第21話 アルヴィンさんとの出会い
メアリアさんに案内されお風呂についた。
お風呂ここに来るまでの廊下も凄かったが、お風呂はまた壮観だ。
白を基調としているが壁に沿うように緑が多く置かれていた。窓からは太陽の光が差し込み、中央にある浴槽のお湯に反射してキラキラと輝いている。
「素敵ですね。まるで森の中にいるみたい」
「奥様のご趣味です。森の中にある泉をモチーフに作られたと聞いております。木々も特別な加工をしてますので枯れることもないのですよ」
えっ! クラウスさん結婚していたのか……。
年も30くらいに見えるし、別におかしい事は無いけれど自由人なイメージが強すぎてどこか意外におもえた。
「あの、奥様にご挨拶せずに使って大丈夫ですか?」
クラウスさんに女心がわかるとは思えない。女性わたしを脇に抱えて転移するような人だ。こだわって作ったお風呂に知らない平民の娘が入るのだ、気にならないはずがない。
「大丈夫でございます。クラウス様の指示でもありますし、奥様も旦那様もこのお屋敷にはいらっしゃいませんので」
お屋敷にはいない? 奥様も旦・那・様・も??
「クラウスさんの奥様では?」
「いいえ、クラウス様のお母様でございます。クラウス様はまだ独身でいらっしゃいますので。では、時間もありませんので湯浴みいたしましょう」
やはり独身だったかなどと、失礼な事を考えた罰か初めてのお風呂は波乱万丈だった。
「なんだそんな疲れた顔をして、風呂は気に入らなかったのか?」
2時間後、疲れ果てた私を見てクラウスさんが聞いてきた。お風呂は毎日でも入りたいくらいに素晴らしかったし気持ち良かった。
問題はメアリアさんだ。
王城へ上がるという事で、すみからすみまで洗われたのだ。自分で出来るから大丈夫だと言っても、仕事ですからと全く取り合ってくれず恥ずかしくて倒れそうだった。
その後、ドレスを着る事になったのだがクラウスさんが謁見用に子どものドレス用意するように伝えていたらしく入るドレスが無かったのだ。
何才くらいの子どもなのか確認しようにも、クラウスさんが忙しくこの2日間全く連絡が取れなかったので、準備をするメアリアさんはとにかく大変だったようだ。
仕方なく5〜12才までのサイズのドレスを用意していたのに連れて来たのはもうすぐ18才になる私だ。
結局、アメリアさんが用意したドレスは使えないので、急いで王都の仕立て屋を呼んで店にある限りの一級品を持って来てもらった。
その中からなんとかドレスは決まったが、これでは陛下に会うには相応しくないとメアリアさんがクラウスさんに静かに怒りをぶつけていた。
アメリアさんがダメだと言ったドレスも、私にしたら一生見ることもできないような素敵なものだ。
これが陛下に会うために着るドレスでなければウキウキだったんだけどなぁ。
謁見なんて本当に大丈夫かな……。陛下にお会いするなんて、恐れ多くて今からでも森に帰りたい。
アメリアさんのただならぬ気配に気付いたクラウスさんは、すぐ部下に連絡し宮廷魔術師のローブを届けさせた。それを見て、やっとアメリアさんは納得したようだった。
仕立て屋の主人も、陛下との謁見に着るようなドレスは何ヶ月も前から用意するものなので店には置いていないと申し訳なさそうに謝っていた。
なので、私はドレスの上にクラウスさんから受け取った緑色のローブを着ている。
ローブでドレスは見えないから、買わなくてもいいんじゃないかと言ったらメアリアさんに笑顔で叱られた。
この緑色のローブは、宮廷魔術師が謁見や式典などに着用するものらしい。
ドレスも素敵だったけど私はローブこっちの方が嬉しい。魔法使いに憧れる身としては夢のようだ。
それにしても、クラウスさんの子どもの基準がわからない。
ようやく準備が終わったころ部屋にノックの音が響いた。
扉が開いて部屋に入って来たのは、黒い髪を後ろにながし黒縁メガネをかけた私以上に疲れた顔をした男の人がだった。
「クラウス様、あなた加護持ちの方は子どもだとおっしゃってましたよね? リゼさんはどう見ても子どもではないでしょう。正確な報告は基本中の基本です。ご自分の価値観と世間のズレをしっかり把握してください」
疲労感をまとった男性は、部屋に入るとツカツカとクラウスさんの前に立ちお説教をはじめた。
眼鏡をぐいっと左手で上げながら、全く笑っていない目で口元はほほ笑むという器用な事をしている。
ボソッと「年上好きにも困ったものだ」と言っていた。
ほーう、クラウスさんは年上が好みなのか。私が子どもに思えるとなると、クラウスさんの思う大人は40才以上だろうか……。
「アルヴィン、俺は別に年上が好きなわけじゃない! リゼ、若い娘がニヤニヤするな」
おっと、叱られてしまったが別に年上好きに偏見などない。クラウスさんも口調が崩れてるし図星なのかな? クレルもペンダントから「だから独身なのかしら」と納得している。ずっと静かだったので寝ているのかと思っていたが、ペンダントの中から見ていたようだ。
「人生経験豊富な方に惹かれるのは別におかしな事ではないですって……痛い痛い痛いです!!!」
おかしい、フォローしたのにホッペを思いっきりつねられた。
「茶番はおしまいだ。リゼ、部下のアルヴィンだ。君の側にはアルヴィンが付く。わからない事は彼に全部聞いてくれ」
クラウスさんは自分のミスを無かった事にしアルヴィンさんを紹介した。どうやら、このローブを届けてくれた人のようだ。
「リゼさん、急な話で戸惑ったと思いますが来ていただきありがとうございます。何があっても必ずお守りしますのでご安心ください。早速ですが、謁見について話をしましょう」
アルヴィンさん曰く、基本的に私は話す事はないらしい。クラウスさんが上級貴族の前で保護の承認を求め、陛下から私に保護する旨を告げられたら深くお辞儀をして終わりらしい。
それなら何とか出来るかも。
謁見が30分後にせまり私たちはクラウスさんの屋敷から、王宮のクラウスさんの執務室へ転移した。
「大丈夫ですか?」
執務室に着くとアルヴィンさんが紅茶を出してくれた。
美味しい!
今まで飲んだ中で一番美味しかった。
「はい! とても美味しいです」
アルヴィンさんは、優しく笑うと「ありがとうございます」と言ってクラウスさんにも紅茶を出している。
「アルヴィンの紅茶はうまいが、大丈夫かと聞いたのは味の話じゃないぞ。転移魔法酔いの心配だろ? リゼは魔力への適応能力が高いのか初めて屋敷へ転移した時も平気だったな」
転移酔いとかあるんだ。
魔力については知らない事ばかりだなぁ。
「さて、行くか」
紅茶を飲み終えたクラウスさんが立ち上がった。
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