第20話 いざ王都へ

 びっくりした……。

 ひとまずクラウスさんに挨拶をする。


「こんにちは、急に現れないで下さいよ。びっくりするじゃないですか」


「あぁ、すまない。それで今のは何なんだ?」


 全くすまなさそうじゃないクラウスさんに、ポーションを作っていたと説明した。


「誰か怪我をしたのか? まさかクレル殿が??」


「私がどうかしたのかしら?」


 クレルがお姉さんたちと一緒にやってた。

「もうそろそろ来る頃だと思ったわ」とクラウスさんに話しかけているが、肝心のクラウスさんは目を見開いて完全に固まっている。


「信じられない、なんでこんなに精霊がいるんだ……」


 お姉さんたちはクラウスさんに興味があったらしく

「本当に精霊の加護持ちなのね」「誰の加護かしら? 加護が薄まっていてはっきり分からないわね」となどと話している。


 どうやら、クラウスさんの加護に興味があったようだ。しかし、全く動かないクラウスさんに飽きたのかクレルとお姉さんたちは温泉の方に飛んで行き、足湯を楽しみはじめた。


 クラウスさんは錆びた鉄のように、ギギギと音がしそうなくらいゆっくり首を私の方に回してきた。


「順番に説明してくれ」


 うーん、まずはポーションの事から話せばいいのかな?


「見てのとおりクレルは元気です。これは王都の家族に渡すお土産なんです」


 クラウスさんは何を言ってるんだという顔で「お土産にポーションとは意味がわからない。詳しく頼む」と頼まれたので詳しく話す。


「ポーションって肌にすごく良いんですよ。ツルツルすべすべになるし、髪にも艶が出るんです。なのでお土産に持って行こうと思って作ってたんです」


「私の知っているポーションの作り方と使用法が違うようだが……」


「加護の水と緑の魔力と精霊の花ですぐ出来ちゃうんですよ!凄いですよね」


「精霊の花だと!? 文献で見たことはあったが本当に実在するのか! 私にも少し譲ってくれ。しかし、それだけの加護や魔力を使って作ったポーションを化粧品代わりに使うなんてとんでもなく贅沢だな」


 その分効果は絶大なのだ。

 クラウスさんは、さり気なく精霊の花をおねだりしてきた。あ、そうだ。ちょうどいいからお風呂の事を聞いておこう。


「クラウスさん、実はお風呂を作りたいんですが作り方知ってますか? ポーションのお風呂に私も入りたくて。精霊の花と交換でどうですか?」


 精霊の花の交換はクレルのアイデアだ。きっとクラウスさんなら欲しがるから、何かあったら交渉の材料に使ってもいいからと。

 精霊の花は沢山咲いているし、お風呂が出来たらクレルもお姉さんたちもみんなで入れる。

 今、交渉に使うしかない。


 なんとも言えない表情で私を見ているクラウスさんの返事を待つ。


「風呂を作りたいなら私が職人を紹介しよう、一応聞くがポーションのお風呂とはなんだ?」


 私はポーションを沸かしてクレルがお風呂として使ってるので自分も入りたい事と、昨日新しく畑を作ろうとしたら温泉が湧き出たのでこれを利用したい事を伝えた。

 やはりはポーションのお風呂とポーションで体を拭くのでは、効果に差が出るのだ。それから精霊の説明をする。


「精霊のお姉さんたちは、私が王都に行ってる間この畑の水やりをお願いしていて、それで精霊の里から来てもらってます」


「水やりのために精霊を呼んだだと? 君は一体なに者なんだ」と言うクラウスさんの目はまるで変態を見るような目だった。


 何者かと聞かれても困る。

 精霊お姉さんたちが来てくれるのは、私の力ではないのだ。

 クレルのお願いでなければ実現しなかった事だ。

 そもそも、私はただの森に住むただの娘なのだ。


「クラウスさん、私は何もしてないですよ。すごいのはクレルです。ところでこれからどうするんですか? 王都むこうでの予定とか全然聞いてないんですけど」


 クラウスさんは、全く納得いってない様子でこれからの予定を話してくれた。


「まず今から王都の私の屋敷に行く。そこで私の部下に会ってもらいたい。その後君の準備を終わらせたら王城に向かう」


 私の準備に……王城?? まさか……。


「準備ってなんですか? 私も王城に行くんですか?」


「今日一番の驚きだな。君は私の話を聞いていたのか? 陛下と貴族の承認を得るんだ、勿論君にもその場に来てもらう」


「いやいやいや! 聞きましたけど聞いてませんよ」


 王都に行って保護を求める話は聞いたけど、契約書か何かにサインする位であとはクラウスさんが話をしてくれるのだと思っていた。

 平民の私が貴族やまして陛下の前に出るなんて……。


 無理! 無理です!!


「何を言っているのか全く分からないが、決定事項だ。陛下には事前に話をして保護の了承はすでにもらっている。上位貴族に向けてのデモンストレーションだと思ってくれ。それに君たちの身の安全の為にも必要だぞ。では準備が出来ているなら出発するが大丈夫か?」


 なかば放心している私を脇に抱えると、足湯を楽しんでいたクレルを呼んで私が準備していた荷物をテキパキと集め始めた。

 さっきとは別人のような完璧な挨拶を精霊たちにすませると、クラウスさんは転移魔法を使った。




「クラウスさん、最初はクラウスさんの家に行くと言ってませんでしたっけ?」


「まぎれもなく私の家だ」


 豪華な屋敷の一室に着くとクラウスさんは私をささっと離し、部屋にいた若い女性に湯浴みをさせるようにと指示を出した。

「1時間ほどしたら戻る」と言って部屋を出て行ってしまった。


 準備と言ってもなにをしたらいいのかわからない。クレルも今はペンダントの中に入ったままだ。


「はじめまして、メアリアと申します。本日リゼ様のお世話をさせていただきます。よろしくお願いします」


 ブラウンの髪を後ろで結んでピシッと背筋を伸ばしたメアリアさんが挨拶をしてくれた。


「よろしくお願いします。あの、様はなくて大丈夫です。私、その平民ですから」


 リゼ様なんて恥ずかしくてどんな顔して聞いていいかわからない。メアリアさんは少し迷ったあとに「では失礼してリゼさんとお呼びします」と言ってくれたので助かった。

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