第42話 リゼの秘密
「行っちゃったわね、私もそろそろ戻るわ」
「待ってくれ、聞きたいことがある」
部屋に戻ろうとするクレルをクラウスが引き止めた。
「リゼの事だ。父上と話したのだろう? 先生は子を望めない体だった。リゼと先生に血縁関係がない事を彼女は知っているのか?」
アルヴィンはクラウスに聞いていたのか驚く事はなく静かにクレルの返事を待っている。
「知らないと思うわ」
「そうか」
「……リゼを見ていたら、大切に育てられていたのがわかるわ。今はそれでいいんじゃないかしら?」
それだけ言うとクレルは部屋を出て行った。
「今は……か」
「コラード様の血筋ならとリゼさんの能力と魔力量も無理やり納得してましたが、血縁関係がないとなればリゼさんは貴族の隠し子という可能性は十分にありますね」
「それも上級貴族のな。亡くなったと聞いていたが、こうなると事実かわからないな。リゼの両親について調べてみるか」
訳ありの貴族の子どもがひっそりと市井で生きていることはよくある話だ。
「そうですね、イーサンに調査させます」
出生にどんな理由があるか分からないが、万が一フェリクスの貴族の隠し子となると、それを知った貴族がどんな圧力をかけてくるかわからない。自称親戚など山ほど現れ、権力争いには間違いなく巻き込まれるだろう。
貴族だから守られる事と、貴族だから受け入れなければいけない事がある。
知っていれば、いくらでも対策は立てられる。
"知らなかった"でリゼさんを危険に晒す訳にはいかない。
まずは住んでいた村から調査させるか。
「どうしましたか?」
返事のないクラウスを見てイーサンに不都合があったか考えるが、特に問題は思いつかない。
「いや、お前もそんな顔をするんだなと思ってな」
「どんな顔ですか」
「聖獣の魔力にリゼの魔力が混ざってるのも直ぐに気づいたしな」
「魔力感知は得意と知っているでしょう」
一応の道筋が立った途端これだ。無駄に整った顔がどんどん崩れてますよ。全く子どもじゃあるまいし、何がそんなに面白いのか。
「社交辞令でなく女性に微笑む姿を初めてみたよ。どんな美人が来てもなびかなかったのに、な……ぁ」
――――ビシッ!!!
クラウスの首元にアルヴィンが作り出した氷の刃が当たっていた。
「私がなんですか?」
「っうわ! あっぶな!!」
「魔力感知以外に、魔力操作も得意でして」
「悪かった! そんな笑ってない笑顔はやめてくれ。あと魔力も解除してくれ」
失礼な。少しからかっただけだろうとブツブツ言っているクラウス様に、明日は私も「一緒に森に行きますからね」と伝えて王宮に戻った。
リゼさんは平民の育ちで、クラウス様はあの調子だ。貴族特有の甘ったるいセリフは私が初めてだったのだろう。
普段ならあんな事は言わないが、免疫のないあの年頃の女性ならと警戒心を解いてもらうために言ったが。
「何があっても必ず守ります、か」
付き合った女性もそれなりにいた。だが仕事や研究に集中すると、泣くかチクチクと嫌味ばかりで長く続いた事はなかった。女性など煩わしくなっていたんだがな。
嫌われてはいないと思っていたが。今日のような分かりやすい反応をされると素直に可愛いと思ってしまった。緑の魔力のせいか、リゼさんには温かな癒しの力がある。魔力に敏感なために人よりも多く、それを感じて彼女に癒しを求めているのか……俺らしくもないな。
執務室に戻って机を見ると大量の書類が残っていた。……この忙しさのせいだな。ため息をつきながらシャツのボタンを外し、まだ形にもならない感情に蓋をする。
「残業確定だな」
書類の半分をクラウス様の机に置いて仕事の続きを始めた。
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