第30話 騎士団との話し合い
騎士団の詰所は王城の一角にある。
魔獣が王都に現れたとあって、騎士が慌ただしく動きまわっていた。
騎士団には、第1・第2・第3騎士団があり王城、王都、王都周辺の警備に分けられている。また、王族の警護には聖騎士団と呼ばれる精鋭部隊が存在する。
聖騎士団は独立した機関なので、今回のような場合でも情報の共有はあるが話し合いには参加しない。しかし、実際は選民意識のある聖騎士団が騎士団を下に見ているためである。
今回は、第2騎士団の管轄下での出来事だったが王都への魔獣襲撃と国の一大事のため、騎士団長の所属する第1騎士団の団長室での話し合いとなった。
「また聖騎士団は話し合いに参加しないのか?」
「何度言っても無駄だな。騎士団おれたちとは協力し合う気がないんだろう」
詰所近くで話している騎士達を横目に、クラウスとアルヴィンは足早に進んでいく。
「聖騎士団は相変わらずのようだな。それから回収後のワイバーンの調査だが魔術部うちからも人を出す。突然現れたとなると、ワイバーンに外部からの魔力干渉の痕があるはずだ」
「そうですね。イルゼに頼みましょう」
ドアの入り口には、職人街で会った第2騎士団のルノーが立っていた。律儀に待っていてくれたのだろうか。
「クラウス様、アルヴィン様お待ちしてました! ベネット団長は中でお待ちです」
中に入ると金髪の髪を刈り上げた筋骨隆々な男と数人の騎士が机を囲んで話していた。
「すまない、待たせたな」
「おう! 悪いな来てもらって。それに助かった、ワイバーンが襲ってきて犠牲どころかケガ人も出なかった。感謝する」
「うちの部下は優秀だからな。アルヴィン頼む」
クラウスの言葉に皆の視線はアルヴィンへと移る。
「はい。まずワイバーンですが、誰かが操っていた可能性が高いです。護衛任務で技術街に行っていたのですが、気配にも気を配ってましたし魔力感知の魔術も使っていましたが、直前まで何の反応もなくワイバーンが出現しました」
「魔術は専門外だが、契約魔獣というやつか? 魔力感知だが距離はどれくらいだ、気付かなかったという事はないのか?」
「いいえ、契約魔獣は希少性も高く一生に1度しか結べません。信頼関係も必要とされるので、わざわざ使い捨てに使う事はないでしょう。考えられるのは、魔獣の意識を操る従属魔法ですね。ただ、今は禁術となってますが。魔力感知の範囲は5㎞圏内です」
「5㎞とはすごいな。しかし禁術だとしてだ、そこまでする目的なんだ。護衛任務と言ったが何か関係あるのか?」
クラウスに視線を向けられたベネットは、部屋にいる3人の騎士を見ると再びクラウスに視線を移した。
「ここに居るのは俺の腹心だ。信用してくれ」
ベネットとはクラウスが宮廷魔術師として働き始めた頃からの知り合いだ。所属は違うが、何度も共同任務をこなし戦友として信頼はできる。
(だが、ベネット以外に知られる訳にはいかないな。クレルの事を話すのはベネットと2人になってからだが……それ以外の話は騎士団との共有案件だな)
謁見の間で上級貴族に説明した内容は、若い娘リゼが魔力を持っている事、そして精霊の加護をもらった事だ。クレルという存在がリゼと共にいる事は陛下と極一部の上級貴族しか知らない。
「噂は聞いていると思うが」と、再び同じ説明をした所で、絶命したワイバーンが王城に運ばれて来たと連絡があった。
「アルヴィン、イルゼにワイバーンを見に行くように指示を頼む」
「はい、では1度魔術部に戻ります」
アルヴィンが部屋から退出すると、ベネットは部屋にいた騎士に現場に戻り今聞いた情報の各部隊での共有と王都の安全対策に取りかかるよう指示した。
「さて、これで2人きりだ。全部話してもらおうか」
「お前に2人きりだと言われると何だか怖いな。言っておくが俺はノーマルだぞ」
「それで実際のところはどうなんだ? 目星はついているのか?」
話に続きがあると気付くあたり流石だと思いながらつい軽口を叩くが、鋭い視線以外はベネットもいつものようには冗談にのってこないようだ。
クラウスもそれ以上は言わず、ふざけ過ぎたと肩をすくめながらクレルについて話す。
「さっきの話は全部本当だ。ただ、精霊は加護を与えただけでなくその娘リゼと一緒にいる。あの様子では、契約を結ぶのは時間の問題だな。怪しい人物は何人かいるが、証拠はない」
「加護を受けた人間だけでも欲しがる貴族は山ほどいるだろうが……。精霊も共にいて契約まで結ぶとなると、私利私欲にまみれた連中は喉から手が出るくらいにほしいだろうな」
「あぁ、彼女の保護は急いだが強欲な貴族連中には嗅覚に優れた者たちが多い。欲にまみれた人間には力で分からせるほかないな」
「クラウスおまえが言うと冗談に聞こえんぞ」
クラウスはニッと爽やかな笑みとはうらはらに答えた。
「当たり前だ。精霊に愛された者を傷付けるようなやつらは二度と立ち上がれないようにしてやる」
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