第51話 お肉大好き!
パンケーキパーティーから1週間がたち、フェンちゃんとモフモフも森の生活にはすっかり慣れていた。
フェンちゃんは、私たちが王都に行っている間に畑仕事を手伝ってくれていた事もあって今では畑仕事要員として十分な戦力である。
モフモフは見よう見真似で野菜を運んでは、すぐに飽きてフェンちゃんに遊ぼうとちょっかいを出している。
『真面目に働かぬか』と言いながらも、畑仕事が終わるとフェンちゃんはモフモフと遊ぶのが日課になっている。フェンちゃんはモフモフに甘々なのだ。
「フェンちゃーん、モフモフーお昼だよ〜!」
窓を開けて遠くの方で追いかけっこをしているフェンちゃんとモフモフ声をかけると、すごい速さで家に向かってくる2匹が見えた。
「聖獣って足速いんだね。モフモフは見た目が猫だからすごい違和感だわ。鳴き声もニャンじゃないし」
「モフモフはフェンリルと一緒に過ごしてるからどんどん逞しくなってる気がするわね。……それよりモフモフの名前は決まったの? 早めに決めないとこの名前に定着しそうだわ」
そうなのだ。実は、昨日フェンちゃんからモフモフが名前を欲しがっていると聞いたのだ。
猫から聖獣になったので、モフモフには聖獣が生まれながらに持っているはずの名前が無いらしい。
聖獣の生まれ持った名前は真名といって、魂に刻まれているのだとクレルが教えてくれた。
魂に刻まれる名前を欲しいと言われても責任重大過ぎてすぐには決まらない。それにずっとモフモフって呼んでたからなぁ。
「まだ決まってない。ねぇ、本当に私が決めていいのかな? 真名って大事なものなんでしょ?」
「大事だけどモフモフがリゼに決めてほしいって言ってるんだから気にしなくて大丈夫よ」
んー、とりあえずもう一度ゆっくり考えてみよ。
「ご飯を食べてまた考えてみる」
「それがいいわ。うふふ、戦力は多い方がいいもの」
「戦力?」
なにやら悪い表情のクレルが料理を持ってつぶやいている。モフモフも畑要員にするつもりなのか。
「なんでもないわ。さ、もう帰ってきそうよ。料理をテーブルに並べてしまいましょ」
そうだった、焼き上がった料理をお皿にのせてクレルに渡していく。今日のお昼ご飯は若鶏のソテーの野菜添えと、お野菜たっぷりスープだ。
最近は2日に1回は肉か魚が食卓に並ぶようになっている。野菜やスープにパンの生活にフェンちゃんが、肉が食べたいと言ったのがはじまりだ。ちなみに魚は畑のそばに出来た川でフェンちゃんとモフモフが捕まえてくる。
1人で暮らしていた時はお肉は高いので1週間に1度あるか無いかだったけれど、今はクラウスさんのお屋敷との取り引きも増えたのでお財布にゆとりも出来た。
お肉をリクエストされた日に街へ買いに行ったのだが、せっかくだからと歓迎会も兼ねる事にした。普段あまり買わない私がたくさんのお肉を買ったのでお肉屋さんが「誰か来るのかい?」と驚いていたが、聖獣とフェンリルの歓迎会とも言えるはずもなく笑ってごまかした。
一回の買い物の量も増えてお得意様になる日も近そうだ。
『うむ、いい匂いじゃの』
「きゅー」
器用に家のドアを開けたフェンちゃんと泥だらけのモフモフが入ってきた。
「わぁ、たくさん遊んできたのね。先に汚れを落としてから食べようね」
泥だらけのモフモフを外に連れ出して力を使って洗った体を風をおこしながら乾かしていると、クレルに注意されたフェンちゃんも手足を洗いにやってきた。
『スプレンドーレの娘は気が強いのう』
ぶつぶつと言いながらもフェンちゃんは素直に川に入って汚れを落としていた。まるで孫に注意されたおじいちゃんのようだ。
「そのままで食事したら体にばい菌が入っちゃうし、洗わないと部屋も汚れちゃうから。さて、早く行かないと料理が冷えちゃうね」
『ばい菌とやらに負けるような柔な体ではないが居候の身、部屋を汚すのはいかんな。次からは気をつけるとするわい』
「ふふふ、ありがとう」
キッチンへ戻るとクレルが温めなおしたスープを並べているところだった。
「綺麗になったわね。準備もちょうど終わったわよ」
フェンちゃんとモフモフはジェフさんが昔作った踏み台の上に料理を置いて食べている。夢中で食べているところを見ると気に入ってくれたのだろう。
みんなが美味しいと食べてくれるので作り甲斐もあって、毎日の料理に力が入る。
全体がこんがりとキツネ色に焼けた鶏肉を一口食べる。鶏肉の皮はパリッとしているが中の身はまだ熱々でふわっとしていながらもジューシーだ。よしよし味もしっかりついている。
「リゼの料理の腕がどんどん上がっていってる気がするわ」
どうやらクレルもお気に召したようだ。
『うむ、おかわりを頼む』
「きゅー」
フェンちゃんとモフモフにおかわりをお願いされたが、鶏肉は1人一個ずつしかない。
一応大きいお肉はフェンちゃん用にしているが、やはり足りないようだ。さすがにこれ以上になると食費がすごい事になってしまうので、我慢してもらうしかない。
「ごめんね、もうないの。スープのおかわりなら沢山あるんだけど」
ガーーンっと聞こえてきそうな表情でフェンちゃんもモフモフも分かりやすく落ち込んでる。
「そんなに食べたいなら自分たちで調達してきたらいいんじゃないかしら? フェンリルは狩が得意と聞いていたけれど……」
クレルの言葉にハッとしたフェンちゃんが『なぜそれに気付かなかったんじゃ!』と悔しがっていた。
『今からこやつを連れて狩に行ってくる。ついでに狩の仕方も教えてくるでの帰りは少し遅くなるぞい。ほれ、しっかりついてくるんじゃぞ!』
「きゅー! きゅー!」
嬉しそうに返事をしながらモフモフはフェンちゃんの後を追いかけて行った。
その夜、巨大なイノシシを担いだフェンちゃんと自分より大きな鳥を咥えて帰ってきたモフモフを見てクレルが冷静に「これで食費の心配はないわね」と言っていた。クレルがだんだんと人間の世界に馴染んでいるようだ。立派な主婦だよ。
さっそく食べたいから料理してほしいとフェンちゃんに頼まれた。ウキウキしているフェンちゃんには悪いが、このサイズの解体をするには今あるナイフじゃ心もとないし、料理するにも外じゃないと場所がないので明るい時じゃないと無理だと断った。
『なんじゃと……』
震えるフェンちゃんに明日作るからと約束して血抜きだけ済ませた。まだ夜も暑いので肉が痛まないか心配していたら、フェンちゃんがイノシシと鳥の周りに氷を出してくれた。
おぉー! これでお肉も安心だ。
これから毎日、モフモフの狩の練習も兼ねてお肉の調達に行くようだ。
『明日が楽しみじゃわい。さて今日はもう寝るかの』
気持ちを持ち直したフェンちゃんとモフモフは、体を綺麗にしてから家に入ってくるようにとクレルから本日2度目の注意をうけていた。
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