第29話 襲撃
ジェフさん家族に久しぶりに会えて本当に嬉しかった。馬車は職人街の入り口に停めてあるので、同じ道を歩いて戻っていく。
周りは来た時よりも人通りも多くなり露店にもお客さんがチラホラといた。
「アルヴィンさん、今日はありがとうございました」
「いいえ、いいご家族ですね」
アルヴィンさんにジェフさんたちを褒められて嬉しい。自然と笑顔になった。
「そういえば、ジェフさんと何を話してたんですか?」
ジェフさんが自分から話かけていく姿がなんとなく珍しく気になっていたのだ。アルヴィンさんは一瞬考えるとにっこり笑って爆弾を落とした。
「リゼさんを泣かせたらタダじゃすまさないと言われましたね」
ぶはっ! ジェフさん、あなたもですか!!!
「すみません、護衛で来てもらってるのに」
アルヴィンさんに謝りながら職人街を抜けて馬車の近くまで来た時、急に周りがざわめき始めた。
「なぁ、あれ鳥にしては大きくないか?」
誰が言ったかわからない声に聞こえていた人たちは空を見上げる。
その瞬間、アルヴィンさんに腕を掴まれた。
アルヴィンさんはコートの内側から何かを取り出すと、それを四方に投げ詠唱を始めた。投げられた白い石のようなモノは光はじめ10mくらいの半透明な半円の魔方陣が出来た。
私に魔法陣ここから出ないようにと言うと、アルヴィンさんは周りの人達に円の中に入るように指示をしてる。
その間にも、空を飛んでいた生き物はどんどんと近づいてくる。
「ワ、ワイバーンだ!!!」
叫び声が響いてパニックになる人達に、円の中に入るよう私も精一杯叫ぶけれど、初めて見た魔物のへの恐怖心から口の中が乾燥して言葉がうまく出ない。
ワイバーンの周りに魔力が集まっていくのがわかる。
こわい! こわい! こわい!
体が震えて動かない。
ワイバーンが口から炎を吐きだす瞬間、アルヴィンさんの手元が光ったかと思うと、何もない空間から引き出されるように青白く光る槍が現れた。
魔力を纏わせたそれを掴むと、アルヴィンさんは迷いなくワイバーンに向かって投げた。
――――ギャウウウウゥゥゥン
ワイバーンに集まっていた魔力は飛散し、眉間に槍が刺さった体はバランスを崩して落下した。
ドォォーーンと音を立てて地面に落ちたワイバーンはピクリとも動かない。アルヴィンさんが投げた槍も魔方陣もサラサラと消えていった。
「もう大丈夫ですよ」
アルヴィンさんの言葉に緊張して固まっていた体が少しずつほぐれていく。その瞬間、周りから歓声が上がった。あたりを見渡すが誰もケガはしてないようだ、良かった。息を吐きながら、ふと遠くを見ると数人の走ってくる人影がみえた。
「大丈夫ですか!? 警備隊から魔物が現れたとの連絡がありましたが」
アルヴィンさんは私に彼らは「王都の騎士団」だと教えてくれた。
「あそこの兄ちゃんが倒してくれたんだよ!」
騎士に説明しているおじさんがアルヴィンさんを指差した。その言葉を聞いて一斉に騎士団の視線がアルヴィンさんに集まった。
「ワイバーンの傷は眉間の一ヶ所だな。一撃で倒したのか……」
「そもそもこの大きさのワイバーンが王都を襲ってくるなんて、どうなっているんだ」
倒れているワイバーンを囲んでいる騎士の人達の話が聞こえてくる。騎士の1人がこちらに来ると、アルヴィンさんに詳しい話を聞きたいので王城まで来て欲しいと頼む。
「わかりました、連れがいますので後ほどうかがいます」
私も一緒に行きます、と言おうとしたらアルヴィンさんに視線で止められた。1度戻ると言ったアルヴィンさんに、騎士は何か言いたそうだったが言葉を飲み込み名前を名乗った。
「ご協力感謝します。私は第2騎士団団長のルノー=コーレストと言います。緊急事態のため直ぐにご同行願いたいのですが」
「宮廷魔術師副長のアルヴィン=クリスティアーノです。すぐ行きますので、騎士団長にも報告をお願いします」
ルノーさんは、アルヴィンさんの名前を聞くと驚いて姿勢を正した。
「失礼しました! 魔獣の処理も騎士団こちらにお任せ下さい。解体後の素材等については書類を提出しますので」
アルヴィンさんは「よろしく頼みます」と答えると、近くにいた御者にも屋敷に帰るよう伝えた。
「リゼさん、申し訳ないですが今からクラウス様の屋敷に戻ります」
そう言うとアルヴィンさんは私の手をとり転移魔法を使った。
お屋敷に着くとすぐにクラウスさんの部屋へと向かった。
クレルと出かけてるはずだけど、もう帰ってきてるだろうか。
アルヴィンさんが、扉をノックするとクラウスさんとクレルは部屋にいた。
クラウスさんはすでに知っていたようで、アルヴィンさんを見るとすぐに話を始めた。
「技術街にワイバーンが現れたのは本当か?」
「はい、ワイバーンの成体です。ただおかしな点が一つ。私の魔力感知にかからず急に現れました。誰かが操って技術街あそこにワイバーンを放った可能性があります」
「被害は?」
「人的、物損的にも被害はありません。今は騎士団がワイバーンの処理や住民への対応をしています。私は今から王城へ向かって騎士団長と話をしてきます」
話を聞くとクラウスさんはチラリとクレルを見た。
「私がリゼの側にいるから問題ないわよ」
「助かる、では私も王城へ向かう。十分に気をつけてくれ」
私が頷くと、クラウスさんとアルヴィンさんはすぐに転移魔法で王城に向かった。
「リゼ、大丈夫?」
心配したクレルがそっと手を繋いでくれた。
「うん、みんなの顔を見たら落ちついてきた。大丈夫」
それよりも気になるのは、アルヴィンさんの先ほどの話だ。
「魔獣を操るって出来るの?」
「出来るわね。ただ禁術だったと思うわ」
わざわざ禁止されている術を使ってまでワイバーンを操り王都を狙った理由って……。
「私が狙われてたのかな」
クレルは「そうね」と呟き話を続けた。
「今回、二手に分かれて行動したのは謁見の間で感じた嫌な魔力が、私かリゼのどちらかに向けられたものか調べる為でもあったの。私の存在は一部の信用出来る人達にしか話してないと聞いていたけど、気付く人間がいてもおかしくはなかったから」
え、なんで……クレルは最初から知ってたの?
ジェフさんたちに会わせてくれたのは、クラウスさんの優しさじゃなかったんだ。
「そうなんだ……」
「言っておくけれど、私も最初から聞いてたわけじゃないわよ。急にクラウスが、私と出かけようなんておかしいじゃない。不自然だったから問い詰めたのよ」
全く不自然ではない。あれはクラウスさんの本心だろう。
「それに、リゼを家族に会わせてあげたかったのも嘘ではなさそうだし。何事もなく過ごさせたかったから、アルヴィンを付けたんでしょうね。でなければ、私が反対してたわ」
そうだった。忙しいのにアルヴィンさんは護衛に付いてくれたし、クラウスさんだって楽しんでくるようにって送り出してくれた。
「でも、どうしてあんな人通りもある白昼に」
「混乱に紛れて攫さらうつもりだったのかもね。まさか相手も、攫う時間もなくワイバーンが倒されるなんて思ってなかったんじゃないかしら?」
魔物まで使うなんで。
自分が誰かに狙われる立場になるなんて思ってもみなかった。
「ねぇ、リゼ。私と契約しましょう」
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