書籍を手配しましょう」
「じゃが、ここに住む以上早く決めんと名無しじゃ味気なかろう」
「せっかく自由になったんすから、早く決めてあげたいっすね」
名付けの本なんてあるんだ……アルヴィンさんが名付けの本を見る姿。
ふへっ、アルヴィンさんは難しそうな本を読んでるイメージだからこれもまたギャップに萌える。
本を読んでいるアルヴィンさんを見た事は無いので、妄想に妄想を重ねているがきっと本を読む姿も素敵に違いない。
妄想で緩んだ頬をペシペシと軽く叩いていると怪訝な顔をしたクラウスさんと目が合ったかと思うと急にアルヴィンさんを見てニヤニヤしだした。
ぎゃっ! なんて感の良さなんだ……嫌すぎる。
大事な名付けの時に邪な気持ちが入った罰なのか。
恥ずかしい気持ちを隠すため精一杯真面目な顔をした。
「あ、あの……」
「ん? どうしたの?」
ソワソワと少しぎこちなくしている所をみると、私が妄想に取り憑かれている間に、気になる名前があったのかもしれない。
「
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