第41話 モフモフは猫?

 お風呂と夕飯を終わらせて部屋に戻ると、モフモフも目を覚ましていた。


「モフモフただいま〜」


 ベッドで毛づくろいをしていたモフモフを撫でると、気持ち良さそうに目を細めた。


「モフモフって本当に猫みたいだよね」


「不思議なのよね。感じる魔力は間違いなく聖獣なのに、私にも猫にしか見えないわ」


「魔力でわかるの?」


「聖獣って纏っている魔力が聖属性なのよね。うーん、何か気になるんだけど違和感の理由が分からないわ。まだまだ勉強不足ね。私も森に帰ったら調べてみるわ」


 大雑把にいうと、獣の聖属性持ちが聖獣と呼ばれるようだ。聖獣は魔力量が多く、また一属性特化型のため使う魔法も強力らしい。

 普段は温厚な性格で魔物が嫌い。また魔力量の多い聖属性のため聖獣が長くいる土地は浄化され魔物が近づきにくくなる。人間が聖獣を好み神の使いとする所以はそのあたりなのだろう。

 2人でモフモフについて話していたら、部屋の扉がノックされた。


「遅くにすまない、今大丈夫か?」


 どうやらクラウスさんが、帰って来たようだ。


「はい、どうぞ」


「あら、大丈夫なの?」


 えっ? クレルに意味を聞くより早く扉が開いてクラウスさんとアルヴィンさんが見えた。あ、アルヴィンさんも一緒だったんだ。


 2人と目が合うとすぐに逸らされた。クラウスさんは呆れながら、アルヴィンさんは眼鏡を上げなら咳払いをしている。アルヴィンさんの頬が少し赤い気がするのは気のせいかな?


 よく分からずクレルの方を見ると、肩をすくめながら「淑女のマナーも勉強に加えるわね」と言って一度扉を閉めるようクラウスさんにお願いしていた。


「準備が出来たら、客間へ来てくれ」


 扉越しにクラウスさんの声と遠ざかっていく足音が聞こえた。


「なんだったの?」


「パジャマ姿だもの、女性がそんな姿で部屋に招いたら誘ってると思われるわよ。リゼは未婚なんだからもっと気を付けないとダメよ?」


 あわわわわわ、クレルから誘ってるなんて言葉が出るなんて……!

 ん? 誘ってる? 私がクラウスさんとアルヴィンさんを??


 いやだーーーーー!! 恥ずかしすぎる!!!


「ムリ……、もうどんな顔してあったらいいかわからない」


 主にアルヴィンさんと……。大体、パジャマ姿と言ってもクラウスさんが日中着るようにと用意してくれた服とデザインは大して変わらない。

 少しひらひらのレースが多いくらいで、平民の私から見たら違いなんてわからない。


 どちらも、ふんわりとした可愛いドレスだ。

 うなだれている私の肩に、そっと薄手の羽織ものを掛けてクレルは優しく気遣ってくれる。


「さ、行くわよ。このガウンなら大丈夫でしょう」


 えっ、慰めてくれてたんじゃないの?


 クラウスさん達が待つ部屋につくと、緊張する間もなくクレルがノックをして扉を開けた。


「先程は失礼しました」


 2人の記憶から消して私も忘れたい……。


「いえ、私たちも夜に女性の部屋を訪ねるなど不躾でした。すみません」


「すまない、君だから大丈夫だと思ったが君だから大丈夫じゃなかった。メアリアに部屋を用意してもらうべきだった」


 クラウスさんは、謝ってるのか何なのかわからないけれど、さっきの事は忘れようという考えは一致したはずだ。顔を上げて2人の方を見ると、アルヴィンさんに再び視線を外された。

 うっ、呆れられてる。アルヴィンさん立ち振る舞いとか綺麗だし、マナーとかすごくしっかりしてそうだもんね………。


 クラウスさんはその様子を見て「へー」とか「ほー」とか言っているが、アルヴィンさんのひと睨みで大人しくなった。


 とりあえず座りましょうとクレルに促されて席につく。テーブルには、お茶が用意されていた。

 隣のイスにモフモフそっと寝かせて、優しく撫でるとゴロゴロと気持ちよさそうにしている。モフモフは、耳の付け根からあごの下を撫でられるのが好きなようだ。

 部屋に置いて行こうとしたら、悲しそうな目で見つめられたので秒で抱き上げ連れてきた。


「これが聖獣ですか……、なんといいますか猫ですね」


「だから言っただろう。何度説明しても上司を信じないなんて問題だぞ」


 どうやら、王宮に戻ったクラウスさんはアルヴィンさんに聖獣の話をしたらしい。

 アルヴィンさんも聖獣の出現に驚いて、色々質問するも「猫のようだった」という答えしか返ってこないので、アルヴィンさんが「では、それは猫だったのでしょう」と言って仕事に戻ろうとするので、モフモフと会わせる為に連れてきたらしい。


 ……子どもみたいだ。



「間違いなく聖獣のようですが、僅かにリゼさんの魔力が混じっていませんか?」


 私の魔力?? 


「そうだわ! 一属性のはずなのに、聖属性に緑の魔力が混ざってるのよ」


「言われてみれば確かに。よく気づいたな」


「魔力感知は得意ですので」


 クレルは、違和感の正体が分かったわ! と言いながらもモフモフに緑の魔力が混ざってるのが分からなかったのを悔しがっていた。


「聖獣がいた木にリゼの魔力を注いだから混ざったのかしら? だけどそんな事あるのかしら……」


「気になるところだが、そろそろ休むとしよう。答え合わせはクレルの母上も交えてだな」


「そうね、そうするわ」


「あぁ、おやすみ」


 自然と挨拶を交わすクレルとクラウスさんのやり取りを羨ましく思いながら、こっそりアルヴィンさんを見るとバッチリと目が合ってしまった。


 ――――き、気まずい! だけどここは言わなきゃ。



「あ、の、おやすみなさい」


「えぇ、おやすみなさい。良い夢を」


 少し戸惑っていたアルヴィンさんの切れ長な一重の目が細まって口元がフッと緩んだ。

 あ、アルヴィンさんの笑った顔……。

 急に熱が顔に集まって心臓がドクドクと音を立てていく。


 うわぁ! 心臓が!!


 モフモフを抱き上げると、クレルに先に戻ると告げて足早に部屋に戻った。


 ベッドにモフモフを置いて、そのまま倒れこむように布団に顔を埋めた。


「笑った顔見ただけなのに……」


 ポツリと呟いた言葉に、モフモフが「キュ、キュ?」と体を寄せてきた。モフモフの温かい体温にいつのまにか眠っていた。

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