第17話 クラウス帰還

 机に積まれた書類以外は整理された部屋に金色の光の粒が螺旋を描くと次の瞬間、黒ローブを纏ったクラウスが現れた。


「おかえりなさいませ、西の方の調査はいかがでしたか?」


 クラウスはローブを脱ぐと椅子にバサリとかけながらアルヴィンを見る。嬉しそうな顔を見ると良い収穫があったようだ。その顔だけでご婦人方が頬を染めそうだ。


「アルヴィン、驚け。西の森に精霊と加護を受けた子どもがいたぞ。しかも緑の魔力持ちだ」


 紅茶を用意をしていた手が一瞬とまる。

 精霊だけでも最近報告されたのは80年振りではないだろうか。昔は加護を授かる者も少なからずいたが、精霊の力を求め捕らえようとした愚か者たちのせいで人里に現れなくなってしまった。

 その上、加護持ちで魔力持ちか……忙しくなりそうだな。


「それで保護出来そうなのですか?」


 紅茶を差し出しながら問う。クラウス様は私の反応が薄いと不満そうだがこれでも十分驚いている。


「あぁ、2日後に迎えに行く。明日陛下に謁見を申し込む。時間は任せる、無理やりねじ込んでくれ。バカな貴族連中が手を出せないよう早急に保護を承認してもらう。それに国外に話が漏れると面倒だ」


 ずいぶんな言いようだが、国益を考えると正しい判断だ。一息つくように紅茶を飲むクラウス様に残りの仕事を頼む。


「わかりました。そのように手配をいたします。クラウス様は魔獣の件の書類をお願いします。今日中に魔術部こちらの見解を出すと騎士団に話していますので」


「ブッ!!! いくらなんでも今日提出は無理だ」


「おや、出発前に帰ってからまとめると仰ってましたが? 」


「うっ……おい、朝より増えてないか? 」


「気のせいです。それとクラウス様、紅茶のかかった書類は書き直しでお願いします」


  2日後となると色々急がなければ。クラウス様は宮廷ここに敵が多い方だ。精霊と加護持ちの実質的な庇護者となり力を増すことを嫌う者たちが理由を付けて反対してくる事もあり得るな。

 彼らを黙らす為にも支持者は必要だが。口が硬く信用できる人物……まずはブランシェット候に話を通すか。




 チュンチュンといつもの鳥たちの声で目を覚ました。


 昨日はぐっすり寝れた。


 きっとクラウスさんのおかげだ、非常に疲れた。

「よく寝たわ」と言って起きて来たクレルも私と同じ気持ちだろう。


「今日は街に行く予定だけどクレルはどうする? 」


「もちろん行くわ、私が一緒の方がリゼを守りやすいもの。昨日のクラウスの話もあるから念の為ペンダントに入って隠れておくわ」


 それがいい、クレルが捕まるなんて絶対嫌だ。

「万が一の時はすぐに助けるから」と言うクレルを私が守れたらいいのにな。


「ねぇクレル、私の力で危険から身を守る方法とかあるかな? 」


「相手によるけれど、使い方次第ではもちろん出来るわ。私の加護で水の力は使えるし、緑の魔力は癒しと守りに使えるから。だけどリゼが大きな力を使うには訓練が必要よ? これから少しずつ練習ね」


 よし! 頑張ろう。目指せ精霊クレルの守護者!! と気合いを入れる私に「加護を与えた私がリゼの守護精霊なんだけどね」と言っている。


 ……実は加護ってどんなものなのか、はっきりわかってないんだよね。


「精霊は加護を与えた人間を守るの?」


「それは精霊によるわね。加護だけを与える精霊もいれば、最後までその人間を見守る精霊もいるから。加護には祝福と力の2種類があるの。祝福の加護は前者で力の加護は後者の事が多いわ。リゼに与えたのは力の加護よ。だから私は最後までリゼと共に過ごすわ」


「クレル……ありがとう」


 じんわり胸が熱くなる。


「ところで王都へ行く前の準備は大丈夫?」


 そうなのだ、クラウスさんはクレルにカッコつけたらすぐ帰ってしまったので王都までどう行くのかも滞在期間も聞いていない。


「馬車を用意してくれるのかな?」


 大雑把に計算して、行き帰りで6日、王都に2日滞在したとして8日間ほど家を空ける事になるのかな。

 今日、街へ行ったらバンさん達にも王都に行く事を伝えて2回分の納品を明日の分にまとめさせてもらおう。緑の魔力で野菜も1週間位なら傷まないからお願いすれば大丈夫だろう。


「クラウスが来ると言ってたから転移魔法じゃないかしら」


「えっ? 私たちも魔法で運んでもらえるの??」


「迎えに来るのが2日後と言ってたくらいだし、急いで保護したいんだと思うわ。移動に何日もかけるとは思えないわね」


 そう言われたらそうだ。わぁー転移魔法か、ちょっとワクワクしてきた。

 そうなると問題は一つ、畑の水やりなんだよね。どちらが大事かと言われたらもちろん私とクレルの安全なんだけど、畑が枯れたりするのは嫌だなぁ。


「どうしたの? 王都に行きたくなくなった?」


「違うの、畑の水やりどうにかならないかなと思って」


 クレルは少し考えると「そうだわ! お姉さま達に留守の間、この家と畑の管理を頼みましょう! 里に行ってくるわ。すぐ戻るから」と言うと精霊の花から里に行ってしまった。


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