第26話 はじめてのお化粧
クラウスさんの屋敷のベッドは、クレルと2人で寝ても広くてふかふかだった。
「おはよう、クレル」
クレルに声をかけるが、まだ眠いのかあくびをしている。
「おはよう、すごく寝心地の良いベッドだったわ」
誰も聞いてないよね!?
私は急いで周りを見渡した。クレルがベッドを褒めたなんてクラウスさんの耳に入ったらベッドを森の家に持ってきそうだ。
大きなベッドに、部屋どころか家を占領されてしまう。
あ、でもクレルがこのサイズで生活するならベッドはあと1つ必要だよね。帰ったら街で探してみようかな。王都は高そうだし。
「クレルも大きくなったし、
「ベッドは必要ないわ。寝る時は今まで通り小さくなるから。その方が無駄な買い物しなくてすむでしょ? あ、だけど食事はリゼと一緒がいいわね。同じ目線で食べる方が楽しいから」
ん?
「大きさって自由に変えれるの?」
「魔力が潤ってるから今は出来るわ」
うーん、魔力って不思議だ。
分からない事は不思議で片付けてしまおう。
今はニューバージョンのクレルとの生活が大事だ。
必要なのは街で見ながら探したら良いかな。
うっふっふ、クレルとお買い物楽しみだなー!
ベッドでクレルとくつろいでいると、メアリアさんが朝食の準備が出来ていると知らせに来てくれた。食事を摂るために部屋を移動したが、そこにクラウスさんの姿は見えない。
「クラウスさんは食べないのですか?」
「いつもはお召し上がりになるのですが、昨夜は遅くまで起きていらしたようで、先ほど仮眠を取るからリゼさまとクレルさまには気にせず食事して頂くように言付かっております」
間違いなく魔道具作りに徹夜したのだろう。メアリアさんに誘導され席につくと、テーブルには白いパンとスープに一口サイズのお肉とサラダが用意されていた。
「朝から豪勢だわ」
小さく呟くクレルの言葉に納得しながらパンを手にとる。こんな真っ白なパンを初めて見た、ふわっとしていて柔らかい。小さくちぎって食べてみると、焼きたてという事もあって口の中に入れると、パンは消えていった。
美味しー!
そして焼き立てのパンの香りが食欲を刺激する。
パンだけ食べていたい気になるが、テーブルにはまだまだ料理が並んでいる。
今日のお肉のソースは昨日と色が違う、味が違うのかな?
少しスプーンに乗せて食べてみると、口に入った瞬間ほんのりフルーツの香りが抜けていって甘い。
「料理長が、リゼさんはこちらの方が好みではないかと用意したものです」
ライスさん! 美味しいです!!
メアリアさんの説明を聞いて、食べ始めたクレルもこのソースが気に入ったようだ。とりあえず昨日クラウスさんに意地悪された話はクレルにした。
「ごちそうさまでした」
やはりライスさんのご飯は美味しい。
パンだけでいいと思っていたが、お肉も完食してしまった。
貴族の人はみんな朝からお肉食べるのかな?
美味しかったが毎日だとちょっとキツい。
「クラウス様がリゼさんの朝食を増やすようにとおっしゃってましたのですが、多すぎではないかと心配しておりました。美味しいそうに食べていらして安心いたしました」
……クラウスさんの私のイメージって一体どんななの?
「では外出の支度を致しましょう。お部屋にいくつかお洋服も用意しております。お気に召すのがありましたらご自由にお使いください」
部屋に戻ってクローゼットを開けると沢山のワンピースが用意してあった。
「わぁ〜! 可愛い」
どれも肌さわりの良い上品なものだ。クレルは、襟にフリルが付いた白いワンピースを選んでいた。クレルが可愛すぎて萌える……。
クレルは、服を決めると着替えて鏡の前で全身チェックをしている。
私はどれにしようかなぁ、全部可愛い……。
可愛すぎて似合うか正直微妙だ。鏡に映る自分を見ると、日焼けした肌に旅で痩せた体というアンバランスさだ。
ちゃんと食べてるんだけどな……。1日1食の生活が数ヶ月続いたせいで、1年経った今でも胃が小さいままなのかな。
あ、だからクラウスさんは私の朝食を少し多めにって言ったのかな?
「リゼ〜、決まった?」
「えっ、あ、まだ。沢山あるから悩んじゃって」
わからない事は考えてもしょうがないか、それより服を決めなきゃ。
あ、可愛い。服を選ぶ手を止めて1枚の服を取り出した。薄緑のスカートに白いシャツを組み合わせた服だ。シャツには、レースの襟が付いていてスカートの裾にも白い糸で葉っぱを模様した刺繍がしてある。
「リゼに似合いそうだわ」
「これにしようかな、着替えてみるね」
初めて着る様な可愛い服にソワソワしながら、クレルに見てもらう。
「どうかな? 変じゃない?」
「素敵よ! すごく似合ってるわ」
少し照れながら鏡を見ていると、ドアをノックする音が聞こえてきた。
「失礼します」とメアリアさんと若い女の人が入って来た。
「お二人ともお似合いですね。こちらは侍女のミヤです。手先が器用ですので、手伝いに連れてきました」
「リゼさん、クレルさんよろしくお願いします。では早速準備しましょう。リゼさんからこちらにお座りください」
促されるままイスに座ると、ミヤさんが色々な道具をテーブルの上に置いて「リゼさんにはこの色が……」などとブツブツ言っている。
どうやらお化粧や髪のセットをしてくれるようだ。初めてみる道具が次々と並んでいく。
メアリアさんは、ミヤさんの紹介をすると仕事に戻っていった。
何だかすごく良くしてもらってるよね……。今度クラウスさんにお礼をしよう。
クレルは「私はこのままでいいわ」と言って陽のあたる場所に腰かけ、ミヤさんが私に化粧をしている姿を見ている。
ミヤさんは、クラウスさんのお屋敷に12才の頃から働き始めて今年で8年目になるそうだ。クラウスさんの客人という事で丁寧に対応してもらっていたが、年も近いので普通に話して欲しいとお願いした。
「リゼさんの肌ってすごくキメが細かいわよね。どんなお手入れしているの?」
「自分で作ったのを使ってるの」
ポーションとは言えないので、嘘ではない程度に伝えるとミヤさんは目を輝かせた。
「そうなの? 凄いわね、私にも譲ってもらえないかしら? もちろん代金は払うから」
クレルの方をチラッと見ると、肩をすくめている。特に問題ないって事かな。
「じゃあ、今度クラウスさんに渡しておくね」
ミヤさんは「えっ! 旦那様に……? 叱られないかしら」としばらく何かと戦っていたが、勝負が決まったのか顔をあげると「お願いするわ」と言った。
しばらくそんな話をしていると、どうやらメイクも終わったようだ。
「出来たわ。目はぱっちりして、まつ毛も長いし素材もいいから化粧映えすると思ってたのよ。派手にならないように出来るだけ自然な感じにしてるけど、我ながら素晴らしいわ!」
「すごい……」
鏡を見ると別人のようだ。ミヤさんの技術に感動していると、今度は髪をセットし始めた。希望を聞かれたが、後ろに1つに結ぶ以外した事ないのでおまかせすることにした。
「髪もサラサラね。羨ましいわ、王都でも香り付きの石鹸が流行ってるけどリゼさんも使ってるの? 爽やかないい香りね」
香り付きの石鹸かぁ、使ってみたいな。
髪もポーションで洗っているけど、最近は肌用と髪用の2種類を作っている。髪用には作る時にオレンジの乾燥した皮を一緒に入れている。色々試してみたけれど、オレンジの香りが1番好きだった。
「完成よ、後ろを編み込んで1つにまとめてみたの。髪飾りがあればもっと良かったんだけど」
ちょうど完成した頃にクラウスさんが部屋にやってきた。ミヤさんは、後ろに下がると挨拶をして部屋から出ていった。
「クラウスさん、色々用意してくださってありがとうございます」
クラウスさんは私を見て「化けたな」と言うとアルヴィンさんが屋敷に着いた事を教えてくれた。
「下で待っているから準備が終わったら来てくれ」
クラウスさんは、それだけ知らせるとクレルのところに行き「とてもお似合いです」と言って部屋を出て行った。
相変わらずのクレル贔屓びいきだ、別にいいけど。
ジェフさん達に渡す荷物を用意していると、クレルが側にやってきた。
「リゼとっても可愛いわよ。今日は楽しんできてね。黒髪がいるから大丈夫だと思うけど、何かあったらすぐに行くから安心して」
黒髪ってアルヴィンさんの事だよね……。
クレルも意外と過保護のようだ。でも気持ちは嬉しいので素直に頷いておく。しかしクレルの方が心配だ、王宮で嫌な魔力を感じたと言ってたし。
「クレルも気をつけてね、謁見の間での事もあるから」
お互い心配し合ったところで、クレルが「そろそろ行かないと黒髪が待ってるわね」と言ったので急いで部屋をでた。
途中、クレルにはアルヴィンさんの名前をしっかりと覚えてもらった。
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