第28話 久しぶりの再会
露店を眺めながら歩いて行くと、職人街の居住地区に入っていった。
この辺だと思うんだけどなぁ。
マリーさん夫婦の家は黄色屋根だと手紙に書いてあったので、周りを見渡しながら進んでいく。
「あ、アルヴィンさんあの家です」
メモした紙を見ながら住所をもう一度確認する。白い外壁にレモン色の屋根で玄関には、プランターに小さな花が咲いている。
可愛い家だなぁ〜。
手紙のやり取りはしているけれど、ジェフさんたちが王都に引っ越してから1度も会っていないので、1年ぶりの再会になる。
昨日、メアリアさんに私が今日訪問すると伝えてもらったので不在ということはないだろう。もう少し早く行けると分かっていたら、手紙に書けたんだけど。
コンコンコン
玄関のドアをノックをする手が少しだけ震える。会いに来て喜んでくれるかな?
アルヴィンさんは一歩後ろに下がって静かに見守ってくれている。
「はーーい」
懐かしいライラさんの声が聞こえてきた。玄関のドアが開くと、一年前と同じ笑顔で抱きしめてくれた。
「おやまぁ、きれいになって! 急に貴族さまから連絡が来たから驚いたけど、リゼの野菜を気に入ってくれたんだってね! すごいじゃないか、頑張っているんだね」
変わらないライラさんにホッとして、護衛で来てくれているアルヴィンさんを紹介した。
「はじめまして、本日は急な訪問で申し訳ありません」
挨拶するアルヴィンさんを見るライラさんの目がギランっと光った気がするが、アルヴィンさんはにこやかにその視線をかわしている。
森の野菜を気に入ってくれた気さくな貴族クラウスさんが招待してくれて、王都に来た事になっている。アルヴィンさんはクラウスさんの屋敷で働く使用人だが王都に詳しくない私に同行している設定だ。
国からの保護の話は、ジェフさんたちにはまだ秘密なのだ。クラウスさん曰く知らない方が安全な事もあるそうだ。
「おい! そんな所で話してないで、リゼが来たのなら中に入ってもらえ」
ジェフさんが家の中から赤ちゃんを抱いて出てきた。
あ、もしかしてマリーさんの赤ちゃんかな?
「ジェフさんお久しぶりです。急に来てすいません」
「なんだ、他人行儀な話し方しやがって。なぁ〜アミュちゃん」
ジェフさん完全に孫の虜になってるじゃないか。アミュちゃんとはマリーさんの赤ちゃんの名前だ。2人に促され私とアルヴィンさんが家の中に入ると、中ではマリーさんがお茶菓子の用意をしていた。
「こんにちは、マリーさん。出産おめでとうございます」
マリーさんは私の声に気付いて振り向くと、準備する手を止めた。
「リゼさん! アミュに贈り物ありがとう、大事に使ってるわ。ジャムも凄く美味しかった!」
そう言いながら近付くと小さな声で「きれいになったわね! もしかして一緒に来た男の人はリゼさんの彼氏なの?」とウィンクをしながら聞いてきたので慌ててマリーさんの口を押さえる。
やめてーー!!
アルヴィンさんには聞こえてないか、そっと振り向いたがジェフさんと話していたので大丈夫だろう。
……よかった。
「やだもー、そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに。可愛いんだから!」
まだ勘違いしているマリーさんにアルヴィンさんは、クラウスさんの家の使用人だと伝え、お土産のジャムと化粧水ポーションを渡した。
ジェフさんはジャムに喜んで、ライラさんとマリーさんは、化粧水に興味深々だった。
その後は、久しぶりのライラさんの手料理を食べながらお互いの近況を話し合った。
マリーさんの家はアミュちゃんが生活の中心で、最初は小さくて抱くのが怖いと言っていたジェフさんが今は1番メロメロのようだ。
「抱っこしたら離さないんだから」とマリーさんが笑っていた。
ジェフさんに森の家に温泉が出たからお風呂を作って良いか聞くと、温泉がよく分からんが森の家は好きにしていいと言ってくれたのでお風呂が出来たら遊びにきてねと話した。
「リゼさん」
アルヴィンさんの声で時間を見ると、2時をまわっていた。アルヴィンさんの方を見て頷いてから、ジェフさんたちに帰る事を告げる。
「そろそろ帰りますね。久しぶりに会えて嬉しかったです」
「泊まっていきなよ」とライラさんが言ってくれたが、クレルも待っているし今は1人で泊まるわけにはいかないので丁寧に断った。
正直危ないという実感はないが、王都にいる間はくれぐれも気をつけるようにと言われている。
「また遊びに来てね!」と言うみんなに別れを告げて家をでた。
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