第25話 クレル元気になる

 クレルが大きくなってる……?


「リゼの魔力が多すぎて元の姿に戻ったみたい」


 身長は150センチ位だろうか。

 大きくなったクレルもいい!

 自分ひとと同じくらいの大きさでみると、殊更可愛さに圧倒される。

 可愛さに興奮し過ぎてクレルの周りをグルグル回っていたら、落ちつかないと叱られた。


 あっ、ない!


「クレル、羽がなくなってるよ!」


「羽は魔力で作ってたの。小さい時は羽がないと移動が大変だから。今は必要ないわ」


 魔力で羽まで作れるってすごい。服も一緒に大きくなってるし不思議だ。


 次の瞬間、部屋に金色の粒子が集まってその中からクラウスさんが現れた。


「大丈夫か? 急激な魔力の変化を感じたが」


 部屋で休んでいたのだろう、急いで来たのかシャツのボタンが上2つ外れていた。


「大丈夫よ、リゼが私に魔力をくれたの」


 質問に答えたクレルを見たクラウスさんは、何か言おうとしては言葉にならず手を口に当てて固まっている。

 うん、わかるよクラウスさん。クレル好きの仲間としてはこの姿は堪らない。異性の方がインパクトは強いだろう。


 クラウスさんは年上好きだと言っていたが、今のクレルは18才位の女の子に見える。精霊だとその辺は気にならないのかな。さっきまで固まっていたクラウスさんに突然ほっぺを片手で挟まれた。


「なにふるんでふか……!」


 口がタコみたいになって上手く話せない。


「年上好きだというのは周りが勝手に言っているだけだ。先生を探していたのを勘違いした奴らの話が広まったんだろう」


 どうやらクラウスさんは私の考えていた事がわかったらしい。

 なるほど、そういう理由で年上好きと言われるようになったのか。

 おばあちゃんの事本当にずっと探していたんだね。……クラウスさんと私がこうして知り合って、こうして一緒にいるなんて、おばあちゃんびっくりするだろうなぁ。


 クラウスさんは私のほっぺから手を離すと、クレルに明日一緒に王都の公園に行かないかと誘っていた。


 それ、私がクレルを誘うつもりだったんだけど。

 それに明日はアルヴィンさんの仕事も受け持つと言ってましたよね?


「しばらくは人型このままだと思うから行くのは構わないけれど、精霊の魔力は人間と違うから気付く人間がいるんじゃないかしら?」


 人は魔力を大気や大地から取り込んで体内で自分の魔力と混ぜて使うけれど、精霊は自然そのものでもあるから、わかる人が見ると純粋な魔力の塊に見えるらしい。


「大丈夫です。今から魔力の性質を誤魔化す魔術具を作ってきます。では、明日昼頃に屋敷を出発しましょう」


「わかったわ、リゼも行くんでしょ?」


「リゼは、明日アルヴィンと王都の知り合いに会いに行くようです」


 クラウスさんは、私が答えるより早く返事をした。

 アルヴィンさんとジェフさんの家に行くけれど、クレルと王都の公園もいきたい。

 花を愛でるクレルを見たいのだ。

 私の気持ちなど露とも知らず、クラウスさんとクレルの公園行きは決まってしまった。


「リゼ頬が真っ赤だぞ、明日はアルヴィンと会うのだから少しは肌の手入れをしていた方がいいんじゃないか?」


 信じられない、誰のせいだと思っているのか。ほんの数分前の事を忘れたとは言わせないからね!


「頬が赤いのはクラウスさんのせいです!」


「そうか。それより早く寝た方がいいんじゃないか? 夜更かしは肌の大敵というのだろ?」


 全然わかってない!! むしろ今の敵はクラウスさんだ。

 クラウスさんはクレルに「ではまた明日」と挨拶をすると、私に「お風呂に入るなら好きに使っていい。話はしておく」と言い残し魔道具を作らねばと足早に部屋を出て行った。

 魔道具ってそんなに簡単に作れないんじゃ……。クレルの為なら何でもしそうで怖い。


「クラウスさんと2人で明日大丈夫?」


「別に構わないわ。木々や花のある場所に行くのは嬉しいから。クラウスも害のある人間ではないし、光の魔力はお母様の魔力に似てるから好きなの」


 ま、まさかクレルもクラウスさんが好きとか言うんじゃないよね……? 


「リゼって本当に顔にでるわよね。それに明日はデートなんでしょ? 邪魔しちゃ悪いもの」


 ぶっ!!! 


「デートじゃないよ! ジェフさんのところについて来てもらうだけだから。クレルとも一緒に行くつもりだったし、アルヴィンさんは仕事なの」


 クラウスさんが変な事言うからクレルまで勘違いしてるじゃないか。女の子扱いされるのに慣れてなくて恥ずかしいだけなのだ。

 あのドキドキだって男性への免疫力のなさからくるものなのだ。


「いいわよ。私はクラウスと出かけるから」


 にんまりするクレルを見ながら、クラウスさんの影響を受けつつあるから引き離してやろうかと密かに思った。


「それに黒髪の人間も、かなりの魔術師だと思うからリゼを1日くらい任せても大丈夫でしょ」


「アルヴィンさんも魔術師なの?」


「クラウスほどではないけれど、強いと思うわ。リゼは森に帰ったら本格的に魔術の訓練が必要ね。相手の力量がわかれば便利よ。危険にも近付かなくてすむし」


 クラウスさんを完全に掌握してたから秘書かと思ってた。そっか、アルヴィンさん魔術師なんだ。



 その後2人でお風呂に入ったのだが、クラウスさんが事前に客人が1人増えたので丁寧に対応するようにと伝えていたらしく可愛いワンピースのネグリジェまで用意してあった。

 クラウスさんのクレルが絡んだ時の手際の良さに、クレルへのガードを強める事を決意した。

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