第27話 アルヴィンさんとお出かけ

 階段を降りて玄関に着くと、クラウスさんとアルヴィンさんは話をやめてこちらを向いた。


「おはようございます。リゼさん、クレルさん」


 今日のアルヴィンさんは、白いシャツに黒い膝までのコートと黒のズボンだ。


「ねぇ、暑くないの?」


 クレルがアルヴィンさんに聞くと、にっこりと笑って眼鏡を上にあげた。


「温度調節の魔術を服にかけているので夏でも快適ですよ。色々と魔武器も仕込めますし。今日はリゼさんの護衛も兼ねてますから」


「へー、器用なのね」


「そうですね、色々と作るのは嫌いではないです」


 クレルが「くろ……アルヴィンはねちっこい性格かもしれないわよ。あの服にかけてある魔術、すっごい細かいわ」と私の耳元でこっそり言ったがどうやら聞こえていたらしく、クラウスさんが吹き出していた。


 アルヴィンさんの笑みに深みが増したので、これ以上クレルが失礼な事を言う前に出かけよう。

 クレルの前に出てアルヴィンさんに挨拶をした。


「アルヴィンさん、今日はよろしくお願いします」


 アルヴィンさんの目が一瞬わずかに開いたが、返事はない。


 ……なぜ無言?


 もしかして、張り切り過ぎと思われた?

 嫌な汗が流れ出そうだ。


「すいません、いつもと雰囲気が違うので驚きました。とても似合ってますよ」


 か、体がフワフワする。嬉しい!

 アルヴィンさんに褒めてもらえたー!


 良かったー! ミヤさんありがとう! 

 ミヤさんに心の中でお礼を言っているとクラウスさんが「普段がダメみたいだな」と言ったので、一気に天国から地獄の気分になった。

 そうだよね、そんな意味だよね。


 クレルはクラウスさんをブリザードが吹き荒れそうな視線で射抜き、アルヴィンさんはため息を吐きながら「あなたは何でそういう事を」と呆れていた。



 クレルの視線に気づいたクラウスさんは「違うぞ! 俺はそんなこと思ってないからな!」と必死に私に言い訳をしているが知るもんか。

 今日1日クレルの冷たい視線を浴びながら公園に行くがいい。


「クラウス様、一人称が俺になってますよ」と言うアルヴィンさんにクラウスさんが、誤解を解いてくれと必死で言っているが「私にはクラウス様の発言の意味を推し量れませんので申し訳ありません」と完全に突き放している。


「ふっふふ」


 あまりに必死なクラウスさんにおかしくなって笑ってしまった。


「クラウスさん、もう気にしてないので大丈夫です。クレルも許してあげてね」


 私の言葉にクレルは、リゼがそう言うならとブリザードの視線は収まった。クラウスさんは心底安心した顔をして、私の手をとると「感謝する」と言いながら手の甲に口付けをしようとしている。


「えっ、ちょっとクラウスさん!?」


 貴族ってこれが普通なの? 

 手を自分の方へ戻そうとするけれどビクともしない。うわっ、やめてーー! 

 そんな感謝は無くて大丈夫ですーー。


 唇が当たりそうになった瞬間、グッと反対の手を後ろに引っ張られた。クラウスさんが驚いた顔で私の後ろを見ている。


「クラウス様、そろそろ出発しますので後はよろしくお願いします」


 アルヴィンさんは馬車を待たせてますので行きましょうと、何も無かったかのように自然とエスコートしてくれた。


 アルヴィンさんの手の温もりがまだ残っていて顔が熱い。


 馬車に乗ると、クラウスさんの横でクレルが手を振っているのが見える。

 ニヤニヤしているクラウスさんはほっといて、クレルも一緒に来てほしい。


「リゼさん大丈夫ですか? クラウス様が申し訳ありません。クレルさんの怒りを鎮めてくれたリゼさんへの感謝のしるしだったのですが」


 はい、十分にわかってます。クラウスさんにもアルヴィンさんにも意味も悪気もない事は。わざわざ護衛に来てもらっているのに、1人で意識して恥ずかしい。


「だ、大丈夫です。少し驚いただけですから」


 心配してくれるアルヴィンさんへの返事は、ぎこちなくなってしまった。


 おちつけーおちつけー。


 魔力を練る時みたいに心を澄まして邪心を捨てるのだ……。

 動き出した馬車の中で 、日々の練習の成果が発揮されどうにか落ちついてきた。毎日やってて良かった〜! 


 私が精神統一している間にも馬車は事前に伝えていたジェフさんの住む家へと向かっていた。

 王都はレンガを基調とした街並みで、普通の居住地区の他に技術者が集まっている職人街と貴族が住んでいる貴族街に分かれている。マリーさんの旦那さんは、時計職人なので職人街に住んでいるそうだ。


「もうそろそろ着きそうですね。ここから先は馬車では行けないので歩いて行きましょう」




 職人街は、工房やお店のほかに露店もたくさんあった。修行中の若者が親方の許可があれば露店を出して販売する事が出来るのだとアルヴィンさんが教えてくれた。

 アルヴィンさんは職人街に詳しく、人気の工房やお店の話を聞きながら歩いていたら緊張や気まずさはいつのまにか無くなっていた。


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